ガスプロムの政治経済学(2016年版) (5)

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近く刊行する予定の『ガスプロムの政治経済学(2016年版)』(Kindle版)の第1章の途中からその抜粋を紹介したい。

第1章 経済的側面からの考察

2.  LNG輸出

(1) LNG輸出の実績と今後の戦略

つぎに、液化天然ガス(LNG)の輸出面からガスプロムの戦略などを分析してみよう。The LNG Industry in 2015という国際LNG輸入者グループ(International Group of Liquefied Natural Gas Importers, Groupe International des Importateurs de Gaz Naturel Liquéfié, GIIGNL)の報告書によると、2015年のLNG供給量は前年比2.5%増の2億4520万トン(5423.6億㎥)だった。LNG生産能力は2015年に1440万トン増え、3億800万トンに達したという。LNGの最大の輸入国は日本(8505万トン)だが、2014年に比べてその輸入量は4.7%減少した。第2の輸入国である韓国(3342万トン)も11.2%の大幅減となった。半面、中国は2002万トンを輸入し、前年比5.5%の伸びを示している。

LNGの輸出国をみると、第一位はカタールである。2015年の輸出量は7840万トンで、2014年に比べて2.7%増加した。第二位はオーストラリアで、輸出量2945万トン、前年比24.8%も増加した。この結果、マレーシアを抜いて第二位となったわけである。マレーシアは前年比0.6%増加したが、その輸出量は2499万トンにとどまった。この3カ国のシェアをみると、カタールが32.0%、オーストラリアが12.0%、マレーシアが10.2%で、ナイジェリアの8.0%、インドネシアの7.4%、アルジェリアの4.9%、トリニダード・トバゴの4.8%、ロシアの4.3%とつづく。ロシアの輸出量は1057万トンで、2014年比0.1%減少した。

トルコを含むヨーロッパのLNG輸入量(3757万トン)が2015年に2014年に比べて15.8%も増加したことが注目される。とくに、英国が前年比20.1%増の1008万トンを輸入したのが目立つ。イタリアも31.9%増の432万トンとなり、スペインも11.7%増の882万トンにのぼった。北海のガス採掘量の減少やアルジェリアからのガスPLでの輸入減少がLNG輸入増の背景にある。

2015年に増えたLNG生産能力1440万トンのうち、オーストラリアで稼働した二つのプロジェクト(それぞれの生産能力390万トンと850万トン)とインドネシアの一つのプロジェクト(同200万トン)が寄与している。2015年末で、合計で約1億4000万トンもの生産能力になるプロジェクトが建設中であり、うち6200万トン分が米国に位置している。5000万トン分がオーストラリアだ。2016年には、早くも4200万トンの生産能力をもったLNG工場が稼働するとみられており、そのうち2800万トンがオーストラリアで生産されることになる。

LNGによるロシアからの輸出は、現在、サハリンⅡプロジェクトに関連して行われているにすぎない。LNGの計画上の年間生産能力は960万トンだったが、10%増強され、年1000万トン強の生産が可能となっている。図3の下段に示されているように、2015年のLNGの生産量は1082万トンで、2010年以降、ほぼフル生産の状況がつづいている。ただし、2015年以降、最大のLNG輸入国である日本のLNGスポット価格は下落傾向をたどっており、今後の世界的なLNG需給バランスを考えると、ロシアによるLNG輸出の将来性は決してバラ色であるわけではない。

注意しなければならないのは、ガスプロムグループはロシア国内で生産されるLNGだけでなく、海外で生産されるLNGをトレーダーとして買い付け、別の国に売却するという取引も行っていることだ。2014年の同グループによるLNG販売量は3350万トンにのぼり、国内で生産されたLNGのほぼ3倍にまで膨れ上がった。たとえば、イスラエルのタマルプロジェクトで採掘されるガスを液化したLNGを買い付ける協定(年300万トンまで)やコロンビアやカメルーンのLNG買付協定も調印済みである。

