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    商談中、ベテラン通訳は何を考えているのか?日露メンタリティの見えない壁

    商談中、ベテラン通訳は何を考えているのか?日露メンタリティの見えない壁

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    徳山 あすか
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    先月、日本センターの主催で、講師に伊藤忠商事モスクワ事務所のドミトリー・ヴォロンツォフさんを招き、通訳講座「経済・ビジネス分野における露日口頭通訳の実践」が開催された。会場には現役の通訳やその卵、日本企業に勤務する人などがつめかけ、皆真剣に聴き入っていた。

    ヴォロンツォフさん自身はビジネスマンであり、通訳を専門としているわけではないが、ロシア人と日本人の商談に数え切れないほど参加してきた。プライベートでは頻繁に日本旅行へ出かけており、なんと日本人でも難しい「全都道府県制覇」を成し遂げた。そのときの写真や自身のエッセイをもとに、愛する日本についてロシア人に紹介するため、自身のウェブサイトも立ち上げた。まだ日本語版はないものの、日本の多様性がわかり、見るだけでも楽しい。本稿では、そんなヴォロンツォフさんの豊かな経験からくる露日通訳のアドバイスを少しだけご紹介しよう。

    旅行中のヴォロンツォフさん
    Dmitry Vorontsov
    旅行中のヴォロンツォフさん

    ロシア語を少しご存知の読者の皆さんは、日本語に直訳すると奇妙に聞こえるケースが多いことにお気づきだろう。最も典型的な単語は「уважаемый」(尊敬する~)だ。スピーチの冒頭では必ずと言ってよいほど使われるこの言葉だが、会議のしょっぱなで「尊敬する山田様」などと直訳すると、日本語ではやけに仰々しくなってしまうので、「お集まりの皆さん」や単に「○○さん」とすれば自然な会話となる。

    ビジネスの第一歩はパートナーの名前を覚えて信頼関係を築くことである。しかし多くの場合、ロシア人の名前に特徴的な「父称(ふしょう)」は日本人をパニックに陥れる。父称は父親の名前の語尾を変化させて作るもので、下の名前の後に置かれる。例えばプーチン大統領のフルネームはウラジーミル(名)・ウラジーミロヴィチ(父称)・プーチン(姓)である。このことから、プーチン父子は同じ「ウラジーミル」という名前であることが分かる。父称が必要なのは、呼びかけの際に、その人物に最大限の敬意を表すためである。しかしヴォロンツォフさんは「父称はわかりにくいので、日本人に対してはむしろ使わない方がいい。イワノフ部長、というように苗字に肩書きをつけると便利」とアドバイスする。

    ロシア人が知っていても日本人が知らない地名、あるいはその逆もある。例えば「ノボロシースク」という場所の名前が出てきたら、日本人のために何かしらの説明を加えてあげる必要がある。黒海の大きな港がある場所、と言うと「ああ、そうなのか」と理解してもらえる。そのためには、自分がその場所について知っている必要がある。秋田から鹿児島、というのも同様。ロシア人が秋田も鹿児島もどこにあるか知らなかったら、距離感や規模感は伝わらない。

    ロシア人と日本人との商談では、ロシア人がおしゃべり好きなあまり、本来のテーマから脱線することがある。そこで会議冒頭で「今日は何について話すのか」ということをロシア側から発言してもらうとよい。今日のテーマについて日本人に認識させるとともに、主題から離れないようにする効果があるというわけだ。通訳にとって困ってしまうのは、「YES」か「NO」で答えられる簡単な質問にもかかわらず、答えを言わずに延々と説明を始める人がいることだ。そうなると「通訳が正確に訳していないのではないか?」と、あらぬ疑いをかけられることもある。ヴォロンツォフさんは「たとえ気まずくても、話を遮って本題に戻すべき」と話す。

