2013.09. 3 , 11:26

   ロシアの調査隊がモンゴルの湖ヒャルガス・ヌールにおける調査をひとまず終えて、この程帰還した。かの地には定期的に、謎の大型爬虫類の足跡が出現している。

     最初に足跡が見つかったのは80年代。ヴィクトル・ヤルモリュク率いるソ連・モンゴル地質学調査隊が調査の帰りに湖畔にキャンプを張って以来、地質学調査の帰路にたびたび湖畔のキャンプが利用され、時には動物学者が同道していることもあったが、その都度、比較的新しい足跡が目撃されていた。水際から1.5kmのあたりに点々とつけられたその足跡は、何やら、爬虫類、それも複数の爬虫類が、湖から陸に上がり、歩き回っていたようだった。岸辺に寝転んでいたと覚しい痕跡もあった。陸上生物あるいは人間の足跡であるという推定は的を外れているようだった。同様に、波や風で偶然描かれた紋様であるとも考えられないのだった。およそヒャルガス・ヌールの湖畔は生存に適さぬ荒れ果てた一帯である。最も近い集落も湖から100km離れている。モンゴルの遊牧民が近くを通ることはあろうし、オートキャンプがほど遠からぬところにないこともないが、普通彼らは波打ち際までは近寄らない。極め付けに、あるとき地質学調査隊は、夜間、湖の沖から、吼え声が上がるのを聞いた。

     財政上の理由などから、これまで専門家による大規模な調査は行われなかった。しかしこの間、アマチュアのUMA愛好家が湖畔を度々訪れるようになった。作家で社会活動家のイーゴリ・グリシン氏は今夏、2010年に続いて2度目に、ヒャルガス・ヌールを訪問した。今回は最新式の携帯用ソナーなど、装備を固めての調査であった。グリシン氏本人に話をきいた。

    「前回の調査では、サイズの異なる足跡に加えて、骨が見つかった。明らかに、モンゴルの在来種のものではない。また魚を釣り上げてみると、しばしば牙で噛まれた跡が見つかった。しかし知られている限り、この湖にはただ一種類、コイ科の淡水魚であるアルタイ・オスマンが棲息しているばかりで、そいつには歯がないのである。今回は携帯用ソナーを手にイカダで沖に出るなどして、湖底ならびに湖岸につけられた足跡が、3つのタイプに分けられることを突き止めた。このことから、次のことが考えられる。それぞれサイズの異なる複数の個体がつけた足跡が残されているのか、あるいは、一個体の体の各部位がつけた痕跡であるのか」

     さらに湖岸の砂地に追跡者が見たものは、はしけかボートかを曳き回したような痕跡であった。しかし人里まれなヒャルガス・ヌーラにあっては、一体どこからはしけだのボートだのが現れたものだろうか。調査団の結論は、これは謎の動物が石を運んだ跡であろう、というものだ。物の本によれば、古代の水棲生物、たとえばプリオサウルスは、食物を消化するために、あえて石を飲みこんでいたという。

     やはりヒャルガス・ヌールを訪れたことのある、ワルダイ国立公園の研究員である動物学者のワレーリイ・ニコラエフ氏は、かの地に古代の大型爬虫類が棲息しているとの仮説に、全く同調している。人々が湖に近づかないのも、まさに、謎の生物の前に恐怖を感じるからだ、とニコラエフ氏。なお、この生物のことを、地元住民は「鯨」と呼んでいるらしい。氏のコメントをご紹介しよう。

    「地元モンゴルの住民たちは、湖岸に近づくことはあっても、湖自体には全く無関心である。ヒャルガス・ヌールに比較的近在の者は、湖には巨大な生物が棲息していると、口ぐちに語る。なるほど、それら口説は、伝説に過ぎぬ、神話じみた迷信に過ぎぬ。しかし科学の歴史をひもとけば、かような尋常ならざる口説をもとに生物の捜索が始まり、成果を得たという例は少なくないのである。生きた化石こと、4億年前からその姿を変えることなく生き続けているシーラカンスしかり、森の貴婦人こと、キリン科のオカピしかり、笹の葉を食べる熊こと、パンダしかり。みなもと伝説の生き物であった」

     ヒャルガス・ヌールのヌシは、氷河期以前から地上に留まっている、古代の生物かもしれない。実に、氷河期といえども、南の地帯、たとえば中央アジアは、まったく氷結したわけではなかった。学説によれば、モンゴルのこの一帯の湖は、洪積(更新)世の時代には、ひとつながりの海であった。そして例の、正体不明の爬虫類が捕食するところの淡水魚、アルタイ・オスマンそのものも、古代の種目である。

     自然の神秘の解明のためには今後、何が必要か。言うまでもなく、プロの研究者による、そしてハイテク機器による、大規模調査が欠かせない。しかし勇敢なるイーゴリ・グリシンの調査団を拡大できる望みは現状、ない。人里まれな、まるで荒野か、あるいは火星の地表かと思われるような湖岸。何やらこの地は人々を寄せ付けない、近づいたものを脅かし、遠ざけるような力を放っているらしい。再びグリシン氏の語るところを聞こう。

     「奇妙なことに、我々の調査に同行してくれるはずだった動物学者たちは、みな、土壇場になって同行をキャンセルした。正直に言おう。かの地はあまり、人の入来を歓迎しない。我々はある種の感覚を共有した。かの地では、自然の諸力が、我々がそこにいることに対して、反発を起こすのである。そもそもあの一帯は非常に乾燥した気候である。しかし我々が到着し、逗留する気配を見せるが早いか、時化が始まり、雨が降りだし、その雨は4日間立て続けに降り、そこらを稲妻が走った。湖における調査は難航した。嵐や突風で、身の危険さえあった。いつ抜け出せないような窮境に陥れられるか知れたものではなかった」

     しかし追跡者は諦めない。来年、今度は学会の正系をなす学者らを連れて捲土重来する意欲に燃えている。

  •  
    シェアする