プーシキン美術館の敏腕キュレーター、外務大臣表彰受賞!日本美術への愛が結実

© Sputnik / Vladimir Astapkovichプーシキン美術館
プーシキン美術館 - Sputnik 日本
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12日、在モスクワの日本大使公邸で2016年度外務大臣表彰の授与式が行われた。ロシア関係者の受賞は7名。モスクワでは、東洋版画・絵画上級キュレーターのアイヌーラ・ユスポワさん(プーシキン記念国立造形美術館)と、ロシア将棋連盟会長のイーゴリ・シネリニコフさんが受賞した。外務大臣表彰は、国際関係の様々な分野で活躍し、日本と諸外国との友好親善関係の増進に多大な貢献をした個人や団体に贈られるものだ。

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ユスポワさんは美術を通して、日本とロシアの文化交流を常に促進してきた。ロシア国立東洋美術館、クレムリン美術館、そしてプーシキン美術館と、芸術大国ロシアの名だたる美術館で勤務し、一貫して日本文化や日本美術に関連した企画に携わってきた。

プーシキン美術館といえば日本ではルノワールなどのフランス絵画のコレクションが有名で、日本巡回の際に大行列に並んだ人も多いのではないだろうか。エカテリーナ二世やロマノフ王朝の歴代皇帝が収集してきた名画の数々の質の高さは、フランス本国もうらやむほどだと言われている。

しかし、プーシキン美術館の魅力はそれだけではない。ユスポワさんは昨年、自身が担当した「樂-茶碗の中の宇宙」展でセンセーションを巻き起こした。この展覧会自体は、米国やサンクトペテルブルグでも行われたのだが、プーシキン美術館だけで来場者を13万人も集めたのは特筆に値する。プーシキン美術館のマリーナ・ロシャク館長は「この種の芸術は、鑑賞者にも深い理解を要求するので、こんなに多くの来場者が来るとはとても予想できなかった。我々の美術館では、2018年に日本についての定例展覧会を開こうと思っており、それは成功すると確信している」と話した。

ユスポワさんは外務大臣表彰の受賞にあたって、スプートニクに次のように述べた。

ユスポワさん「私は幾らかのきまり悪さ、困惑のような気持ちを感じています。名誉ある外務大臣表彰に、果たして自分が値するものかどうかと。私はまだ自分の功績の上にあぐらをかくような年齢でもありませんし、まだまだ働く所存です。

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私の成果は、私が日本芸術に触れるきっかけとなった本の著者、ナタリヤ・ニコラエワ、ナジェージダ・ヴィノグラードワ、ベアタ・ヴォロノワといったロシアの日本文化研究者や、何世代もの美術学者を育ててきて、また私自身も学んだモスクワ大学や東京大学の素晴らしい教授の方々の功績に比べれば、そんなに大きいものではありません。私はこの表彰を、ある意味で前払いだと思って、もっと力を込めて働くための原動力であると捉えています。

ロシアの一般大衆は、ヨーロッパやアメリカの人々と比べますと、日本の芸術に馴染みが深いとは言えません。日本の芸術で大衆に知られているのは、浮世絵ですね。何といっても浮世絵は、日本芸術の最高峰に位置するものです。私はロシアの人々が、『源氏物語絵巻』や琳派の絵、素晴らしい伊藤若冲の作品を見ることができたら、と夢見ています。

私は人生のすべてにおいて自分の好きなことができて、本当に幸せな人間だと思います。毎日、日本の芸術作品の原作や原画を目にすることができ、それら作品や文献を研究しています。そしてその知識をロシアの人々に分かち合える可能性があるのですから、こんなに幸せなことはありません。」

ユスポワさんの受賞に、日本の関係者も喜びに沸いている。ユスポワさんと親交の深い、東京大学スラヴ語スラヴ文学専修の楯岡求美(たておか・くみ)准教授がお祝いのメッセージを寄せてくださった。以下、楯岡准教授のメッセージ全文をご紹介する。

アイヌーラ・ユスポワさんの受賞に寄せて

アイヌーラさんは、お会いするといつもニコッと笑ってくださる。つい失礼ながら、かわいらしい、と思ってしまうのだが、雰囲気の柔らかさに反してその活動のエネルギッシュさたるや、小型台風のようなのだ。この春に来日された際も、「この数年、公私ともいろいろあって、もうくたくたです。」とおっしゃりながら、毎日3-4件の美術館の展覧会を巡り、合間に打ち合わせをするという超人的スケジュールをこなして爽やかにロシアに戻って行かれた。これが部門長を務めあげたご褒美の「休暇」だというのだから、凄い。日本美術への愛と情熱が服を着て歩いているとはこのことである。

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お父さんが外交官として日本に勤務していたことが日本との出会いだったそうだが、絵と文字とが組み合わさってできていることの多い日本の浮世絵を含む版画を学ぶのは、並大抵の苦労ではなかったようだ。当時、日本語の授業は東洋学にしかなく、美術史の学生には履修できなかったため、自助努力しかなかったそうである。また、ソ連では歴史も言語も異なるインド、中国、日本が東洋美術としてざっくりとひとまとまりにされ、専門家はまんべんなくすべてを学ぶよう求められ、なかなか専門的に深めるのが難しかったという。かつては国外に出るのも難しかった時代には、研究書だけを手掛かりに想像を膨らませていたわけだが、アイヌーラさんは可能な限り作品そのものを観ることで研究を行えるようになった新しい世代の研究者・学芸員である。東大に留学して広く日本の文化を学び、直に日本の生活に触れ、作品を直接調査するといった、素材に忠実に向き合い、理解するための努力を惜しまない人である。経済危機などの障害を乗り越えての努力である。

このような真摯な研究姿勢が彼女の企画する展覧会を魅力的なものにしている。例えば、プーシキン美術館で昨年開催された「樂-茶碗の中の宇宙」展も大評判で、大勢の見学者が押し掛け、話題となった。茶道の樂茶碗という、日本でも少しとっつきにくい印象を持たれてしまうものの美が、日頃日本文化に触れることの少ないロシアの人々に受け入れられたのは、アイヌーラさんが、日本美術の美的感性を多くの人々に対して開くことができた素晴らしい成果だと思う。好きなものをただ見せるだけではなく、作品の背景や手法を研究によって解き明し、来館者が理解できるように提示することで、美術館が文化の懸け橋となったのである。

そんな彼女の陰の努力の一端を知るものとして、今回の受賞は、とてもうれしいし、心からお祝いを申し上げたい。アイヌーラさんは日ごろから、美術の分野での日露間の継続的な交流がまだないことをとても残念がっていて、その通りだと思う。ロシアの日本美術への関心はとても高く、ロシアにも日本に紹介したら素晴らしい作品がまだまだ知られていないまま眠っている。この賞の授与が、これまでの成果に対する表彰として終わるのではなく、今後の企画や交流の始まりとなってくれることを切に願っている。

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