目覚ましい躍進、突然の「引退」、未曾有の世論のどよめき サギトワの復帰はあるか
五輪金メダリストのアリーナ・ザギトワは12月13日、テレビに出演した際に突然、活動休止を宣言した。こうした一方でザギトワはロシア代表団の一員ではあり続ける。そして今月末、27日、ザギトワは初めてお正月のアイスショー『眠れる森の美女 2つの王国の伝説』に出演することになっている。このラディカルな決定は何が引き金となったのか。勝ち続けた挙句、モチベーションを失ったからなのか。4回転ジャンプを軽々と跳ぶ若いスターらとの競合に疲労困憊したからか。スプートニクはザギトワの余りにも目覚ましい躍進の足跡をたどり、「引退」の原因を探るとともに、スポーツ界への復帰はあり得るか、その予測を試みた。
「勝ち取れるものは全て勝ち取った」











ザギトワ自身が言ったように、彼女は17年の人生でフィギュアスケートで「勝ち取れるものは全て勝ち取った」。15歳でジュニア世界選手権の優勝を果たした後、わずか2年で欧州選手権、2018年平昌五輪のそれぞれで金メダルを勝ち取り、2019年の世界選手権も堂々の頂点に立った。2019年12月7日の時点で国際スケート連盟(ISU)の世界ランキングでザギトワは1位を占めており、さらにISUシーズン世界ランキングのタイトルを狙っていた。2019年3月のさいたまアリーナでの世界選手権。
この直前にザギトワの体は急に成長した。演技が安定しない。激しい筋肉痛に襲われ、怪我のリスクが高まった。スタート時はいつもザギトワの体はキネシオテープでぐるぐる巻きだった。背中、膝、足首にテープを巻く。痛みをとるためだ。ザギトワ自身が打ち明けている。3月、埼玉の世界選手権には行くのも嫌だった。ちゃんと演技ができなかったら、期待に副えなかったら、それが怖かったと。ところがザギトワは金メダルを勝ち取った。エフゲニア・メドベージェワ、紀平梨花、坂本花織、宮原知子の全員を大きく引き離し、堂々の1位に立った。
だが今シーズンはザギトワにとっては辛く、そしてターニングポイントとなった。伊トリノでのグランプリシリーズ、ファイナルでザギトワはまさかの最下位。6位の屈辱を味わった。
「アリーナは3か月で追い出した」











ザギトワは2002年5月18日、モスクワの南東1000キロ離れたイジェフスク市で産声を上げた。5歳でフィギュアスケートを始める。地元のホッケークラブで教える父親が通うスケート施設「ユビレイヌィ」に母親が小さなアリーナを連れていったのだ。
母は昔、フィギュアスケートをやろうとしたのですが、うまくできなかったんです。だから、自分の叶わなかった夢を私が叶えるためにすべてを尽くしました。
アリーナ・ザギトワ
2015年、母は娘を連れ、モスクワにやってきた。エテリ・トゥトベリーゼ監督に娘のスケーティングを見てもらうためだった。トライアルのトレーニングが開始された。ところが…。
3か月たった時点でアリーナを追い出しました。私にとっては選手が自立していることがとても大事なんです。ところがこの子は私のトレーニング・システムを理解できなかった。ここでは誰もやれやれと追い立てないし、練習を押し付けない、大声で叱らない。一番必要なのは自分がやりたいという気持ちなんです。やりたいのか、やりたくないのか。最初のうち、アリーナにはそれがありませんでした。
エテリ・トゥトベリーゼ
とはいえ、後でトゥトベリーゼ監督はザギトワに2度目のチャンスを与え、それから先は追い出すことはなかった。サギトワも監督の期待にしっかり応えた。ザギトワはこう明かしている。「私の性格は父譲りなんです。難しいほど、頑張れる。」
ザギトワ+日本=❤
写真:AP Photo/Alexander Zemlianichenko, Pool





















次々と成功を収めていくザギトワ。彼女の名声は世界中で高まった。そんな中でも日本が彼女に寄せる思いは特別だった。CMにTVのショーに出演依頼が舞い込む。ザギトワの等身大の写真付きのバーナーが通り、メトロの地下道にずらりと貼られた。
平昌五輪で金メダルを取ったザギトワには秋田犬の子犬がプレゼントされた。名前はマサル。モスクワで行われた子犬の贈呈式には安倍首相自ら出席した。そして2019年7月、ザギトワは総理大臣官邸を表敬訪問までしている。
世界のトップスケーターたちを集めたショー「THE ICE(ザ・アイス)」に出演したザギトワが観客を魅了したのはそのエレガントなスケーティングだけではない。黒いレースのコスチュームと手袋をはめたザギトワは優美を体現していた。そのザギトワが今度は紀平梨花とツーショットで漫画『今日から俺は!!』のスケバン役に扮し、周囲の度肝を巻いた。
そのザギトワが出した活動の休止宣言。これに日本のファンたち、フィギュア選手らがショックを受けたのも当然だろう。ザギトワがしばらくの間、選手生活から退くと聞いて、日本のライバル選手たちはこう反応した。
すごく驚いた。一緒の試合に出てきた仲間だったので寂しい気持ちはある。
紀平梨花選手
選手それぞれに選択する道はある
宮原知子選手
宣言は戦争を巻き起こした
写真:AP Photo/Andy Wong









