危機のピークを脱したロシア――元IMF日本政府代表理事・小手川大助

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6月18日から20日まで、毎年開催されるサンクトペテルブルク国際フォーラムが開催された。このフォーラムは今回新規に追加された9月初めに開催予定のウラジオストックのフォーラムと並んでロシアでただ二つ大統領令で開催が決定されており、大統領が必ず出席するフォーラムとなっている。通常は今年同様に、夏至の日の直前に開催されるが、昨年はG8が計画されていたため、1か月早まり5月に開催された。

元IMF日本代表理事、現在、キャノングローバル戦略研究所で研究主幹を務める小手川大助氏が連邦CIS、在外同胞、国際人道協力問題局(「ロスソトゥルードニチェストヴォ」)へ寄稿したテキストをご本人のご承諾を得て全文引用。

昨年はキエフの政変の3か月後であったことから、各国に対し米国政府がフォーラムへの参加を思いとどまるよう強く求めたことから、参加者の人数やランクに通常よりも見劣りするものがあった。今年は2月のミンスクの合意以降の緊張の緩和を受けて、参加者も通常の年に近いものになってきている。例えば、本国から不参加の指示を受けて、欧州主要国の在ロシア大使は昨年は参加しなかったが、今年は参加した。また、昨年はランクを下げて出席した欧米主要企業も今年はトップが参加しこの傾向は、ロシアで大きな活動をしているシェルやBPといったエネルギー産業や、鉱山業に特に顕著であった。

 

マスコミ報道は上記のような点をあまり伝えておらず、ギリシャ首相とプーチンとの面会に紙面を割いているが、日ロランドテーブルが初めて開催されて盛況だったことや、筆者の知合いであるAIIB総裁候補やBRICS Bank副総裁候補などを中心としたシンポジウムの開催などにみられるように、欧米中心だった従来のフォーラムに加えて、中国に代表されるBRICSなどの新興国や環太平洋経済圏の諸国の参加が顕著となってきた。

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筆者はフォーラムに先立つ15日にモスクワ日本商工会議所のメンバー120名を相手にして最近の世界経済情勢についての講演を行った。また、その前後に、旧来からの知り合いであるロシア政府関係者や在ロシアの各国財界人とも意見交換を行った。その中から浮かび出てきたのは以下のような状況である。

政府ベースでは経済制裁を主導したり、積極的に制裁に参加しながら、民間レベルではちゃっかりロシアとの貿易を増やしている国がある。米国とフランスがその代表である。

他方で、制裁には慎重でありながら、いったん制裁が導入されるとこれをひたすら守ってロシアとの貿易量を減らしている国がある。日本がその代表である。

モスクワでは本来輸入できないはずのフランスのチーズが出回っているが、これらは全て「白ロシア」製のラベルが上張りされている。

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また、そもそも、EUの経済制裁は以下のようなひどい内容になっており、自国の金融機関は問題なく取引ができるのに、ロンドン支店を通じてロシアと取引するEU非加盟国っである日本の金融機関は制裁の対象になる懸念から慎重に臨まざるを得なくなっている。

EU経済制裁の内容

昨年9月の欧州の金融制裁は、EU以外とロシアの貿易にかかる新規融資を禁じていて、EUとロシアの貿易にかかる新規融資は制裁の例外とされており、欧州の政策金融機関も対露融資は止めていない。EUは自分たちの国益をしっかり守っているという意味では立派であるが、邦銀がこれに引っかかって融資を止めている。日本側でも打開策として、JBIC融資の活用、EU制裁のクラリフィケーションといったことが取り組まれているようだが、基本的には大きな制約から脱却できていない。これには、下記のような最近のロシアを巡る政治経済状況の好転が東京に伝わっていないところに一つの原因があるものと考えられるロシアの経済状況は前々回の12月の筆者のモスクワ訪問の時期をピークに次第に好転してきており、完全にパニック状況を脱してきている。

まず、金利は一時のような20%という禁止的な水準から11.5%にまで下がってきており、通常の金利水準に近づいてきている。為替は1ドル=53.33ルーブルとルーブル下落前に比べれば低い水準にとどまっているが、本来はもう少しルーブル高になってもおかしくないところ、以下の理由から、当局が意図的にルーブル安にしているところが見て取れる。

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ルーブル安を好機と見た海外からの投資資金の継続的な導入を図っていること危機感の継続によりロシアの企業家に自助努力を求めると同時に、これをバネに補助金の削減などの予算の削減を行っている。

上記の状況を考えれば、現在の状況は邦銀のうちでも欧米に支店を置いていない地方銀行などにとっては大きなチャンスであると考えられる。ロシア政府関係者の間にも日ロの関係強化について意識は極めて高くなってきている。プーチン大統領訪日の唯一のハードルである岸田外相の訪ロも、これまで我が国に圧力をかけてきた米国自身のケリー国務長官がソチを訪問した以上、環境は著しく好転している。

ケリー長官がモスクワではなく、ソチを訪問してラブロフ外相に面会し、引き続いてソチに滞在していたプーチン大統領に面会したのは、大統領との面会が本来の目的であったことを如実に表しているものと考えられる。

今年の9月3-5日にウラジオストックで大統領令に基づいて、フォーラムが開催されることが急遽決定された。大統領令に基づくものなので、当然プーチン大統領は出席する。また、プーチン大統領との中国での面会が予定されている習近平主席が出席する可能性もある。開催までの時間はあまりないものの、場所から見て欧米の参加はあまり見込まれず、日中やアジアの新興国が中心になる会議であり、日ロの経済交流にとって極めて重要な会議になることは確実である。

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これまで述べてきたとおり、ウクライナをめぐる地政学的リスクは、今年2月9日のメルケル首相のワシントン訪問の時期がピークであり、現在では、経済制裁は6か月間延長されたものの、ロシアをめぐる雰囲気は1年前と全く変わってきている。唯一の懸念材料はNATOを中心とする挑発行動であるが、一時はウクライナ政府に対する武器供与に熱心だった米国議会も、6月11日に、ウクライナの中で最も戦闘的である「アゾフ バタリオン」を「ネオナチ」と明確に定義して、彼らに対する武器供与と軍事訓練を禁止する法律を可決するなど方向性に変化が出てきている。

ロシア国内では、日ロの雪解けをにらんで、両国間の重要行事に参加する趣旨から、日本の美術品の大量購入などを真剣に検討している大富豪などが出てきている。ルーブル安という好環境を利用して、日ロの雪解けを力にロシアビジネスのチャンスを掴むか掴まないか、日本企業、特に東京の本社の判断が試される時期に来ていると考えられる。

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