ルポルタージュ
© AFP 2020 / Desiree Martin

どっちが勝つか、フェミニズムVSコロナ 今や感染大国となったスペインから緊急ルポ

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新型コロナウイルス
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スペインではわずか2日前はコロナウイルスを笑い飛ばしていた。保健緊急警報調整局も「学校や大学を休校扱いにしたところで、ウイルスの拡大を止めることはできない」と豪語し、政治家らは3月8日の国際婦人デーのデモへの参加を呼びかけていた。ところがその時点で数百人だったスペインの感染者数は、一夜明けた9日には1千人を超えてしまった。突如、欧州で2、3位を争う最多の感染者国に入ってしまったスペインがどういう状況にあるのか、マドリードからのスプートニク特派員のルポをお届けします。

「男性優位主義はコロナウイルスより多くの人間を殺す」

スペインでのコロナウイルスの初の感染例が確認されたのは2月末、カナリア諸島のテネリフェ島だった。わずか1人の滞在客の感染でホテル1軒が丸ごと検疫となった。

とはいえカナリア諸島は本土からはかなり遠い。このため当時、ウイルスの拡散を気に掛ける人はほぼ皆無だった。保健省保健緊急警報調整局フェルナンド・シモン局長は記者会見のたびにコロナウイルスは恐れるに足りずを繰り返していた。スペインは心配ない。感染者数は10人に満たない、と。このためスペインは他の国々のように航空機の乗り入れを停止したり、大規模なイベントや結婚式を中止するどころか、逆に3月8日の国際婦人デーのデモに参加し、ウイルスなんて自分たちには何の脅威でもないところを見せてやろうじゃないかと熱心に呼びかけていた。「男性優位主義はコロナウイルスより多くの人間を殺す」国内の感染者数が数百人を数えていたにもかかわらず、スペインの新聞にはこうした見出しが躍っていた。

3月4日、保健緊急警報調整局シモン局長は教育機関を休校扱いにしたところでコロナウイルスの感染拡大が止まないとする声明を表していたが、7日、ウイルスはスペイン王室の王位継承者であるレオノール王女、ソフィア王女の2人が通うカレッジにまで入り込んでしまった。

「一番怖いウイルスは家父長制」

3月8日、スペイン全土で16万5千人がデモに参加した。RTVE局撮影の動画ではデモ参加者の1人が取材に答え、「ママ、男性優位主義の方がもっと危険だ。コロナウイルスよりずっと多くの人間を殺すから」と語ったセリフが放映された。

​デモ行進では市民はハグし、大声で笑い、キスをしあうことで危険なウイルスを互いに伝えてしまった。

3月8日から9日にかけての一夜でコロナウイルスの感染者数は倍以上に膨れ上がり、1000人を突破。10日ともなるとその数はなんと1700人にまで迫った。極右政党「VOX」のハビエル・オルテガ・スミス=モリーナ書記長もそのうちの一人だ。書記長は3月8日の段階ですでに不調を覚えていたのにもかかわらず、デモに参加していた。デモ終了後、バルセロナ行政会議のメンバーであるモンセラト・バイヤリン氏は隔離された。なんとバイヤリン氏は3月8日の前にも数人と会っており、後日、この人たちにも感染が確認されている。バイヤリン氏は感染を知っていたことは否定しなかったが、男性優位主義と闘いたいという気持ちの方が誰かに感染させるのではないかという恐怖よりずっと強かったと弁明している。

3月9日、スペインではコロナウイルスへの姿勢ががらりと変わった。同日、マドリード州のイサベル・ディアス・アユソ知事は首都マドリードの全ての教育機関を休校とする決定を下した。10日、今度はイタリアと結ぶ直行便が全便運行停止となり、刑務所への出入り口が閉鎖され、大規模な行事が取りやめとなった。「VOX」のスミス=モリーナ書記長の感染が明らかにされると、上下院では最低1週間は作業が停止。コロナウイルスの感染が疑われる場合、自宅に医者を呼ぶためのホットラインが開設された。

1枚10ユーロもするマスク

最初は誰もこの状況を深刻にとらえていなかった。スプートニク特派員の周辺にはコロナウイルスの感染を疑う兆候がある人が3人いる。ところがこの3人はただの風邪だと決め込み、検査を受けようとしないどころか、仕事に行き、友達と会いと、普段と全く変わらない生活を送っていた。

とはいえ店頭からは手の殺菌用ジェルや抗菌マスクなどが次第に姿を消し始めた。3月9日の時点でマドリード州コラド・ヴァラルバ市の薬局では手の殺菌用ジェルは完売。店は購入希望者のリストを作成しはじめ、新たな入荷があり次第、電話をすると約束したものの、未だに一本の電話もかかってきていない。町で1軒だけ感染防止マスクを売っている店を奇跡的に見つけたが、お1人様2枚までの限定販売でしかも1枚あたり10ユーロと、余りにも足元を見て吊り上げた値段だった。

10日の朝には、食料品とトイレットペーパーの買い占めが始まった。10日のお昼には店の棚からは肉も野菜もなくなり、缶詰も牛乳も卵も姿を消してしまった。するとどこからともなくこんな噂が流れ始めた。もうこれ以上、店には何の食料も運ばれてこなくなる。唯一の例外はドッグフードだけになると。また、イタリアと同じようにスペインへの出入国もまもなく閉じられるという声もささやかれ始めている。とはいえパニック状態に陥る人は今のところ誰もいない。

© Sputnik / Anastasia Fedotova
スペインのスーパーマーケットで品薄

こういった事態になっているスペインだが、それでも皆、以前と変わらず夜はオープンカフェに憩い、犬と散歩し、友と語らいあっている。ただし一つ違うのは、挨拶の習慣で頬にキスをするのはやめたことぐらいだろうか。


スプートニクは新型コロナウイルスに関するその他の疑問と回答について別記事でご紹介している。こちらの記事およびこちらの記事をお読み下さい。