2013.02. 5 , 00:27

中国MDシステムは誰に備えてのものか?

中国MDシステムは誰に備えてのものか?

 中国は、世界で2番目に、流体力学に基づく捕捉装置を用いて、弾道ミサイルをその軌道の途上で迎撃することの出来る国となった。そうしたニュースが1月末、新華社通信に伝えられた。戦略技術評価センターの専門家ワシーリイ・カーシン氏は中国の創設したMD(ミサイル防衛)システムの制御性を高く評価している。

  戦略対ミサイル防衛システムは、特殊な兵器である。敵方の大陸間弾道ミサイルあるいは中距離ミサイルの迎撃を任務とする対(アンチ)ミサイルは、ほぼ常に、自らが撃ち落とすべきミサイルそのものよりも高くつく。さらに、確実に撃ち落とすためには、ひとつの目標に対し2発あるいはそれ以上の数の迎撃ミサイルが必要とされる。

  種々の情報を総合すると、中国がMDシステム実験に用いたのは、迎撃ミサイルKT-2である。KT-2は重燃料大陸間ミサイルDF-31を基礎に建造される重量級ミサイルである。中国は、自らの戦略ミサイル兵器について、情報を公開していない。しかし、米国のMDシステムで用いられているミサイルならば、その価格について入手可能な情報がある。

  米国の迎撃ミサイルGBIを例にとってみよう。GBIは地上基地GMDのMDシステムで用いられているもので、その価格は当初、7000万ドルであった。その後、実験データをもとに構造に修正が加えられ、価格は9000万ドルに上った。こうした価格のものについては、迎撃ミサイルの大量購入ということは行われない。GBIについても、毎年購入されるものではない。中距離ミサイルを捕捉するための、やや威力に劣る迎撃ミサイルについては、年間20発から50発ほど、購入されている。しかしこれ以上は、莫大な軍事予算をもつ米国にとっても、荷が勝ちすぎるのだ。もしもMDシステムの大規模建造が米国の手にさえ負えないならば、今日の中国がそれを実現出来ようなどとは期待されない。

  MDミサイル複合体は、敵方のミサイル攻撃に対する防衛システム全体のほんの一部に過ぎない。高価な一部であるが、最重要の一部とも言われない。敵方の弾道ミサイルに対する最良の盾は、従来通り、敵ミサイルの発射に先立ちその発射基地に確証的な破壊を与え、無力化することである。高価なMD複合体は、それでも地上における無力化を免れ、発射に成功された少数の敵方ミサイルを捕捉するために必要なものなのだ。

  中国のMDシステムは誰に備えて設置されるものか?米国やロシアに対抗する意味のものでないことは保証済みだ。中国の戦略兵器保有量は、現状、あまりに乏しく、中国がその攻撃によって米国ないしロシアの戦略的ポテンシャルに本質的な損害を与えるチャンスはまず、ない。 中国のMDシステムは、明らかに、むしろ隣接するアジアの国家から自国を守ることを使命としている。その隣接諸国は、ミサイルおよび核のポテンシャルを、初期段階とは言え、有している。その筆頭はおそらく、インドである。インドのミサイル攻撃力はそう高くない。しかし、インドのミサイルは、主として、中国抑止ということを念頭において設計されている。インドにはわずか十数発の核弾頭しか存在しないものと考えられる。インドはなるほど、中距離弾道ミサイルの開発において巨大な成功を収めているが、その中距離弾道ミサイルにしたところで、わずか数十発程度しか保有していないのだ。

  ここで指摘しなければならないことは、これら火力も、その価格はMD一基に遠く及ばないということだ。インドで最も高価かつ完成された弾道ミサイルである、飛距離5000kmを越える「アグニ5」は、インド政府の発表によれば、一発の価格が900万ドル。すなわち、米国のGBIより10倍も安価だ。おそらく、「アグニ5」を捕捉可能な迎撃ミサイルKT-2を擁する中国のシステムも、その「アグニ5」より数倍高価であろう。もっとも、捕捉能力はまだ100%とは言えないだろうが。

  中国はこれから、偵察能力の向上のために、航空宇宙部門に膨大な額の費用を投じなければならない。また、インドのポテンシャルを中和するための非核火力を高めるのにも、多額の費用を投じねばならない。一方のインドも、長らく必要なだけの注意を割いてこなかった自前の対空システムの構築を急がなければならなくなるだろう。さらに、インド自身のMDシステムを創設するために力を注がなければならなくなるだろう。

  台湾が中距離弾道ミサイルの開発プログラムを推進していることは周知の事実だ。両岸関係の緊張緩和にも関らず、台湾のミサイル開発は精力的である。かつて台湾のミサイルは、せいぜい上海に届く程度のものであったが、今や、台湾自身の発表によれば、中国内陸部、あるいは北京をも脅かすものにまで成長している。

  韓国は飛距離800kmの弾道ミサイルの開発計画を進めている。極めつけは、中距離ミサイルを豊富に保有し、核兵器さえ有していると見られる、パキスタンと北朝鮮である。両者とも中国と良好な関係を保ってはいる。しかしまた、両者とも深刻な内情不安を抱えており、行動には予見がきかない。

  不安定な地域に位置する中国が、自前のMDシステムの構築に踏み切ったことは、驚くに当たらない。もっとも、必要に迫られてMDシステムを構築することで、地域諸国の戦略的ポテンシャルの拡大競争が引き起こされてしまうということも、見ておく必要がある。

  ワシーリイ・カーシン

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