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    閑話休題:ウクライナ危機から3年

    閑話休題:ウクライナ危機から3年

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    塩原俊彦
    筆者 塩原 俊彦
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    ウクライナ危機が表面化してから3年になる。そこで、ウクライナ危機について所管をのべてみたい。なお、「ちきゅう座」のサイトに「ウクライナ危機から3年:制裁解除は当然」という記事をアップロードしておいた。こちらもご覧いただければ幸いである。

    ロナルド・トランプ米大統領の登場で、クリミア併合に起因する対ロ経済制裁の解除が近づいているようにみえる。彼は大統領就任前から、対テロ作戦でロシアと協力できれば、制裁解除に踏み切ると何度も語ってきた。だからこそ、2016年末にバラク・オバマ前大統領によって行われた、米国大統領選に絡むロシア政府によるハッキングを理由とする35人の駐米外交官らの国外退去処分に対して、ウラジミル・プーチン大統領は対抗措置をあえてとらなかったと考えられる。

    2017年3月にEUサミットが予定されている。そこでは、ハンガリーなど複数のEU加盟国が対ロ制裁の解除を要求することが予想されている。おそらくこのサミットまでには、米国政府もなんらかの緩和に踏み切るのではないか。

    筆者は拙著『ウクライナ・ゲート:「ネオコン」の情報操作と野望』、『ウクライナ2.0:地政学・通貨・ロビイスト』において、一貫して対ロ経済制裁に反対の立場をとってきた。なぜならウクライナ危機の直接の原因は米国政府にあったからである。

    ポーランド国境からクルマで1時間ほどの地域に住むウクライナ人はきわめて貧しい。おまけに、失業率が高く、多くの若者が暇をもてあましていた。そんなウクライナ西部の人々を煽動し、武力闘争のやり方まで教え込んで、民主的な選挙で大統領に選ばれていたヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領をその地位から追い落したのが米国政府であった。国務省次官補、ヴィクトリア・ヌーランドというユダヤ人がこの作戦の首謀者である。

     

    米国による独我論

    「民主主義の輸出」という傲慢で尊大な独我論(「私」にあてはまることが万人にも妥当すると考える見方)に陥っている米国は、2003年のイラク戦争を皮切りに、ジョージア(グルジア)でミハイル・サーカシヴィリ、ウクライナでヴィクトル・ユーシェンコという親米派を大統領に就け、それを「アラブの春」につなげ、さらにウクライナで再び実践したのである。

    歴史が教えているのは、こうした「民主主義の輸出」が各国の政治・経済秩序を破壊し、多数の人命を奪い去ったという事実である。イラク、ジョージア、ウクライナ、エジプト、リビア、シリアなど、多数の国々が大混乱に陥ってしまった。おそらくもう百万人以上の人々が死傷しただろう。この責任の多くは米国政府にあるとみなすべきだろう。

    閑話休題:早大スキャンダルと「法の支配」
    © 写真: Presidenti of Russia Press Office
    なぜこんな独我論がまかり通るのかという疑問がわく。おそらくそれは、キリスト教と深く関係している。より正確に記せば、キリスト教に基づく個人主義が神の前に立つ裸の個人、無力な個人を形成し、その無力感ゆえに神にも似た普遍性への強い憧憬をいだくようになる。ゆえに、同じキリスト教を信じる者の連帯を前提に、その価値観に全幅の信頼をおいてその価値を宗教的に違う価値観をもつ者らに押しつけるのである。普遍の真理を背にした彼らにとっては、「民主主義」が絶対的な正義であるのだから、彼らはなんのためらいもなく、この価値観を振りかざすのだ。

    事態を深刻にしているのは、マスメディアが「アラブの春」と称して、こうした「民主主義の輸出」を礼賛したことである。「民主主義の輸出」が決して好ましいことではないとなぜ糾弾できないのか。マスメディアのバカさ加減には心からあきれはててしまう。

     

