米国の「第二戦線」:なぜ米国はますます中国を「弄ぶ」のか?

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米中の国旗 - Sputnik 日本, 1920, 28.05.2022
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米国政府は、ロシアのみならず、中国にも対抗するため、自国の主な同盟国と東南アジアのパートナー国とこれまでにないほど結束する決意に満ちている。現在の外交上の主要な問題は、バイデン大統領の日本訪問においても、また最近行われたASEAN(東南アジア諸国連合)のサミットでも優先的課題の一つとなった。しかし、なぜ米国は、ウクライナをめぐる欧州危機が終結しないうちに、中国抑止政策を大幅に強化しつつ、事実上、アジアにおける「第二戦線」を形成しているのだろうか。
「スプートニク」は、こうした米大統領府の「反中的外交措置」の理由について、米国の外交問題の第一人者で、総合欧州国際研究センターのドミトリー・ススロフ副所長に見解を伺った。

ウクライナ問題がアジアを「揺さぶっている」

ススロフ氏は、欧州におけるウクライナ危機は事実、アジアにおける米国の中国に対する圧力を強める「引き金」となったとの見方を示す。
「台湾は単に、そのための都合のよい新たなきっかけにすぎません。米国は現在、ウクライナで起こっていることと、台湾をめぐる情勢とを直接、対比させています。ですから、『台湾問題』は現在、米国の外交政策における議論における主流のテーマとなっています。このことは、ウクライナ危機を条件として、中国が台湾に対して武力を行使する可能性が高まっているという記事が数多く書かれていることからも明らかです。米国はアジアそしてインド太平洋地域全体で中国抑止政策を強化しなければならないのです」。
雑誌「フォーリン・アフェアーズ」に掲載された記事の執筆者は、台湾有事に際し、台湾に完全な軍事支援を行うとしつつ、戦略的なはっきりしない態度を取るのをやめるよう米国に勧告しているとススロフ氏は指摘する。

米国の反中路線が「活発化している」?

そこで、バイデン大統領が日本を訪問した際に、他でもないこのことについて指摘したのも驚くべきことではないとススロフ氏は結論付けている。
「これは、米中戦争のモデリングがあからさまに行われつつある、米国の外交の中心的テーマを完全に反映したものです。テレビ局NBC(ナショナル・ブロードキャスティング・カンパニー)はバイデン大統領のアジア訪問の直前に、あるシミュレーション―台湾をめぐる米中の直接的な戦争というシナリオを放映しました。これは台湾有事の際の、米国の真の計画に関する中国への明確なシグナルです」。
このように、中国との関係において、米国は現在、「剃刀の刃を渡っている」のである。しかし、米国は本格的な事態の激化を扇動することも、アジアにおける軍事紛争も恐れていないとススロフ氏は推測している。
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時間は中国に味方するため、米国は急いでいる

ススロフ氏の考えでは、米国には、現在、中国は紛争を始めることに関心を持っていないという強い確信を持っているという。そして、それには深刻な国内事情に原因があると見ている。
「今年、中国では第20回党大会が予定されています。つまり、中国はこの重要な行事が開始するまでは、武力を行使することはないということです。しかも、党大会の後、習近平国家主席は3期目をスタートさせることになります。そこで米国は、中国がおそらく事態を激化させようとしないだろうことを理解しています。なぜなら、それでなくとも、時間は「中国に有利に働く」からです。年を重ねるごとに、中国はますます強くなり、一方の米国は弱体化しつつあります。そしてその長期的な勢力図の変化によって、中国は武力を行使することなく、欲しいものを手に入れることができるのです。一方の米国は、アジアにおいて中国に負けつつしあることを理解していることから、待っている時間がないのです。そこで、自国の目的―つまりイメージを回復し、中国に敵対するための信頼できる同盟国を引き寄せるために、故意的に台湾をめぐる情勢をエスカレートさせているのです」。
一方、日本について言えば、事実、現在の岸田首相政権において、日本と米国は、安倍・トランプ時代よりも、はるかに接近しているとススロフ氏は指摘する。
「ウクライナ危機の開始以降、日本政府は実質、米国と欧州の同盟国がロシアに対して発動したすべての対露制裁を導入し、ウクライナ危機をめぐっては、西側の立場に完全に同調しています。岸田首相は米国の中国抑止のための現在の努力を支持しています」。
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魅力的だが、実現不可能な約束

バイデン氏の訪日中に、岸田首相とバイデン大統領が、少なからぬ「激励の言葉」を口にしたのは、注目に値する。加えて、バイデン大統領は、(国連安保理改革が実現した場合)米国は、常任理事国入りを支持するという日本の意向を支持する用意があるという約束をも「惜しまなかった」。よく知られているように、日本が長年にわたって望んでいる常任理事国入りは実現されないものであり続けている。
しかし、ドミトリー・ススロフ氏は、日米は今、「蜜月」を迎えているにもかかわらず、結局のところ両国関係は現在の状況のままだろうとの見解を示している。
「国連安全保障理事会の常任理事国という立場を手にすれば、日本は国際的な権威を高めることができます。しかし、この目的が達成されることはないでしょう。というのも、少なくとも、他の常任理事国のうちの2カ国(ロシアと中国)が反対するからです。ですから、バイデン大統領がこの問題について、米国は日本を支持すると発言するのはまったく意味のないことです。しかも米国は以前にもこれについて指摘しており、ブッシュ(ジュニア)政権も国連改革について、積極的に議論し、『踏み込んで』いました」。
現在の世界情勢も、日本の国連安保理常任理事国入りに対する米国の支持を前進させるものではないだろう。というのも、この考えを前進させていくのに、米国一国だけの立場では十分でないことは明らかであり、ロシアがこれについて肯定的な決定を下すことは絶対に期待できないからである。クライナ危機を背景に、ロシア(第二次世界大戦の結果として、中国と同様、拒否権を有している)は日本を非友好国に指定している。一方こうした中、米国のリンダ・トーマス=グリーンフィールド国連大使は、ロシアを安保理の常任理事国から解任することはできないとの見方を示している。そしてこれは現時点で、国際法におけるもっとも安定した現実なのである。同時に、中国への圧力を強めるという米国の戦略(そしてこれは日本の利益でもあり続けている)はインド太平洋地域における確固たる平和を保障するものではないのである。
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