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    ロシアのウリュカエフ経済発展相

    閑話休題:「ウリュカエフ事件」にかかわる日本のマスメディア報道の劣悪さ

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    塩原俊彦
    筆者 塩原 俊彦
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    昨日、11月19、20日に放送になる「Japan Fm Network サードプレイス~町田徹の月刊経済ジャーナル~」の収録を東京で行った。高輪に自宅があるから、頻繁に東京に帰っているので、なんの負担でもない。講談社の方と夕食をともにしてから、タクシーで帰宅後、サウジアラビアと日本のサッカーを観戦。

    試合終了後、NHKの「ニュースウォッチ9」なる番組を見ていると、ロシアのウリュカエフ経済発展相の拘束のニュースが紹介された。唖然としたのは、その内容だ。国際部のなんとかいう人物がいうには、石油会社のロスネフチが絡んでおり、エネルギーにかかわる大問題に発展しかねないという。これは、まったくの誤報だ。評価すれば、零点。それどころか、「受信料を返還せよ」と要求したくなるほどのひどさだ。

    あまりにもひどりので、翌朝、朝日・毎日・読売・産経・日経を買い、高知への飛行機のなかで読み比べてみた。その評価をまとめたのが表「日本のマスメディアによるウリュカエフ報道の評点」である。筆者は新聞記者であったことがあるから、決められたスペースのなかに必要最小限の情報を詰め込みながら、要領よく記事を書く難しさを承知している。そのうえで、評価したわけだが、その出来は総じて劣悪だ。及第点に達したのは毎日新聞と日経新聞のみだ。

    表 日本のメスメディアによるウリュカエフ報道の評点(20161116日付朝刊)

     

    新聞名

    評価の概要

    評点(10点満点)

    朝日新聞(駒木明義)

    「おとり捜査」の実態を無視。事件の経緯への疑問が書かれている部分は評価できる。「政権内部の抗争」と言うが、その中身が書かれておらず、取材不足。

    5点

    毎日新聞(杉尾直哉)

    「おとり捜査員が用意した現金を受け取った際にその場で身柄を拘束されたという」という記述があり、捜査の実態が読者にわかるように工夫されている。捜査そのものや捜査情報の蓋然性についての分析があれば、10点。

    7点

    読売新聞(畑武尊)

    捜査の実態についての記述がない。「予算をめぐって意見の食い違いが表面化しており」という説明は民営化をめぐる対立であり、説明不足で、読者に不親切。

    3点

    産経新聞(遠藤良介)

    「ロスネフチの社長はプーチン氏の最側近であるセチン氏が務めており、今回の事件は政権幹部や治安機関の内部対立を反映したものである可能性もある」というのは一知半解。「おとり捜査」という実態がわかっていない。

    1点

    日経新聞(田中孝幸)

    「事件はロスネフチにも打撃との見方も浮上したが、同社は捜査に積極的に協力して刑事免責を受けたようだ」との記述があり、「おとり捜査」の実態に気づいている。記事の分量が多い分だけ、筆者も知らないかった情報も含まれており、評価できる。

    8点

    筆者はマスメディアの人々の不勉強を知っている。だからこそ、「地球座」のサイト(http://chikyuza.net/archives/tag/%E5%A1%A9%E5%8E%9F%E4%BF%8A%E5%BD%A6)に、「プーチン訪日前のロシア情勢」を5回に分けて書いたし、「≪上級者向け≫FSBを知らなければロシアは理解できない」もアップロードしておいた。この「スプートニク」のブログにも、「閑話休題:上級者向けプーチン政権の裏事情」(https://jp.sputniknews.com/blogs/201611052978954/)を公開しておいた。おそらく日本のモスクワ特派員はだれ一人としてこうした筆者の善意を知らないのであろう。その結果、いまのロシアの内情について、お粗末な分析しかできないのである。

     筆者は昨日の収録のなかで、今回の逮捕劇が「おとり捜査」によるものであることをはっきりと指摘しておいた。この理解がなければ、今回の事件は理解できないのである。

     「閑話休題:≪上級者向け≫プーチン政権の裏事情」のなかで、筆者はつぎのように指摘しておいた。

     ========================================

    「スグロボフは「作戦実験」(operative experiment)と呼ばれる、一種の「おとり捜査」を導入して、賄賂を誘発させて逮捕実績をあげて出世を急いだ。現に、複数いる内務省次官の一人に選任される直前までいったという観測があがるほど、「実績」をあげたのだが、そこには「無理」があったように思われる。「作戦実験」そのものに問題があったからである。

    これは、麻薬犯罪捜査の手法を贈収賄に適用したもので、2008年末に作戦捜査活動法の改正によって反腐敗のために「作戦実験」なる手法が導入されることになった。この改正は内務省の経済安全保障部門(これが2011年に経済安全保障・腐敗対抗総局に再編されることになる)が主導したとされており、おそらくシュコロフが中心となって行われたものだろう。だからこそ、シュコロフを後ろ盾とするスグロボフは「作戦実験」を派手に展開したのである。しかも、最終的な「屋根」として身を守ってくれる人物として、大統領府に親戚と噂されたコンスタンチン・チュイチェンコ大統領補佐官や当時のメドヴェージェフ大統領がいたわけだから、彼は大胆に捜査にあたった。」

    ========================================

     ついでに、今回のウリュカエフの拘束、その後の「自宅逮捕」劇の背後には、オレグ・フェオクチストフというロスネフチの副社長がいる。連邦保安局(FSB)の内部安全保障サービスの副長官を務めていた人物である。この人物については、筆者の考察「≪上級者向け≫FSBを知らなければロシアは理解できない」のなかに紹介しておいた。彼がいたからこそ、ロスネフチはFSBの捜査に協力できたことになる。ロスネフチ自体が贈賄側として問題化することなど、最初からないのだ。

    ゆえに、贈賄側のロスネフチも巻き込まれるかのような印象を与える産経新聞の記事は事実と違う。それは、NHKのニュースウォッチ9での報道と同じ、低劣なものということになる。

     「ウリュカエフ」事件をめぐっては、今後、資料を精査して考察をまとめたいと考えている。とりあえず、このブログで強調したかったのは、日本のマスメディア報道のいい加減さ、低劣化という事実である。

     どうか、このブログを活用して、もっと真摯にロシアの内実を理解してほしい。そのために、今後も全力を尽くしてゆきたい。

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