    また筆者にとって最も衝撃だったのは、日時の表現についてである。「2日後」とか「2週間後」という表現は日本人にとっては具体的な日付を示すが、ロシア人からしてみると「いつになるかわからないが、とにかく今ではない」ということにすぎない。例えば「2週間後に回答します」と言われたのが4月1日だったとして、4月15日に回答をもらおうとすると、用意できていないということはザラである。ヴォロンツォフさんは、時間の概念によるトラブルを防ぐため、「10日後」とか「来週の週末」という曖昧な言い方を使うのではなく、「デッドラインは4月20日の日本時間午後3時」というように、具体的に日時を名指しして共有することが大事だと主張する。

    参加者たちは講義を聴くだけではなく、ヴォロンツォフさんの実際の経験をもとにした素材を使い、日本語→ロシア語の通訳実践練習を行った。トライしてみると、言葉に詰まる人が続出。唯一、課題を完璧に訳せたアンナ・レショワさん(YKKロシア勤務)に話を聞いたところ「ヴォロンツォフさんの話はとても勉強になりました。今日得た知識を、仕事の中で生かしていきたいと思います。しかし実際は、主題からそれたことを長々と話す人がいたとき、それを止めるのはなかなか難しいです」と日本語で答えてくれた。

    ヴォロンツォフさんは「大学で日本語を学んで以来、読む・聴く・話すなど、何らかの形で毎日必ず日本語を使うようにしています。市販の辞書はもう役に立ちませんから、知らない単語はインターネットで調べて、自分の辞書を作っています。わからない時はもう一回聞いてもいいわけですから、とにかく恐れたり黙り込んだりしないこと。助けてくれるのは経験だけです」とエールを送った。

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    • lazytruth
      私は仕事の関係上、ビジネス翻訳とテクニカル翻訳をしたことがありますが、「補足説明」と「言い換え」については、やはり悩むことが多かったですね。

      ビジネス翻訳の場合、その書面を根拠として相互に検討がなされるため、相互の認識における曖昧さを排除しなければなりません。そのため、何を省き、何を追加するかは、その業界の商慣習や常識などに依存した部分が多く、また国や会社ごとに微妙に認識が違ったりして、悩まされることが多かったですね。また会社によってはビジネス戦略上の駆け引きのため、あえて不明瞭に記載している場合があり、親切心が仇になる場合があり、本当に悩むことが多かったです。
      またテクニカル翻訳も最先端すぎる分野だと「共通認識」としての訳語がないため、ある意味「創作」に近い訳語を捻り出さなければいけない場合もあり、本当に胃が痛いことがありました。正確に訳そうとすると説明的な「文章」になってしまい、もはや「用語」でなくなってしまうし、端的に示しすぎると用語として意味が不明となります。

      通訳者も翻訳者も同じだと思いますが、あくまで立ち位置は「黒子」なんですよね。ですのでビジネスの場において司会者のように仕切ることは禁則事項たと私は考えます。そういう視点から見た場合、ヴォロンツォフさんがおっしゃっている「時間の概念によるトラブルを防ぐため、……曖昧な言い方を使うのではなく、……具体的に日時を名指しして共有することが大事だ」との発言が、どのような文脈で出てきたのか不明ですが、話者が望まない、若しくはあえて不明瞭にしておきたい場合もあるわけで、その様な場面で通訳者が「仕切る」ことは、それこそ出過ぎたマネだと考えます。ビジネスの場において黒子である通訳者・翻訳者が如何なることであろうと仕切ることは御法度です。仕切りたがりで、決めたがる通訳者・翻訳者はビジネスの場では排除されます。露日の同時通訳で有名だった米原万里さんは、徹底的に黒子に徹することで信頼を勝ち得たようですけど、どうなんでしょうかね。

      >> 市販の辞書はもう役に立ちません
      これは私も同じことを感じたことがあります。実務の場では、辞書に載っている訳語は「使えない」んですよね。
      ですので、当時の私は、辞書を「使えない訳語リスト」として活用していました。
      で、最終的に役立つのは、自分で作った単語帳と表現集なんですよね。
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