まず指摘すべきことは、かつて同じく民進党から立候補して総統になった陳水扁(チェン・ショイピエン)氏と比べて、選挙における蔡候補の状況は、ある部分では楽だが、別の部分では困難だという点だ。一方で民進党は、台湾全島規模での国家統治の価値ある経験を手にしている。民進党は、陳氏が総統を務めた2000年から2008年の間のあまり成功したとは言えない統治経験、そして支持率の深刻な低下から、言うまでもなく教訓を引き出したことだろう。これに関連して、蔡候補と彼女のチームは、競争相手に非難の口実を与えないよう、最大限注意を払うに違いない。
新しい世代の有権者の登場という意味で、特筆される現象となったのは、昨年の春から夏にかけて展開された「ひまわり運動」だった。そこでは、若者の間で、中国との統合の不可避性について訴える美辞麗句が、多様に受け止められ、時には否定的反応を呼び起こすことを、これまで以上に示すものとなった。専門家の一部は、台湾政治の第三の勢力として、完全に新しい政党「新時代党(中国語では時代力量)が組織される可能性がある事に注目した。この政党は、半世紀にわたる若者達の抗議の気持ちを形にするものとして生まれたものだ。
TPPへの参加が、必要な配当金をもたらしてくれるかどうか、それは全く分からないが、中国当局との関係冷却化は明らかに、マクロ経済的状況の改善を促すことにはつながらない。なぜなら、現在に至るまで、中国本土と台湾との間の経済的相互関係には、非常に大きなものがあるからだ。近代化された台湾の発展、特にビジネス界にとっての中国というファクターの重要性を理解しつつ、蔡候補は、選挙戦の中で、最大限の注意深さを持って様々な発言をしている。彼女は、国内の有権者ばかりでなく、国際社会に向けても「自分が総統の座についても、新政府の政策においては、いかなる激変もないから、心配には及ばない」と伝えようとしている。そうしたことから、恐らく蔡英文氏が総統になっても、台湾と中国本土との建設的関係は保たれるに違いないと思う。