「闇をめぐる旅」第三部、なぜ? 【動画・画像】

© AFP 2023 / Toru Yamanaka福島県
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「スプートニク」は、チェルノブイリと福島の立ち入り禁止区域のバーチャルツアーを終了する。しかし、いわば大勢の「観光客」が、そこを現実的に訪れている。彼らを惹きつけているのは、もちろん楽しくのんびり時間を過ごす機会ではない。多くの人がこれらの場所の名を耳にしたらすぐに恐怖を覚える。

「闇をめぐる旅」第一部、チェルノブイリ原発(動画・画像)
「闇をめぐる旅」第二部、福島第一原発(動画・画像)

しかし、これらの「ゾーン」を訪れるために健康を危険にさらす用意のある人たちがおり、「ゾーン」を訪れる可能性を希望者たちに提供する人々がいる。彼らの動機は何なのか?

チェルノブイリでは、初めてツアーを販売したのはウクライナ緊急事態・チェルノブイリ原発事故住民保護省が設立した特別な代行機関だった。その目的は世論の更なる関心や、追加資金を惹き付けること。観光客から得た資金は、被災地支援に充てられるはずだった。しかし役人の不正の疑いなどが原因で、代行機関は2013年に閉鎖された。そして民間企業が事業を引き継いだ。

チェルノブイリの旅行代理店「Go2Chernobyl」のガイド、ヴィクトルさんは、「スプートニク」のインタビューで、同社の創設者はウクライナで観光が発展するための新たな方向性を探しただけだったと語っている。ヴィクトルさんも、自分のクライアントが特別だとは感じていないという。ヴィクトルさんは、次のように語っている―

「訪れているのは普通の人たちです。そのうちの大勢が、ただチェルノブイリについて非常にたくさん聞いたことがあるという人たちです。ビジネスの用事で来る外国人が多く、彼らは自由時間がある時にチェルノブイリを訪れます。なぜなら皆これが非常に大きな悲劇であり、どれほど大勢の人たちが苦しんだのを知っているからです。」

なお、いずれにせよツアーは彼らにとって珍しいものだ。ヴィクトルさんは、「ツアーを終えた後、人々は全く別人となり、意識も変化します。多くの人が、知り合いにチェルノブイリを訪れるようアドバイスします。言うなれば、これは実際にすごいことです」と述べている。

​福島の観光は全体的に発展した。その理由はチェルノブイリと同じだ。違いがあるとすれば、日本の場合は悲劇の記憶がまだ新しいということだ。人々の苦しみはまだ癒えておらず、まだ起こったことを理解するに至っていない。そのため社会にはこれに関して大きく異なる意見が2つ存在しており、原発ツアーのイデオロギー的側面が強調されることが多い。

哲学者で「福島第一原発観光地化計画」の発案者の東浩紀氏は、「福島第一原発の事故跡地を『観光地化』する計画」について、次のように説明している―

「人間は好奇心の生き物です。福島第一原発事故の跡地も、時が経ち、除染が進み、悲劇の記憶が薄れれば、人々の好奇心の対象となる日が必ず来ます。けれども、この事故の大きさと、そのような悲劇に行き着いた戦後日本社会の愚かさは、決して忘れてはならない。それは「過ち」として、きちんと未来に伝え、そのうえで新しい日本を作っていかなければならない。だからこそ、私たちは、未来のあるときに必ずやってくるであろう「観光客」のため、どのような施設を作ればいいのか、どのように「フクシマ」の悲劇を伝えればよいのか、あらかじめ考えておくべきだと考えるのです」。

福島のガイド、三浦広志氏は、「スプートニク」のインタビューで、観光が、復旧作業の進捗状況や、起きる可能性のある危険についての情報公開を促進すると指摘し、次のように語っている―

「私たちは、政府や東京電力に危険性の無い廃炉作業を進めてもらう必要があります。そのためにも、日本中の皆さん・世界中の皆さんに、福島原発事故後の現状を知らせるとともに、地震と津波の危険性が高まっている今の日本における原発の存在の危険性そのものを共有してもらう必要があると考えています。」