図3割愛

2009年4月、ガスプロムは2028年までの期間、サハリンⅡプロジェクトのオペレーターであるSakhalin Energy Investment Company(バミューダ島に登録)のもとから年間14億㎥をLNGの形で買い付けることで合意した。これは、英国に登記されたガスプロムの100%子会社Gazprom Global LNG Ltd.(GGLNG)がSakhalin Energyとの間で2009~2028年にLNGを、年100万トン受け取る契約に対応しているものとみられる。2010年4月、このGGLNGは米国のSempra LNG(Sempra Energyの子会社)との間で、ルイジアナ州にあるCameronターミナルにLNGを供給することで合意した。ただ、契約期間や供給量は公表されていない。Sempra LNGはCameronターミナルの唯一の保有者であり、同ターミナルは2009年7月に稼動したばかりだ。2010年にLNG供給が開始された。一方、2009年、ガスプロムはサハリンⅡプロジェクトに参加しているShellとの間で、メキシコの西海岸にあるターミナル(Energia Costa Azul)と米国へのPLの利用に関して協定を締結した。ガスプロムの米国子会社Gazprom Marketing & Trading USAはノルウェーのStatoilとの間で、2009年12月1日、ガスプロム側が2010年にスタートする、米東海岸のメリーランド州にあるCove Pointターミナルで年5億㎥の再ガス化能力を手に入れることや、Statoilが20年間、そこで使用するLNG20億㎥をガスプロムから購入することなどで合意した。このように、ガスプロムは米国へのLNG輸出に期待をかけてきた。ロシアはLNGによる米国への輸出を行う前の段階で、スワップ契約によって事実上、米国にガスを供給している。2009年9月から開始されたもので、その全貌は不明だが、唯一、フランスのGdF Suezとのスワップ契約が知られている(Нефть и Капитал, No. 1-2, 2010)。それによると、GdF Suezは5年間、毎年、米国にガスプロムの名で約5億㎥のガスを供給する一方、ガスプロムはGdF Suezの英国子会社向けに等価の量を供給するというものだ。2009年末になって、ガスプロムのアレクセイ・ミレル社長は、2020年までにロシアは8000万~9000万トンのLNGを生産し、その一部を米国に輸出、2015年の米国でのシェアは5%、2020年には10%まで増加するとのべた。しかし、非在来型ガス採掘の急増でこの計画にくるいが生じている。ガスプロム自体のLNGでのガス輸出については、以前からさまざまな計画がある。ガスプロムの2015年の年次報告によれば、①バルトLNG(図1の1)、②ウラジオストクLNG(同7)、③サハリンⅡプロジェクトの枠内でのLNG生産能力の拡大(同8)――という三つのLNG関連プロジェクトが存在する。それぞれについて考察してみたい。

①バルトLNG

ガスプロムはかつて計画したことのある、バルト海に面したプリモリスクにLNG工場を建設する計画を復活させつつある。2005年ころ、ガスプロムは米国やカナダにLNGを輸出するためにガスプロムとソヴコンフロートの合弁会社Baltic LNGを設立し、年産700万トンのLNG工場建設を計画したことがある。2007年に、採算に乗らないとして計画は断念されたが、今度は、グループ・スーマの協力を得て、プリモリスクにLNG工場を建設できないか、検討している。この計画が本気であることは、2013年6月、ガスプロムのミレル社長とレキングラード州のドロズデンコ知事が同地域で生産能力年1000万トンのLNG生産工場を建設する議定書に調印したことに現われている。このプロジェクトは、ウスチ・ルガにLNG工場を建設する計画で、Shellが参加することが検討されているという。ノルドストリーム-2のロシア側の出発地としてウスチ・ルガが予定されており、このプロジェクトにShellが参加意向を示していることから、LNG工場の建設地もウスチ・ルガが有力視されている。2016年6月には、両社はバルトLNGに関する相互理解議定書に調印するまでに至った。

加えて、同年7月には、日本の三菱商事と三井物産がこのプロジェクトへの参加に関心を表明したと報道された(Ведомости, Jul. 18, 2016.)。バルトLNGプロジェクトのうち、50%強をガスプロム、25~35%をShell、残りを三菱と三井が保有することが検討されているという。ただし、このプロジェクトは、後述するノヴァテクを中心とするヤマルLNGに対抗して、そのLNGがヨーロッパ向けに輸出されるのを阻止するために、よりヨーロッパに近い場所にLNG工場をつくろうとするものであり、本来、LNGのアジア向け輸出は想定されていない。もちろん、北極海航路を利用したルートが安定的に確保されれば、ウスチ・ルガから日本へのLNG輸出も考えられなくはないが、現状では難しい。

