米中技術覇権争いはどこまで激化するのか? 日本はいかにして経済安全保障を実現するのか? 日本人専門家にお話を聞く

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ハッカー(アーカイブ写真) - Sputnik 日本, 1920, 28.09.2021
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米国と中国の対立は、技術覇権争いとともに、ますますその規模を拡大している。そうした中、2021年6月、日本政府は初めて、「骨太方針」や「成長戦略」で「経済安保の確保」について言及し、経済安保政策はもっとも重要な議題の一つとなった。今後、米中技術覇権争いはどのように発展していくのだろうか。そして日本は安全を守るためにどのような措置を講じることができるのだろうか。東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授が外国人ジャーナリストを対象にしたブリーフィング会見を行った。

覇権争いは、主にどのような分野で起こるのか?そしてその争いにおいて、いま、米国と中国のどちらが優位に立っているのか?

鈴木氏は、米国と中国の技術覇権争いは、主に新興技術(エマージングテクノロジー)の分野で起こっていると指摘し、次のように述べている。
鈴木氏:「この新興技術というのは、文字通り、エマージングなので、まだ具体的にどのような形で安全保障や社会システムに影響があるかということが定まってはいない技術であります。しかし、この新興技術というのは、将来にわたって安全保障秩序に影響を与え得る技術だということで、今、注目を浴びているのは次の14の領域になります。
1) バイオテクノロジー 
2) 人工知能および機械学習技術
3) 測位技術 
4) マイクロプロセッサー技術
5) 先進的計算技術 
6) データ分析技術
7) 量子情報およびセンシング技術 
8) ロジスティクス技術
9) 3Dプリンティング 
10) ロボティクス
11) 脳・コンピューター・インターフェース 
12) 超音速
13) 先進的材料 
14) 先進的サーベイランス技術
この14の領域というのはアメリカの輸出管理強化法(Export Control Reform Act =ECRA) という法律の中にあります。」
© 写真 : 鈴木一人新興技術における米中技術覇権の現状
新興技術における米中技術覇権の現状 - Sputnik 日本, 1920, 19.10.2021
新興技術における米中技術覇権の現状
この表からも分かるように、中国はもうすでにアメリカと肩を並べるか、場合によっては優位に立っている技術があって、その技術を守る側に回ってきていると鈴木氏は言う。
鈴木氏:「そこで、こうした経済安全保障措置、例えば、国家情報法や輸出管理法といった新たな法律を今次々に設立して自らの技術を守るというような措置を取っています。その中で注目したいのは、習近平国家主席が2020年の4月に語った講話のなかで、その鍵になるものとして、中国が技術開発を進め、キラー技術と言われる他の国が持たない技術を開発し、そして他国が中国に依存する度合いを上げていくという戦略を取ろうという方針を明確に示しているということです。」

中国は技術覇権を握るのか?

鈴木氏は、技術覇権というのは単に技術力や経済力、軍事力だけでは達成できないものであると見ている。覇権国家というのはその国家に対して追従していく国々がなければ、成立しない、つまり言い換えれば、国家についていきたいと思う魅力、いわゆるソフトパワーが必要だと指摘する。
鈴木氏:「(一方で)現在、米中の対立が激しくなっていて、バイデン大統領が言うように、民主主義国対専制主義国というふうに世界が二分していくと、この専制主義の国々で中国と同じような政治体制を取る国々がまとまっていくというような形で、中国は自ら開発した技術や社会システムをこの専制主義国のツールとして使っていく可能性があるのではないかというふうに考えています。
例えば、顔認証システムというのがあり、これは国家が社会を管理するためのツールとして非常に有効な技術になってくるわけですけれども、中国はこうしたサーベイランス技術というものをアメリカや西側諸国よりも発達させている状況にあって、これらがそうした専制主義国のこの共通するツールとなり、その分野において中国がリーダーシップを確立するというようなことがあり得るのではないかというふうに考えられます。」

日本はいかにして経済安全保障を実現するのか?