    「民主主義の輸出」の大間違い

    民主主義なるものが金科玉条のように絶対的な善であると考えるのはまったく間違っている。歴史をみればわかるように、いつどのように民主化を進めるかはその後の各国の統治に大きな影響を与えている。たとえば、ギリシャは1844年に憲法を制定し、1862年のクーデター後、デンマーク出身のゲオルギオス1世が即位、1864年に新憲法が制定された。これにより、男子普通選挙が実現された。普通選挙の実施が民主化の証とみなせば、ギリシャは、米国はもちろん、英国、ドイツ、ベルギーなどよりもずっと早期に民主化していたことになる。だが、その早期の民主化がその後のギリシャの発展に寄与したとは決して言えない。

    むしろ、家族重視のギリシャでは、主権国家に対する不信感が強く、普通選挙が強い主権国家の創出へとはつながらなかった。それどころか、国家主導の産業化が後手に回り、経済発展が遅れてしまう。むしろ、権威主義的な主権国家が産業化をある程度まで進めた後で民主化させたほうがより安定的な政権運営を可能にすることが歴史的にわかっている。

    民主化は各国の政治経済状況に応じて、自発的に進むべきであり、外部から移植しても、決していい結果をもたらすわけではないのである。まあ、その例外が日本やドイツなのだが、そこには官僚支配の継続があったと、筆者は考えている。ナチスは政権奪取後、既存の官僚を一掃せず、そのまま活用したし、第二次大戦後も、官僚の多くは仕事を継続できたから、それが民主化路線の定着に役立った。日本の官僚支配も生き延びたのである。

     

    反省すべきは政治家、マスメディア、御用学者

    いずれにしても、「民主主義の輸出」というバカな政策をトランプは踏襲しないだろうと思う。だが、国務省内には「民主主義の輸出」に真理を見出してきた複数の人々がいる。そう簡単に彼らの影響力を削ぐことはできないだろうと、筆者は懸念している。トランプの言動にはたしかに問題はあるが、その前に、ジョージ・W・ブッシュ、オバマといった人物およびその取り巻き、マスメディアは過去の事実としてこうした惨劇にかかわったのであり、猛省すべきであると思う。「トランプを批判する前に自らの過去を懺悔しろ」というのが筆者の意見である。なお、前述したヌーランドは国務省次官補を辞める。

    ウクライナ危機は米国の独我論を直接の契機として米国政府によって引き起こされた悲劇であったと理解すべきであろう。それなのに、いま現在もロシアによるクリミア併合に対して、対ロ制裁が継続されている。ウクライナ国内の大混乱の引き金を引いた張本人である米国政府の責任を問うことなく、EU各国政府や日本政府などはこの制裁に加わってきた。こうした事実に気づかぬまま、米国に安易に追随し、「悪いのはロシアである」という言説が蔓延した。そのお先棒を担いだのが御用学者とマスメディアということになる。

    こういった連中は米国が対ロ制裁を緩和する場合、なおも「対ロ制裁を継続せよ」と言い張るのだろうか。いい加減に、自らの主張の浅はかを認め、むしろ、米国の独我論に気づかぬままに米国を支持しつづけた自分を猛省すべきではないのか。まあ、なにも言わずに頬かむりを決め込み、スルーするのが関の山なのだろう。だが、人々はこうした連中のいい加減さをしっかりと見つめていると、筆者は期待している。少なくとも、このブログの読者は日本の政治家、官僚、マスメディア、学者の大方がまったくの出鱈目な連中であることを記憶にとどめてほしい。今後、騙されないようにするためだ。

     

    ウクライナの現実

    近代国家は軍によって対外的な暴力に、警察によって国内の暴力に対抗する仕組みを整備してきた。だが、こうした合法的暴力装置が国家主権によってうまく制御できなくなるとどんな事態が起きるかは歴史が物語っている。よく知られているのは、シチリアの例だろう。マフィア研究で有名なディエゴ・ガンベッタは、政府による治安維持ができなくなった19世紀のシチリアで安全保障サービスの提供という形でマフィアが勢力を拡大したことを明らかにしている。同じことがウクライナでも起きていると考えられる。

