戦争、病気ではない 日本、世界の死因上位は未だに自殺

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孤独 - Sputnik 日本
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21世紀になると人類は多くの病の治療法を確立したが、心の痛みだけは常に乗り越えられるとは限らない。世界保健機関(WHO)の調べではこの地球上では40秒ごとにどこかで誰かが命を絶っており、年間で80万人以上の男女が自殺している。9月10日は世界自殺予防デー。この日は自殺問題に社会の注意を向けるために制定された。日本の、そして世界の自殺事情について、スプートニクが検証を試みた。

自殺統計

WHOの専門家らは「自殺が多発するのは高収入レベルの国という先入観があるものの、その75%は中程度あるいは低い収入の諸国で起きている」と報告している。確かに世界の自殺統計を見ると未だに情報不足であることがわかる。WHO加盟172か国のうち自殺統計に使うことのできる信憑性のあるデータがあるのはわずか60か国だからだ。

2012年、自殺は世界の死亡件数の中で1.4%を占め、死因の順位では15番目に位置していた。死のうとして死にきれないケースの方がはるかに多く、自殺者1人に対して20人以上の人間が自殺未遂で終わっている。

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自殺の原因とリスク要因をWHOは数種類のカテゴリーに分けている。社会的要因には貧困、失業、社会的軋轢、戦争、必要に迫られた移民、人種差別などが挙げられている。さらに個人的な要因には失業、金銭問題、精神異常、疎外感、プライベートな生活における事件が入った。

年齢別で見た場合、ほぼすべての国で自殺率が高いのは70歳以上で、男女に差異はない。高齢者の次に自殺が多いのは15-29歳の若者層で、この年齢層の死因としては自殺は交通事故に続いて2番目に多い。

2020年は若手芸能人らの突然の死が社会を震撼させた。 プロレスラーの木村花さんの自殺はネットいじめが原因だった。これに同様の理由による韓国のアイドルの自殺が相次ぎ、社会もネットで相手を傷つけることが自殺へと駆り立てている実態を考えざるを得なくなった。

自殺の原因・動機について、白書は明らかなものを1件当たり最大3つまで挙げてその数を公表している。それによると、最も多いのが「健康問題(病気)」で、2015年は1万2145人。次いで「経済・生活問題(貧困)」(4082人)、「家庭問題」(3641人)、「勤務問題」(2159人)の順。このほか「男女問題」「学校問題」が続く。この順位は近年ほぼ変わらない。「経済問題」が原因の自殺は2009年には8000人台を記録していたが、15年には半減した。

日本の自殺率は年齢別では世界全体の傾向とはいささか異なる。2016年の自殺率は19-39歳が24%、40歳以上が70%。1990年代末から2000年代初頭は経済全体の後退と国民的な「文化」といえる残業の影響を受けて自殺が急増。これを背景に日本政府は2006年、世界に先駆けて「自殺対策基本法」を発効。これは10カ年計画で予防対策をとることで自殺割合の20%縮小を目標に掲げたもので、確かに10年後の2016年にはその成果が出て、過去23年間で最も低い自殺件数を記録し、特に健康問題を苦にした自殺が最低値となった。 2017年、日本政府は「自殺総合対策大綱」を出し、自殺率をこの先10年で最低でも30%減らすことを目標としている。


死ぬまで働く

自殺件数のピークは過去のものとなったとはいえ、日本はまだ自殺の多い国の一角を占めている。日本人の心身の健康状態に問題が起きる原因として、最も流布されているのが働きすぎだ。

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月の規定時間を80-100時間も上回る過剰労働で自殺に至ったケースが相次ぎ、大きな社会問題となったことから国の指導部も対策措置に本腰を入れた。2016年、日本の内閣は「自殺対策白書」を発表。それでもこの状況を抜本的に変えるには、民族特有の働き方自体を変え、生きる上での最優先事項の順番を変えるしか、おそらくないだろう。


