09:58 2020年04月02日
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先週訪日したフィリピンのドゥテルテ大統領は嵐のように去って行った。暴言癖で知られる大統領はフィリピンに戻った途端「帰りの機内で空を眺めていると『汚い言葉をやめないと飛行機を落とす』という声が聞こえた。誰かと思ったら神だった」と述べ、暴言封印を宣言して周囲を驚かせた。どこまでもユニークな発言が注目を集める異色の大統領である。

フィリピン政治に詳しい近畿大学国際学部の柴田直治(しばた・なおじ)教授によれば、トークの面白さと聴衆へのアピール力が、ダバオ市長だったドゥテルテ氏を国のトップに押し上げる原動力になったという。一方で柴田氏は「ドゥテルテ大統領の暴言と、彼の真意や基本政策は選り分ける必要がある」と指摘する。

柴田氏「オバマ米大統領に向かって『地獄へ行け』などというのは暴言ですが、『米国との関係を絶つ』『米国との合同軍事演習をやめる』というのは、大統領の信念に基づく政策ですから、区別して考えるべきです。また、彼の発言がよくぶれることは事実なので、個々の発言に過剰に反応することは適切ではありません。いくつかの発言内容を分析すれば大統領の真意が見えてきます」

ドゥテルテ大統領は短い期間に中国と日本を立て続けに訪問したため、日本メディアの多くは、フィリピンは日中を天秤にかけ、両方から最大限の投資を引き出そうとしているという論調で報じた。しかし柴田氏の見解は異なっている。

柴田氏「フィリピンと中国の関係は近年良好でしたが、前アキノ政権の中盤から南シナ海問題をめぐり険悪になりました。今回の訪中は、南シナ海問題を棚上げし、経済的な利益を優先して中国と『復縁』することが狙いでした。アジア諸国の貿易相手のトップはいずれも中国ですが、フィリピンだけは最大の輸出相手国が日本です。両国が南シナ海問題で揉めた2012年以降、中国が事実上の経済制裁を課してきたからです。それを解除させることがドゥテルテ大統領の思惑だったわけです。

中国とはあくまで経済的利益を追求した復縁ですが、日本とは違います。フィリピンとしても、ドゥテルテ政権としても、日本とはずっと友好的です。今年始めに天皇陛下もフィリピンを訪問しましたし、ドゥテルテ大統領自身、個人として以前から日本が好きなのです」

反面、米国嫌いで知られるドゥテルテ大統領。「中国とロシアと組み、世界と戦う」「フィリピンを中国人とロシア人に開く」など、中露にシンパシーがあると見られる発言を繰り返している。中国との付き合いは経済的利益が目的だと見られるが、ロシアとフィリピンとは果たしてどんな関係があるのか。

柴田氏「これは米国に対する一種の意趣返しで、『米国が対抗しているのは中国とロシアである、だから俺は米国よりそちらへ行く』というメッセージだと思います。武器の調達先として米国を頼るのではなく、ロシアという選択肢もあるという姿勢を見せているのです。フィリピンとロシアは直接大きな利害関係があるわけではないので、ロシアへの接近に深い意味があるとは思いません。想像ですが、ドゥテルテ大統領はプーチン露大統領を自分と似たタイプの指導者だと考え、親近感を感じているのかもしれません」

さて、日本にとって頭が痛いのは、南シナ海問題だ。今まで日本は米国と組み、フィリピンを前面に立てて、中国に対抗するという構図を描いていた。しかも中国の主張を退けたハーグ仲裁裁判所の判決も追い風になるはずだった。ところが、当のフィリピンが問題の棚上げを表明し、そのタッグから離脱する可能性が出てきた。

柴田氏「フィリピンは『米国とは組まない』と言っています。日米にとっては深刻な事態です。南シナ海問題の戦略・戦術を抜本的に組み替えなくてはならないおそれがあります。米国は南シナ海問題に対処する手がかりを失った形です。日本としては、米国、オーストラリア、ベトナムも含めた対中包囲網の中にフィリピンを踏みとどまらせる役割を担う必要があります。米国がフィリピンと口をきけない以上、対米追従ではない、日本の独自外交の腕の見せ所であるともいえます」

ドゥテルテ大統領の国民の支持率は極めて高く、政策が逸脱してもあえて耳障りな助言をできる人が国内には見当たらない。安倍首相が大統領と個人的な信頼関係を築き、フィリピン外交にアドバイスできるようになれば、日本にとって大きな外交的成果となる。安倍首相はこれまでも強権的なリーダーとウマがあってきた。ドゥテルテ大統領ともうまくやれるかもしれない。

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