②ウラジオストクLNG

ウラジオストクにLNG工場を建設する計画もある。ガスプロムはヤクートのチャヤンダ鉱区の天然ガスをLNG化する工場を建設するもので、日本、中国などへのLNG輸出が見込まれている。2011年4月、ガスプロムは日本のコンソーシアム、Japan Far East Gas Co., Ltd.(伊藤忠商事、JAPEX、丸紅、INPEX、CIECOが参加)との間で、ウラジオストクLNG工場建設の可能性を共同で探る協定が締結された。2012年3月には、ガスプロム重役会は2013年第一四半期に工場建設への投資根拠を明確にすることを決めた。LNG工場の生産能力は当初の年500万トンではなく、1000万トンになる見込みで、当初、稼働時期は2016~17年が見込まれていた。年産1500万トン、2018年稼働といった計画もあった(Ведомости, Apr. 15, 2013)。2013年6月段階の情報では、2018年までに第一段階として、500万トン規模の工場を建設し、さらに第二段階として2020年までに同じ規模の生産設備を増設する計画で、投資規模は2200億ルーブルにのぼっていた。この工場は「ガスプロムLNG」の所有下で運営され、同社株51%はガスプロムが保有するが、49%は外国企業に売り渡す。その候補者として、上記のJapan Far East Gas Co., Ltd.以外に、韓国の企業などが挙がっていた。

だが、この計画は頓挫している。2016年2月3日付の「コメルサント」紙によれば、「ガスプロムはウラジオストクLNGをすでに公式に非現実的と認識していた」と記述している。記事では、2014年のウクライナ危機を契機にはじまった米国やEUの対ロ制裁導入のなかにガスプロム銀行が含まれたことで、それ以降、ガスプロムと同行との協力がストップし、事実上、大規模なLNGプロジェクトが凍結されていると伝えている。ガスプロム銀行としては、シーラ・シベリアといった特定のプロジェクトへの協力の集中化をはかっており、LNGプロジェクトへの優先順位は低いという。LNGプロジェクトのうち、バルトLNGについては、参加するパートナーとの協議が継続される見込みだが、ウラジオストクLNGについては延期された模様だ(Ведомости, Feb. 3, 2016)。

③サハリンⅡプロジェクト拡張

サハリン州では、すでに稼働しているLNG工場がある。これは、サハリンⅡプロジェクトとして、ガスプロムのほか、Shell、三井物産、三菱商事が参加しているプロジェクトで、第三番目のLNG工場の建設計画がある。ガスプロムとShellは2015年6月、LNG化のための第三ライン建設に関する議定書にすでに署名している。

これに対して、石油会社ロスネフチと、世界的な総合エネルギー会社、Exxon Mobilは2013年2月、サハリンでのLNG生産工場の共同建設計画を検討中であることを明らかにした。ロスネフチはサハリンの北東部の大陸棚にある三つの鉱区などを開発するサハリンⅠプロジェクト(石油埋蔵量は3億700万トン、天然ガス埋蔵量は4850億㎥)の運営会社Exxon Neftegasの持ち分20%を保有している(インドもONGCも20%で、Exxon Mobilとサハリン石油ガス開発[Sodeco]が各30%)。Exxon Neftegasのねらいは、採掘される天然ガスをガスプロムに売却したり、国内で販売したりしても、輸出に比べて価格が低いため、LNG化して直接、海外に売ることでより大きな収益を得るところにあった。このため、ロスネフチやその他の独立系のガス採掘会社は2006年7月18日制定のガス輸出法の改正を働きかけ、2013年11月30日、プーチンは通称「LNG輸出自由化法」と呼ばれる、外国貿易活動の国家規制基本法およびガス輸出法の改正法案に署名し、同年12月1日から施行されるに至る(8)。この結果、LNG化すれば、より高い価格でガスを海外に販売できることになったため、Exxon Neftegasに参加しているロスネフチなどはLNG工場建設を本格化するようになる。

だが、同年4月、プーチンはサハリンⅡで第三工場の建設計画もあるから、調整が必要であるとして、2019年までに年産500万トンのLNG生産能力をもつ工場を1500億ドルかけて建設しようというロスネフチとExxon Mobilの計画に水を差した。同月、ロスネフチと丸紅が極東におけるガス採掘やLNG輸送、およびロスネフチの石油ガス開発許可地区での共同探査・開発のプロジェクト実施協力に関する議定書に調印したことが明らかになった。