三浦氏は、福島の農業復興に取り組み、被災者を支援し、福島の現状を伝えているNPO法人「野馬土」を立ち上げた。

​また個人ガイドの平井有太氏は、「スプートニク」のインタビューで、重要なのは悲劇の記憶を留めることだとの考えを表し、次のように語っている―

「まるで福島の原発事故がなかったかのような、または収束したかのような、東京オリンピックに浮かれ、無関心を装う日本社会に嫌気がさし、現場に来ていただくこと、実際見ていただくこと、ご自分で考えていただくことをおしすすめたい気持ちで始めました。国や東電、メディアなど問題はあげていけばきりがありませんが、一番は私たちの心の中の、無関心のもっと奥、無自覚であると考えています。」

平井氏は、このような悲劇が再び繰り返されることがないためにも、人類はそこから教訓を学ばなければならないと強調している。平井氏は原発事故について、自分にとっては個人的な悲劇となり、その人生全てを変えたと語った。平井氏はガイドとして活動するだけでなく、福島について記事も執筆しているほか、福島の農業復興プロジェクトにも参加している。

このような人々の動機は明確で気高い。だが彼らの仲間は少ない。その理由は複数あるが、もっと大きな理由は危険性だ。

​原発事故の被災地で汚染を引き起こす主な放射性核種は、セシウム137とストロンチウム90だ。これらの半減期は30年。だが学者たちによると、本当にきれいになるまでにはその10倍の時間がかかるという。そのため福島はもちろんのこと、チェルノブイリも「クリーン」だと言うことはできない。時にプルトニウムに出くわすこともある。プルトニウムの半減期は2万4千年だ。立ち入り禁止区域では、土、水、空気の全てが「放射線を放出」している。そのため立ち入り禁止区域では、露出の高い服装で歩いたり、地面に座ったり、地面に私物を置いたり、建物や植物に触れたり、現地のベリーを食べたり水を飲んだり、さらには屋外でただ食べたり飲んだりすることさえも禁止されている。

​環境保護団体「グリンピース」ロシア事務所は、娯楽のために汚染ゾーンを訪れることに断固として反対しており、これは極めて軽率で無責任な政策だと指摘している。「グリンピース」ロシア事務所でエネルギープログラムプロジェクトの責任者を務めるラシド・アリモフ氏は、次のように語っている―

「いずれにせよ皆さんは低線量の放射線を浴び、それが皆さんにどのように影響するのかを予測するのは不可能です。性別、年齢、健康状態が多くを左右します。観光客が数千人いたとしたら、少なくともそのうちの数人は深刻な病気になり、早すぎる死を迎えるでしょう。調査は、放射線がゾーンの動物に強い影響を与えていることを示しており、この影響は完全には分かっていません。リスクは完全には明らかにされていないのです。」

グリンピースは、福島とチェルノブイリの現状を調査し、それに関する報告書を掲載した。

​一方で、倫理的側面も重要な問題だ。このような観光の支持者たちは、これが重要な心理的機能を果たし、復興、そして大勢の人が命を落としたという理不尽な事実を何とか受け入れ、また歴史の教訓を胸に刻み続けるのを助けると述べている。実用的な視点から見て、このような観光は社会と公人の協力を簡素化し、被災地の復興や被災者支援のための資金調達を手助けする。一方で批判の声も多数上がっている。旅行会社は他人の不幸をネタにしてお金を稼いでいるとして批判を浴びている。訪れる人々の行動も問題となっている。墓石をバックにセルフィー(自撮り)をするのがとても悪いアイデアであり、福島でポケモンを捕まえるのが極めて冒涜的であるばかりでなく、非常に危険であるということに反論するのは難しい。しかし、世界中でこのようなツアーの人気は高まる一方だ。

一番正直な発言は、本当の理由は説明できないというものだろう。ロシア語を用いているプレスには、「チェルノブイリ・ストーカー」へのインタビューがたくさんある。それらを読むと、彼らが「ゾーンから離れない」、「そこでは時間が止まった」など、よく同じことを繰り返し述べていることに気づく。しかし彼がゾーンから離れない理由を詳しく説明できる人は誰もいない。このようなインタビューである人物が最後に述べたのは次のようなフレーズだった―「私はどこへ行くのかを隠さない。だが私には何も言わない。ただこめかみの近くで指を回しているだけだ。たぶん私のことを頭がおかしいとでも思っているのだろう」

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