自殺手段を取り上げてしまう

自殺件数に影響する要因としてWHOが挙げている1つに自殺手段の手に入りやすさがある。例えば自殺に最もよく使われる有毒化学物質、銃の購入に制限をかける、橋にバリアを設けるといった施策は、主要な自殺防止策に数えられる。

全世界の集計データを見ると、毒性が最も高い農薬の使用禁止で自殺件数の大幅な縮小が実現できたことがよくわかる。スリランカでは高毒性農薬の販売禁止によって1995-2015年の間に自殺件数は割合では70%、人数にして9万3000人も減った。

韓国では2000年代に起きた自殺の大半のケースが除草剤のパラコート (人間、動物への致死量は小さじ一杯)を使用した服毒自殺であったことから、2011年―2012年子の販売が禁止され、その結果、2011-2013年の間のパラコートを用いた自殺件数は2分の1に減った。


自殺の手引書と自殺願望者のグループ

自殺の頻度に影響する要因としてWHOが挙げているのは医療の助けが得られないことと、マスコミやSNS上の自殺報道。WHOは「無責任な報道で自殺にはあたかもセンセーショナルでゴージャスのような色合いが付加されてしまう。このために傷つきやすい人の中にこれを真似しようとする人が出るリスクが高まってしまう」との見方を示しており、実際にこうした見解はすでに数か国で証明されている。

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日本では1993年鶴見 済氏著の『完全自殺マニュアル』が出版された。この本には自殺の詳しい方法と発見されないためにどうしたらいいかが漫画のイラスト形式で書かれている。紹介されているのは首つりから電気ショックや体に引火させる方法まで10種類の自殺法。これだけ危険な内容にもかかわらず、発禁処分にはならず、100万部以上を売り上げた。自殺者(ティーンエージャーも含め)の遺体の傍らにこの本が残されていたケースも数件見られたうえ、同本が「理想的な死に場所」と書いた富士山の青木ヶ原樹海での自殺件数が増えたことから、非難は受けた。

ロシアでは2017年、SNS上に「青いクジラ」を名乗る自殺グループ, が出現し、大人のモデレーターの圧力を受けて子ども、ティーンエージャーらが危険で自分に害を及ぼす行為を次々と行い、自殺にまで至った。こうした集団は活動が禁じられ、自殺傾向に対する法規制が強化されたものの、結局は予防措置を講じなければ自殺は無くならないことがはっきりした。


自殺を止めたい 私には何ができるか

人生で辛い状況に置かれている場合、電話で専門家と相談ができるホットラインが存在するが、私たちだって自分の知り合いや周囲に普段とは違う行動をとりはじめる人がいたら、その人の生活や健康状態を心配するだろう。そんな人に「自殺を考えているんじゃないだろうね?」と尋ねた場合、そんなことなど考えたこともない人まで本当に自殺へ後押ししてしまうのではないかと思いがちだが、実際の調査ではこれとは別の結果が出た。WHOの専門家らは自殺を考えているのではと疑念がわいた場合は、その問いを実際に発するように進言している。

米国立精神衛生研究所(NIMH) は周囲に次に列挙したいくつかの兆候が見られる人がいる場合、細心の注意を怠らないよう呼び掛けている。

  • 仕事を急いで片付けようとしたり、遺書を書いたり、金目のものを分け与えはじめる
  • 薬をため込む、あるいは武器を購入する
  • 神経をいら立たせている、心配を抱えているように見える
  • 知り合いを避け、閉じこもる
  • 感情の起伏が大きい

近しい人が辛い思いをしているならばその人に話しかけ、気分をたずね、自分がその人の立場にたって世界を見ることが必要だ。そしてその人に自殺は問題を解決する最良の方法ではないことを一生懸命伝える。その上で医者に行くようすすめ、その人に合う専門家を一緒に見つけてあげることが大きな助けになるだろう。

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