鈴木氏は、こうした米中の対立を背景に、「日本は抑止力としての経済安全保障というのを考えていく必要がある」と指摘する。
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鈴木氏:「この抑止力というのはちょっと分かりにくいかもしれませんが、簡単に言うと、日本の持っている技術や製品を使ってその存在感を高めていくことによって、日本に対してエコノミックステイトクラフト*を仕掛けていく、そういうことをさせないような独自性を確立していくことを意味します。
例えば、製造過程の上流と言われる素材や装置、この最終製品になるはるか前の、基本になる部品や素材、こういったものは非常に寡占化しやすく、そしてそれを作るだけの高い技術というのを持っていなければいけない。なので、この分野で日本は実は非常に強い強みを持っています。」
*エコノミック・ステイトクラフト:経済的手段によって国家的目標を達成すること。
鈴木氏は、「国家のパワーとして経済安全保障を使っていく」ことが重要だと考えている。それは、鈴木氏によると、日本が持っている技術的な優位性を生かして、国際的な標準やルールづくりをしていくことによってその技術に基づいて世界中の製品の基準を作っていくということを意味する。
鈴木氏:「日本に輸出したければ、日本の基準、日本の規制に合わせた製品を輸出しなさいということです。日本のルールに合わせて、日本の基準に合わせてサプライチェーンに影響力を与えるという、この買う側のパワーというのを使っていくというのも一つの日本の経済安全保障の向かっていく方向だと考えています。
なので、日本の経済安全保障が向かっていくべき方向性としては戦略的不可欠性というものを確立し、そしてグローバルなサプライチェーンに影響を与えていくということを目指すべきなのであろうというふうに考えていますし、この戦略的不可欠性という概念は自民党の部会が提案した経済安全保障に向けてという提言書の中にも書かれているもので、これが今後の日本の向かっていく方向性なのだろうというふうに考えています。」

米国と中国のデカップリング*に備える必要はあるのか?

*デカップリング:2国間の経済や市場などが連動していないこと。
米国と中国のデカップリングの規模がどれくらいに達するのかとの質問に対し、鈴木氏は次のように答えている。
鈴木氏:「デカップリングというのはアメリカと中国の相互依存関係を完全に分断するということを想定しているのであれば、多分、これは実現しないというふうに思います。デカップリングが起こるのは戦略的に重要なアイテム、例えば、半導体や蓄電池、医薬品といったこういう分野で起こるので、これらの分野が恐らく依存することのリスクが高いという状態になると思います。」
鈴木氏はデカップリングは、選択的なものになると確信している。  
鈴木氏:「で、これは中国のサプライチェーンに依存しないで、同盟国、友好国の間でこのサプライチェーンを完結できるようにするということを目指して行くというふうに考えていて、これがデカップリングということを意味します。つまり、部分的なデカップリングで、すべての分野でデカップリングが起きるわけではないということが重要なポイントになるというふうに思っているので、日本は中国との貿易も、例えば、おもちゃや加工食品、そういう分野ではデカップリングは起きないので、ここの分野ではこれまで通りに貿易が起こる、日本と中国は同じアールセップ(RCEP:地域的な包括的経済連携協定)に入っていて、自由貿易を進めることになっていますので、ここは戦略的に重要なアイテム、バイデン大統領はこの4分野というふうに分けて、ここの部分では注意が必要になるだろうというふうに思います。」

米中の対立が緩和される可能性はあるのか?

スプートニク:最近、7ヶ月ぶりに習近平国家主席とバイデン大統領との電話協議が実施され、両指導者は「競争が紛争に陥らないようにするための、両国の責任について話し合った」とされている。この電話協議をどのように評価しているか。今回の電話協議は、米中の対立が緩和され、両国関係が改善される可能性があることを意味しているのか?
鈴木氏:「まず、この電話協議についてですが、バイデン大統領の方が対面での協議を求めたのに対し、習近平主席はそれを断ったという経緯があり、バイデン大統領の方が何かを期待しているというように見えます。実際のところは、多分、習近平主席の方としては、バイデン大統領と会っても、何も前進がない、得るものがないという判断をしたので、多分、断ったのだろうというふうに思います。その意味では競争が紛争にならないようにするというのは、ある意味バイデン大統領もそこまで望んでないということではあると思うのですけれども、しかし、バイデン大統領はトランプ時代に中国に対して課した追加関税や半導体の問題、トランプ時代のものは何一つ取り下げてないのです。同時に半導体の問題についてはより中国に対する圧力を強化している側面があります。その意味ではバイデン大統領の取っている行動は中国に対して圧力を強める方向にあり、中国から見ればトランプ時代よりも悪化しているという状態なので、むしろ、競争を紛争にさせようとしているようにも見えるのではないかということは少し懸念される点かなというふうに考えています。いずれにしても、中国とアメリカのこの競争的関係というのはこれからもどんどんと対立の方が深まっていくのではないかなというのが私の見立てです。」
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