ザギトワの試合からの「引退」宣言は喧々諤々の議論を呼んだ。ザギトワは意志が弱いという批判や、こうなったのは彼女を指導したエテリ・トゥトベリーゼのせいだという声。皆に愛されていたエフゲニア・メドベージェワもかつてトゥトベリーゼ監督のもとでトレーニングをしていて、あんなことになったじゃないか、などなど。この一件ではメドベージェワは引き合いに出されずには済まなかった。なぜならメドベージェワは成長の問題に突き当たった時、戦いを挑む道を選び、コーチまで替えて、カナダでトレーニングを続けたからだ。
ましておひざ元のロシアのスポーツ界、ファンたちがこれにどれだけ大きな反応をしたかは言わずもがなだ。ザギトワの決意表明はネット上で正真正銘の戦争を巻き起こした。国際スケート連盟のシステム自体がおかしい。成熟していないジュニアにしか座を許していないじゃないかという非難もあげられた。
この若さで選手生活を降りようとしたのは何もザギトワが初めてではない。それでも世界中にこれだけの反響を呼んだことは、恐らく今までなかった。それはこの間にザギトワが本当にたくさんの人を感動させ、その愛を獲得したからではないだろうか。才能のすごさに、氷の上で成長し、変わっていく彼女とそのヒロイン像に、それを必死で勝ち取っていく彼女の姿に、みんなが目を見張り、心から応援し続けた。
なぜ、今…
ザギトワは今まで何度も引退を考えていたし、これについてインタビューでも口にしてきた。自分の決意を彼女は必死で説明しようとした。ライバルのこと、疲労、守らねばならないタイトル、でも実際はそれを守る手段はない。
ショーにはたくさん出演していきます。スケートは続けます。トレーニングもしていきます。むしろいいと思うのです。自分を探し、新しい演技要素、ジャンプの新しい踏み込み方を練習していくのですから。コーチたちとはこれからも一緒です。今までこんなに長い道のりを、オリンピックまで歩いてきたんですもの。彼らに感謝しています。連盟、ファンの皆さん、家族にも。自分に、スタートに出ていくんだというモチベーションが湧いてほしいのです。勝利の代償も、これを勝ち取るためにどれだけの準備をせねばならないかも私は知っています。これはものすごく大きな仕事なんです。私のことは、たぶん、同じことを経験したスポーツ選手なら理解できるでしょう。私は今、人生で必要なすべてを手に入れました。なのに、まだ何かが足りないと常に自分を駆り立てていかなければならないんです。
アリーナ・ザギトワ
アリーナ・ザギトワとタチアナ・ナフカ
復帰はあるか?











ザギトワ自身は、この決意は選手生活にピリオドを打つこととは言っていない。彼女がテレビで言ったのは「今シーズンの出場はありません。でもスケートは続け、自分のコーチたちと練習は続けます」というセリフだった。

スポーツ界への復帰を望んでいるのはトゥトベリーゼ監督も同じだ。トゥトベリーゼ氏はザギトワはしっかり休養し、モチベーションを見つける必要があると考えている。 「あの子は自分自身に立ち戻らないと。もう一度、戦いたい。勝利したいという自分に。」

これからアイスショーで一緒に出演するザギトワの師匠のタチアナ・ナフカ氏の考えはこれとは異なる。ナフカ氏はアリーナは今まで学業で間に合わなかったことを取り戻そうとしていると考えている。 「彼女はこれから試験に合格して、高等教育を受けたいと思っているんです。」


タラソワ氏はザギトワの復帰はないと考えている。 「彼女はまだ幼い。だから嘘のつき方を知らないんです。彼女が何を言っているのか、何を言いたいのか、私たちはわかりましたよ。彼女はもう戻りません。私はそう思います。」
ザギトワの引退がどんな議論を巻き起こしたとしても、これがフィギュアスケートの歴史にとっては重要な一段階であることは間違いない。そしてこの歴史にアリーナ・ザギトワは五輪チャンピオンとして名を遺すのだ。


筆者:リュドミラ・ サーキャン 、
ダリヤ ・グリバノフスカヤ


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