サハリンⅠの2012年の天然ガス採掘量は92億㎥にのぼるため、極東へのガス供給をしても、年500万トンのLNG化が可能なだけの余力がある。このため、サハリンで新たにLNG工場を建設する可能性は残されている。ゆえに、2013年6月には、ロスネフチと、日本の丸紅およびSodecoは、ロスネフチから2社がそれぞれ125万トンと100万トンのLNGを毎年買い入れる協定に署名した。また、ロスネフチはトレーダーのVital(スイス・オランダの合弁会社)との間でも年275万トンのLNG供給協定に調印した。このプロジェクトに、インドのONGCや日本のSodecoを引き入れることが検討されているという(Ведомости, Jun. 24, 2013)。

ロスネフチは「極東LNG」と呼ばれる年産500万トンのLNG工場をサハリン南部に建設する計画をたて、当初は2019年からの稼働が計画された。ところが、天然ガスの採掘場所が北部にあるため、ロスネフチは年80億㎥(LNG約580万トン分)のサハリンⅡのガスPLを使った輸送アクセス権の保証を求めた。これに対して、サハリンⅡの運営会社であるSakhalin Energyおよびその大株主のガスプロムはこの提案を拒否、ロスネフチは極東管区連邦仲裁裁判所に訴える事態になった。同裁判所はSakhalin EnergyにPLへのアクセスのための技術的条件をロスネフチ側に与えるよう判決を出した。これに反発したガスプロムは上級審に控訴したが、上級審はこれを棄却した。つまり、サハリンⅡは「極東LNG」向けのガス輸送に協力しなければならない状況になっている。だが、交渉は難航しており、ハバロフスク地方にLNG工場を建設する可能性も残されている。既存の「サハリン-ハバロフスク-ウラジオストク」ガスPLは輸送量に余裕があるため、サハリンⅠで採掘されたガスをハバロフスク地方に送ることは難しくないからである。あるいは、サハリンⅠで採掘されたガスをサハリンⅡのLNG工場向けに販売することも検討されているが、その場合には、販売価格で折り合うことがきわめて難しい状況にある。

「サハリン-ハバロフスク-ウラジオストク」ガスPLは全長は1830km。このPLの年間輸送能力は当初は60億㎥だが、2020年までに300億㎥を計画していたが、それだけのガス採掘もすすんでおらず、需要も見込めないことから計画は頓挫している。サハリンからの天然ガスとしては、サハリンⅠ、Ⅱ、Ⅲのすべてのプロジェクトからの供給を受ける計画がある。当面、サハリンⅡから供給されるが、当初はサハリンⅢから主として供給を受ける計画であった。だが、サハリンⅢプロジェクトの遅れから、他のサハリンプロジェクトからの供給を受けることになった。サハリンⅢプロジェクトには、開発中の四つのブロックがある(7億トンの原油、1.3兆㎥の天然ガスの埋蔵量が見込まれている)。うち三つはガスプロムに属しており、残り一つはロスネフチが持ち分の74.9%、中国のSinopecが25.1%を保有している。2010年、ガスプロムはキリンスキー鉱区の開発に成功した。南キリンスキー鉱区からガスをウラジオストクまで運ぶ、輸送能力年190億㎥の海底ガスPLの敷設が計画されている。なお、このサハリンⅢでの天然ガスは拡張後のLNG工場でLNG化するためのガス源泉としても注目されている。2016年9月、このサハリンⅢの枠内で、新しいガス鉱区の発見が明らかにされた(Коммерсантъ, Sep. 23, 2016)。

ついでに、ガスプロムのLNG化計画のなかで、将来の課題となっているプロジェクトについても紹介しておきたい。有名なのは、シュトクマン鉱区についてである。ガスプロムは2007年の段階で、ムルマンスク州の北550kmの北極海にある、シュトクマン鉱区(天然ガス埋蔵量3.9[3.8]兆㎥、コンデンセート埋蔵量5340万トン)のガス採掘予定量年237億㎥のうち、半分をPLで、半分をLNGで輸送する計画だった。シュトクマン鉱区の開発許可権は「ガスプロム大陸棚採掘」が保有している。PL輸送は2013年、LNG輸送は2014年から行い、LNG化する工場をムルマンスク州に建設、LNGを年750万トン生産する計画だった。