    暴力による治安維持とカネによる選挙を通じた政治支配が混在化しているのがいまのウクライナなのである。そんな国にIMFを通じた支援をしても、うまくゆくはずもない。米国はIMFを政治的に利用し、自らが誕生させた親米政権の維持のためにIMF資金を活用しようとしている。だが、それは「政商=マフィア」を維持するための資金提供を意味し、群雄割拠の政治的混乱を継続させるだけだろう。

    イーゴリ・コロモイスキーといった政商・政治家(=マフィア)こそ、その典型例だろう。彼は自衛軍をもち、好き勝手な統治を行ってきた。それにアルセン・アヴァコフ内相のような警察権力が加担しているから、事態は深刻化するばかりである。

    2014年10月14日、議会は「ウクライナ国家反腐敗局(National Anti-Corruption Bureau of Ukraine)法」を採択した。その後、ほぼ1年かけて、実際に国家反腐敗局は活動準備を整え、いまでは運営されている。だが、こんな機関とつくっても、前述したように一元的な統治が困難な状況を看過させたままでは、腐敗防止などできるはずがない。

    ウクライナの深刻な事態は「言語法」改正による公的場所での外国語の使用禁止を実現しようとする動きに現れている。ナショナリズムがますます激化し、外国人排斥を強めることで、国内に生じた権力の真空状態を維持して既得権を守ろうとする勢力が力を強めているのである。

     

    IMF支援の虚妄

    こうした現状維持勢力を助けているのがIMF支援である。IMFは2014年4月30日の理事会でウクライナへの2年間のスタンド・バイ・アレインジメント(SBA, 約170.1億ドル)を承認した。だが、翌年、IMFはSBAを途中でキャンセルして、2015年3月11日の理事会で、拡大信用供与ファシリティ(EFF)を適用し、4年間で約175億ドルもの融資をすることにした。ウクライナ政府は2015年3月に最初の融資として約50億ドルを、同年8月に約16.2億ドルを受け取った。本来であれば、2015年中にさらに約16.5億ドルの融資が実施される計画であったが、ウクライナのIMFとのプログラム実施の遅れからIMFは融資を実行せず、2016年9月14日になって理事会は約10億ドルの融資を承認した。これにより、ウクライナが受け取ったIMFは3回分合計で約76.2億ドルにのぼることになる。

    融資を1年延ばしたとはいえ、IMFはほとんどまったく成功する見込みのない融資をウクライナに継続しているようにみえる。経済安定化のために必要な政治的安定自体がまったく確立できそうもないからである。政治家はカネで投票行動を買い、得た議員の地位を利用して、それをビジネスにいかし、元を取るという構造ができあがっているために、腐敗防止はとてもできそうもない状況にあると指摘しなければならない。

    こうした現実を無視して、いくらIMFがウクライナに資金をつぎ込んでみても、その多くは闇に吸い込まれてしまうだけではないか、と危惧される。そもそも、IMFは反腐敗のためにどうすればいいかを知らない。したがって、適切な経済再建策など示せないのである。

     

    日本政府はどうすべきか

    日本政府との関係で言えば、日本は米国が対ロ経済制裁を緩和・廃止するのに合わせて、即座に同じ行動をとらなければならない。最初から対ロ制裁などする必要はなかったのだから。加えて、日本政府はウクライナ支援を見直し、国民の税金をドブに捨てるような行為を中止しなければならない。少なくとも、米国政府がIMFでどう振る舞うかをよく見極めながら、ウクライナの政情について厳しくチェックし、安易な資金投入を止めるように促さなければならない。

    他方で、国会議員は日本国民の税金がドブに捨てられている現実を厳しく追及すべきであろう。IMFの出鱈目を許してはならない。

    マスメディアはどうか、猛省し、「対ロ制裁を継続せよ」といった脳天気な社説は書かないでほしい。

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