04:55 2021年02月27日
文化
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チェーホフ国際演劇祭はいよいよ大詰めを迎えている。日本から唯一このフェスティバルに参加しているのは、静岡県舞台芸術センター(SPAC)だ。本演劇祭の参加作品「マハーバーラタ 〜ナラ王の物語〜」は幻想的な絵巻物のような、美しく壮大な愛の物語で、観劇が生活にとけ込んだロシア人さえも魅了してやまない。観客の熱狂の模様は、ロシアの国営テレビ局でも大きく取り上げられた。SPAC芸術総監督で、静岡から世界へ魅力的な舞台を発信し続けることで有名な、宮城聰(みやぎ・さとし)さんにお話を伺った。

— —今回でチェーホフ演劇祭へのご参加は4回目ですね。どのような経緯で、参加を決断されましたか。また、参加作品として「マハーバーラタ 〜ナラ王の物語〜」を選んだ理由は。

SPACとしては4回目ですが、1回目から3回目までは、10年間SPACの芸術総監督をつとめられた鈴木忠志さんのもと、参加していました。僕が就任し、8年あまりが経ったところで、この演劇祭への参加となりました。鈴木さんの作品はロシアでも高い評価を得ていましたから、その頃からチェーホフ国際演劇祭とSPACは深い縁ができていたのだと思います。特に、演劇祭の総責任者であるワレリー・シャドリンさんとのご縁だと思います。僕も若手演出家として、以前に静岡でシャドリンさんとお会いする機会もあり、もともと顔見知りでした。昨年の夏、SPACはフランスのアヴィニョン演劇祭に招聘され、メイン会場である石切場で「マハーバーラタ」を上演しました。シャドリンさんはよくアヴィニョン演劇祭に来られる方で、昨年もやはり観に来ていました。シャドリンさんは「マハーバーラタ」をご覧になり、その日のうちから「この作品を来年のチェーホフ国際演劇祭に呼びたい」とおっしゃっていたそうです。SPACのスタッフに、「宮城監督と話がしたいのだか、どこで会えるか?」と聞いて、すぐ僕を探してくれたそうです。2日後、シャドリンさんから正式に「ぜひマハーバーラタをチェーホフ国際演劇祭に持ってきてほしい」との招聘を受けました。



— —ロシア人の観客の反応は、日本と比べていかがですか。

モスクワほど、市民が演劇を愛している街は他に無いでしょう。観客も目が肥えているし、これまですばらしい演出家や俳優を山ほど輩出してきました。その中で自分たちの芝居がどういう評価を得るのか?これは言ってみれば、僕たちの芝居の普遍性・純度というのが問われるリトマス紙のようなものです。ですから、大変意気込んで、また同時に緊張しながらモスクワにやってきました。すると、正直驚くくらいに、観客の皆さんが僕たちの芝居を盛り上げてくれるんです。客席と舞台が一体となった劇場空間が出現して、終わったときには俳優のほうが喜び、嬉しくてしょうがないといった様子でした。芝居の枠組は、インドの古代叙事詩が、千年前の日本に伝わってきた…というものです。この東洋的な問題意識がどれくらいモスクワの観客に響くのかという心配はありましたが、杞憂でした。芝居の一番最後に届ける一番大事なメッセージは、「様々な諍いがあったが、それを乗り越えて、人々が調和に到達する。そのときに階層、貧富の差などの垣根を乗り越え、幸せを得る。諍いの中ではなく、平和の中でこそ幸せを満喫できるのだ」という、とてもシンプルなものです。このメッセージが客席にストレートに届き、客席の熱い反応が得られました。本当に僕たちは、モスクワのお客様に感謝しています。

— —日ロ関係は政治では難しい局面を迎えていますが、今回のロシア訪問にあたり、何かしらの影響はありましたか。

芸術というものが一番必要とされる瞬間はむしろ、政治・経済・軍事のような問題があって上手くいかない時期、緊張が高まっている時期だと思います。そういうときこそ、芸術の力というものが求められるのではないかと考えています。夢見がちな話かもしれませんが、芸術に感動したとき、人は自ずとそれを創った人にリスペクトを抱くと思うのです。相手がどこの国の人かということは、その瞬間は関係なく、純粋に「これを創った人はすごい」という素朴な気持ちになり、人間の心の一番深い部分で相手のことを信頼できるような気がしてきます。こういうことを思い出させてくれるのが芸術です。その意味では、モスクワの方に自分たちの芝居を観てもらい、こういうものを創る連中と仲良くしたいな、と思ってもらえると、嬉しいなと思います。

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