だが、米国におけるLNG価格の低迷などから、シュトクマン鉱区のオペレーターであるShtokman Development(ガスプロムが株式の51%を保有し、Totalが25%、Statoilが24%を保有)は2010年2月、プロジェクトへの最終投資決定を2011年まで引き延ばすことにした。北米での非在来型ガス採掘の急増が北米へのLNG輸出の増加を見込めない状況をつくり出したわけである。2012年3月末、Shtokman Developmentの取締役会はシュトクマン・プロジェクトの投資決定を採択せず、同年7月1日までに合意を延期した。2012年5月25日、ガスプロムのミレル社長、Statoilのルンド社長はプーチンと会談した。この際、プーチンはガスプロムとStatoilとの開発投資協定を6月末までに結ぶよう求めた。これが実現できなければ、Statoilはシュトクマン開発プロジェクトから離脱し、Shellが代わりに参加する公算が大きくなった。この段階で、ガスプロムはシュトクマン鉱区の採掘ガスの半分ではなくて、ほぼ全量をLNG化することに方針を転換した。Statoilの主張に近づいたことになるが、結局、2012年6月、Shtokman Developmentは投資決定を採択せず、Shtokman Developmentの株主としてStatoilが協定に参加する期間が2012年8月7日に満了、期間延長は行われず、同社はShtokman Development株24%をガスプロムに戻した。2015年7月には、TotalもShtokman Developmentの持ち分25%分をガスプロムに売却して、このプロジェクトから撤退した。こうして、シュトクマン鉱区の開発は当面、まったく可能性がない状況にある。

ガスプロムが直接関係しないLNGプロジェクトもある。ドミトリー・ボソフなる人物が株式の66.5%を保有するアルテク(Alltek)グループは創始し、ネネツ自治管区にある二つのガス鉱区の開発権をねらっており、そこで採掘したガスをLNG化するための工場を建設し、アジア太平洋地域に輸出する計画があることがわかった(РБК-daily, May 17, 2010)。同グループに属しているSN-ホールディングの傘下にあるエヴロセーヴェルネフチは2009年7月、410億㎥の天然ガス埋蔵量(2008年1月1日現在)をもつ鉱区と、1045億㎥の天然ガスと390万トンのガスコンデンセートの埋蔵量をもつ鉱区の探査・開発許可を得た。39億ドルをかけてLNG工場をバレンツ海に面したインディガに建設する計画のフィージビリティ・スタディ(FS)を実施後、プロジェクトの採算性を確認し、その推進を決定した。「ペチョラLNG」と呼ばれるプロジェクトだ。ネネツ自治管区のガス化への関与が前提とされており、同管区のトップ、イーゴリ・フョードロフの強い後押しがあった(Нефть и Капитал, No. 5, 2013)。第一段階では、年産260万トンのLNG生産を予定し、2012年に建設業者を選定、2015年の工場稼働をめざしていた。

計画は遅れていたが、連邦反独占局は2015年12月、AlltechがSi Eich Gaz Pitii. Ltd.を通じて所有していたペチョラLNG株100%を、ロスネフチとAlltechとの合弁会社である「RN-ペチョラLNG」が購入する申請を承認した。「RN-ペチョラLNG」株の50.1%はロスネフチ傘下の「RN-ガス」、49.9%はAlltech傘下のSi Eich Gaz Pitii. Ltd.が保有する。こうして、ペチョラLNG計画はいまでも実現可能性を残している。

(2) ノヴァテクによるLNG輸出

もう一つ、ガスプロムが直接かかわっていないLNGプロジェクトがある。それが、「ヤマルLNGプロジェクト」と呼ばれるもので、すでにLNG工場の建設途上にある。2018年から2019年にかけて、最初のLNG輸出が計画されている。具体的には、南タンベイスコエ鉱区(ガス埋蔵量9260億㎥[9070億㎥説も]、コンデンセート埋蔵量5160万トン)の開発権をもつヤマルLNGがヤマル半島において年1500万トンともいわれるLNG生産を計画していた。最新情報では、生産能力は年間約1650万トンだ。各550万トンの生産能力をもつ三つのラインが設けられる。2017年には、LNG工場の最初のラインが稼働できる見通しだ。

2016年7月現在、ヤマルLNGの持ち分構成はつぎのようになっている。ノヴァテクが50.1%、TotalとCNPCが各20%、シルクロード基金が9.9%だ(9)。なお、ノヴァテクについては、第7節「国内のガス問題」で詳しく分析する。

プロジェクトの規模は270億ドルにのぼり、多額の資金調達を必要としている。一説では、2016年6月末で、ヤマルLNGの資金調達額は173億ドルにのぼり、そのうち128億ドルはヤマルLNGの株主によって拠出された(Ведомости, Jul. 29, 2016)。残りの45億ドルが外部源泉から調達されたという。

