日本の寺院はこの厳しい時代を乗り越えられるのか? 日本人の宗教観はどのように変わったのか? 正覚寺住職が答える

© 写真 : Simon Desmaraisお寺記号
お寺記号 - Sputnik 日本, 1920, 20.06.2021
サイン
かつてお寺は全国各地の地域社会で重要な役割を担い、様々な集いの場でもあった。しかし、人口減少と地方の過疎化で寺院は消滅の危機にさらされている。さらにコロナ禍がこのトレンドに拍車をかけている。日本の寺院はこの厳しい時代を乗り越えられるのか?日本人の宗教観はどのように変わったのか?鵜飼秀徳氏(ジャーナリスト/正覚寺住職/良いお寺研究会代表理事/東京農業大学・佛教大学 非常勤講師)が外国ジャーナリスト向けのブリーフィングで語った。

寺院の状況:コロナ前とコロナ後

鵜飼氏によると, 寺院の収入規模、市場規模はこれまで未調査だったという。そこで、コロナの影響によるお寺の収入減少について、鵜飼氏と一般社団法人良いお寺研究会が初の共同調査を実施した。

鵜飼氏によると、2005年の全国7万7千のお寺の総収入は約4千億円規模だったという。

鵜飼氏:「そしてコロナが始まる前の期間でどんどん右肩上がりにその収入規模を伸ばしていました。2020年直前の段階で5千億円ほどの収入規模に増えていたと考えられます。」

このような収入増加は、まずなによりも、日本が多死社会であることに起因している。

鵜飼氏:「つまり、人口動態、生まれてくる人よりも亡くなっていく人の数の方が増える局面に日本は入っているからです。ということで、人が亡くなればそれだけ法事の回数も増えていきますし、お葬式の数も増えて、収入規模が増えていくことになります。」

鵜飼氏はこのほかに、不動産事業あるいは物販、レストランなどのような副業を持つお寺も増えてきたことも指摘する。また、京都、奈良、鎌倉のような拝観寺院にとってはインバウンドの増加も重要な収入源のひとつである。

そしてコロナがなければ、お寺の総収入はこのまま緩やかに成長を続けていくと考えられていた。しかし、コロナ禍で2020年の一年間のお寺の総収入は2700億円に激減したとみられている。

寺院を対象に実施したアンケート調査では、多くの寺院が「1日葬などの簡素化が行われている」、「会葬者の人数が少ない」、「申し込みが少ない」、「法事の中止や延期が多い」、「法事後の会食が少ない」、「参列者の人数が少ない」といった変化を挙げた。

鵜飼氏:「コロナが今年も継続するならば、その収入規模は下がり、コロナ収束後も回復は遅れていくでしょう。2005年の収入規模に戻っていくのは2025年頃だと考えられます。」

さらに、2020年はコロナ感染症対策の影響で死者の数が激減したことも寺院の収入に影響を与えた。

鵜飼氏:「意外かもしれませんけれども、亡くなる人の総数は日本ではコロナのおかげで減ったのです。それはなぜかと言うと、コロナ以外の感染症、インフルエンザとか肺炎で亡くなる人の数、そして人が出歩かないがために交通事故死などが減ったのです。2019年に比べて9373人も日本の死者数は減っています。いずれにしても去年あるいは今年はイレギュラーなことが続いていますけれども、日本は中長期的には多死社会の傾向が続いています。」

現在、空き寺の数が約1万5000から1万7000ヶ寺であることを考えると、このまま何の対策もしないまま2040年を迎えると、正住寺院は6万ヶ寺から5万ヶ寺以下に減少すると鵜飼氏は考える。また、立地環境的に、消滅可能性がより高い宗派は、高野山真言宗、曹洞宗、浄土真宗本願寺派とみられている。

© 写真 : Yoi-Otera Research Instituteアフターコロナ、お寺の世界で何が起きるか
日本の寺院はこの厳しい時代を乗り越えられるのか? 日本人の宗教観はどのように変わったのか?  正覚寺住職が答える - Sputnik 日本, 1920, 20.06.2021
アフターコロナ、お寺の世界で何が起きるか

日本人は宗教的になりつつあるのか?

仏教と神道は日本人の生活習慣に深く入り込んでいるため、こうした慣習を宗教的なものとは捉えず、自分を無宗教だと考える日本人が多いというのは通説だ。しかし、コロナ禍で、宗教に対するこのような考え方が変わる可能性はあるのだろうか?スプートニクが投げかけたこのような問いに、鵜飼氏は全日本仏教会と大和証券の共同リサーチ「新型コロナウイルス感染症が仏教寺院に与える影響」を紹介した。

鵜飼氏:「(以前には)日本人は『あなたは宗教を信じますか』、『どういう宗教信じますか』と尋ねられて、『私は無宗教です』という割合が多かったです。また、コロナ以前にお坊さんに求めることというのはお葬式ですとか、あるいはきちんとお墓を供養しているかですとか、そういう実務的なことが多かったです。

しかし、コロナが始まって、この調査をしてみると、『不安な人に寄り添ってほしい』とか『コロナの収束を祈ってほしい』というような宗教性をお寺あるいはお坊さんに求める割合が増えてきました。ということは、これまで葬式仏教として揶揄されていた仏教なんですけれども、本来の宗教性、お坊さんとしてのあり方というものも人々は期待をして求めているからだと私は考えています。」

「困った時にはお寺に来てください」 日本人へのメッセージ

スプートニクはまた、この厳しい時期に苦しんでいる人々への応援のメッセージやアドバイスを鵜飼氏に求めた。

鵜飼氏:「私は僧侶として過去の亡くなった方々の供養を通して、100年前あるいは200年前の感染症(スペイン風邪やコレラ)で亡くなった人たちとの対話を通じて、こういうことが言えると思います。

現代人は過去から学ぶということがあまりなくなっていると私は懸念をしています。(スペイン風邪やコレラの経験を踏まえると)コロナは3年から4年でおそらく沈静化するでしょう。しかし、3年以内で期待を持つのも危険です。

仏教は非常に論理的です。原因があって、結果がある。つまり因果関係を置いているのが仏教ですので、辻褄が合わない政治や手段というのは誤っていると考えていますので、五輪に関する政策が辻褄が合うか合わないか、これは私が説明するまでもないと思います。コロナはいずれ収束する。これは間違いありませんが、私が申し上げたいのは、ジタバタしない、泰然自若とした態度でいる、困った時にはお寺に来てください、ということです。」

ニュース一覧
0
コメント投稿には、
ログインまたは新規登録が必要です
loader
チャットで返信
Заголовок открываемого материала