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いったいなぜ大部分の人々は古い住宅の撤去と近代的な高層アパートへの移住に断固として反対しているのだろうか。「更新」計画に含まれる5階建て集合住宅は、実は全部が全部老朽化し危険なものだというわけではない。それらの住宅の中にはまだ十分に品質の良いレンガ造りのものや、史跡、建築学上の記念碑でさえ含まれている。それに加えて、5階建て集合住宅の住民の大半はこの間、働いて得たお金を投じて我が家のリフォームを行ってきた。そのおかげで個々のアパートの内部はなかなか立派な作りになっている。普通、5階建て集合住宅のある地区には、子どもの遊び場と手入れの行き届いた小さな庭を備えた快適で静かな中庭がある。つまりここは窓を開ければまだナイチンゲールの歌声を聞くことができる、モスクワの一部分なのだ。
そしてもう一つ、人々にとってかなり重要な要素がある。それは移住することによってこれまでの住民の小さな世界や社会的つながりが破壊されてしまう、ということだ。多くの場合、通う幼稚園や学校を変更したり、新しい隣人や職場への新しい道順に慣れなければならないだろう。新築のアパートの上層階に住みたいと思う人は少ない。以前の居住面積よりも広い部屋が保証されたとしても、どの集合住宅に、あるいはどの階に住むかの選択肢が住民に与えられることはまずない。住民らの心配はこの他にも高層アパートの人口密度が上昇すると、交通機関が混みあうのではないか、駐車スペースが不足するのではないかといったこと等々、尽きることがない。専門家らの評価では、古い住宅の全面的撤去による経済的効果は肯定的だ。全体では、「更新」計画に基づいて撤去が必要とされるのは、モスクワの住宅総保有量のおよそ10パーセント、180万平方メートル。とはいえ撤去の決定は、その集合住宅の住民の3分の2が賛成票をを投じなければ承認されない。投票は5月15日にすでに開始されている。
そんな老朽化した集合住宅を日本当局が「改装」したいと考えたところで、モスクワと同様、団地の住民の5分の4を超える同意が必要とされる。そしてこれもモスクワと同じように、多くの日本人は巨大な摩天楼よりも、緑に囲まれた集合住宅に住むほうを好んでいるのだ。