別の情報では、ヤマルLNGは2016年4月、中国輸出入銀行と中国開発銀行との間で93億ユーロと98億元(約120億ドル)を15年間借り入れる契約に調印した。金利は、建設期間中はユーロ建てがEURIBORプラス年3.3%、プロジェクト完全稼働後は年3.55%、元建てがそれぞれSHIBORプラス年3.3%とその後の年3.55%。ウクライナ危機にかかわる欧米の対ロ経済制裁で、欧米からの資金調達が難しいなかで、中国が資金供給源として重要な役割を果たすようになっていることがわかる。ノヴァテク自体は、ロシア国内の国民福祉基金から1500億ルーブル(当時のレートで約23億ドル)と、ズベルバンクとガスプロム銀行からの15年にわたる36億ユーロのクレジットラインを獲得した(Ведомости, May 4, 2016)。ノヴァテクは銀行に対して、2015年に国民福祉基金からの1500億ルーブルを受け取る条件で融資返済保証も与えた。このほか、イタリアのSACE、フランスのCOFACE、日本のJBICからの融資も検討されている(Коммерсантъ, Jun. 22, 2016)。

LNGを輸送するためのLNG船が16隻必要とされており、うち6隻はカナダのTeekay LNGと中国のLNG LNG Shipping、5隻はギリシャのDynagasが中国のChina Merchants Energy ShippingとSinotrans Shippingともにが提供するほか、4隻は日本の三井OSKとChina Shipping Groupがともに提供する(同, Jan. 26, 2016)。ロシアからはソヴコンフロートが1隻を提供する。

ヤマルLNGの社長、エフゲニー・コトによれば、生産されるLNGの86%はアジア太平洋諸国に輸出される。すでに説明したように、いわゆる「LNG輸出自由化法」の制定でヤマルLNGは、生産するLNGをヤマルLNG主導で輸出する権利をもっている。ヤマルLNGの株主であるノヴァテク、Total、CNPCはそれぞれ年238万トン、400万トン、300万トンを買い付けることが2016年の段階で決まっていた(Ведомости, Jul. 8, 2016)。ほかにも、ヤマルLNGは290万トンまでのLNGをGazprom Marketing & Trading Singaporeに、250万トンをスペインのGas Natural Fenosaに売却することになった。ノヴァテクのLNGを扱うトレーダー、Novatek Gas & PowerはすでにフランスのEngieに年100万トン、Shell International Trading Middle Eastに90万トン、トレーダーのGunvorに50万トンを売却する契約を結んでいる。

LNG工場の設計・設備配置・建設を請け負うことになったのは、Yamgazコンソーシアムで、その持ち分50%はフランスのTechnip、日本の日揮(JGC)と千代田化工建設が25%ずつとなっている。このLNG工場建設を通じて、ロシア側に技術移転がはかられる。

ヤマルLNGは2007年に動き出した「包括的ヤマル半島開発計画」の一部であるとの認識が重要だ。ヤマルLNGだけが重要なのではなく、石油ガスなどの地下資源に恵まれているヤマル半島全体の開発を行うことがロシア政府の意志であり、そのなかで中核となるヤマルLNGは国家にとってもきわめて重要な位置づけになる。だからこそ、2010年10月、当時、首相だったプーチンはヤマル半島におけるLNG生産発展に関する包括的計画を承認し、南タンベイスコエ鉱区で採掘される天然ガスやガスコンデンセートに対する鉱物資源採掘税を12年間、事実上、無税とする方針を固めたのである。

ヤマルLNGプロジェクトを成功させるためには、積出港の整備や北極海航路の開拓などさまざまな準備が必要である。だからこそ、広範な政府支援が行なわれているのだ。
ノヴァテクのスイス・トレーダーであるNovatek Gas & Power GmbHはすでにLNGに売買に乗り出している。最初の売買は、まず15.5万㎥相当のLNGをShellからトリニダード・トバゴで購入し、チリにあるイタリアのEnel傘下のEndesaに売却した(Коммерсантъ, Aug. 8, 2016)。さらに、今後のLNG市場と想定されているタイについては、同国の国営石油ガス会社であるPTTとの間で、ノヴァテクはガスプロムとともに2016年5月、協力議定書に署名した。さらに、クウェート石油会社はノヴァテクから年間150万トンのLNGを輸入する計画であることもわかっている(Ведомости, Apr. 25, 2016)。

なお、ノヴァテクは「アルクチクLNG-2」という別の新しいLNG工場建設計画をもっている。その詳細は明らかにされていないが、オビ川とエニセイ川の間にあるギダン半島のサルマノフスコエ鉱区(ガス確認埋蔵量は2352億㎥)からの天然ガスをLNG化するもので、年1650万トンのLNG生産が予定されている。建設期間は2022~24年とされている(同, Mar. 23, 2016)。


(8) 2006年7月制定のガス輸出法は、事実上、ガスプロムに排他的ガス輸出権を固定化するためのものだった。単一ガス供給システムの所有者ないしその100%子会社に独占権が与えられているため、事実上、ガスプロムに独占権が帰属していることになる。排他的輸出権の例外とされているのは、生産分与協定に基づいて輸出される分(サハリンⅠおよびサハリンⅡ)だけで、ガスプロムの100%子会社、ガスプロム・エクスポルトが液化天然ガスを含めてガス輸出の独占権を握ったことになる。だが、後述するノヴァテクによるLNG工場建設が進み、ロスネフチのLNG工場建設計画の推進も手伝って、このガスプロムによる輸出独占権に対する風当たりが強まった。その結果、2013年11月のガス輸出法改正につながったというわけだ。通称、LNG輸出自由化法では、輸出独占権を供与される企業として、従来通りの自己の単一ガス供給システムをもつ組織ないしその100%子会社に加えて、2013年1月1日現在でLNG生産工場建設ないしLNG工場向けガス採掘を見込む地下資源利用ライセンスを保有する者も輸出独占権が認められた。さらに、ロシア連邦の持ち分が資本金の50%超の、黒海やアゾフ海を含むロシア連邦の大陸棚、領海、国内海水域内で地下資源区域を利用し、それらの場所で採掘される天然ガスからLNGを生産する法人やその子会社も独占権が与えられた。

(9) 2009年5月、ノヴァテク(保有するガス埋蔵量2兆㎥強)は、プーチンの友人で石油トレーダーのGunvorを支配するゲンナジ・ティムチェンコの関係する組織から6.5億ドルでヤマルLNG株51%を購入した(さらに、23.9%を追加取得できるオプション権も取得)。ノヴァテクはオプション権を行使するだけでなく、ティムチェンコのパートナーであるジェレミー・コルビンがもつ25.1%も取得し、ヤマルLNGを100%取得したうえで、時期をみて49%を外国投資家に売却する方針という(Коммерсантъ, Aug. 27, 2010)。2010年12月、ガスプロム銀行はガスプロムから,、同行に属すDhignfinolhu Holding Limitedがノヴァテク株9.4%を購入した。その後、ノヴァテクのトップ、レオニード・ミヘルソンとノヴァテク取締役でもあるティムチェンコに属すHibridge Ventures Limitedはノヴァテク株9.4%を2年以内に取得する権利を受け取る契約をDhignfinolhu Holdingと締結した。だが、別の情報(Новая газета, Jan. 14, 2012)によると、ガスプロムは、オランダに登録したGazprom Finance B.V.に属するケイマンにある会社ZGG Cayman Ltd.が100%株式を保有している会社ZGG Cayman Holding Ltd.という会社をティムチェンコの支配する会社Dhignfinolhu Holding Ltd.に売却したのだという。ZGG Cayman Holding Ltd.がノヴァテク株9.4031%を保有していたのだ。この際、ノヴァテク株は1株=約201ルーブルと評価されており、当時の市場価格300ルーブル強と比べると3分の2の価格にすぎなかったことになる。なお、ノヴァテクの大株主にはガスプロムが入っている。ノヴァテク株の20.77%(23.13%[Ведомости, Aug. 27, 2010, Коммерсантъ, Nov. 10, 2010])はVolga Resources、19.39%はガスプロム(ガスプロムが支配するZGG Cayman Holding Ltd.)が保有していたが、上記の取引で10%程度まで減少した(Ведомости, Dec. 22, 2010)。ガスプロムとノヴァテクのトップは2010年3月、ヤマル半島鉱区の包括的開発プログラムという形で、LNG化の実現などに関する基本原則で合意した。ガスプロムはノヴァテク株とシブネフチガス株を交換するつもりだったが、条件が折り合わず、保有するノヴァテク株を半分ほど売却することにした。

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