07:56 2020年12月06日
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ジェーシービー・インターナショナル(以下JCB)とロシア最大手の銀行「ズベルバンク」は、ロシアのズベルバンク加盟店においてJCBカードの取り扱いを2018年から順次開始することで合意したと発表した。これにより既存のJCB取扱店とあわせ、ロシアの約8割の店舗で、JCBカードが利用できるようになる。

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JCBカードは、ソ連時代から観光地やレストランといった場所で利用でき、年々利用範囲を拡大してきた。しかし今回のズベルバンクとの合意は特別な意味をもつ。ロシアでカード払いができる場所のうち2軒に1軒はズベルバンクの加盟店だと言われており、しかもその多くは大手スーパーマーケットや飲食チェーン、携帯キャリアなど、ロシア人の生活に欠かせない店舗である。他行のシステムを利用していた店が、昨今増加している銀行倒産に伴ってズベルバンクに乗り換えるケースも増えており、加盟店数は拡大している。ズベルバンク広報部はJCBとの提携について「競争力と魅力を高め、顧客満足度を上げたい我々の戦略と一致する」と話している。

JCBは2010年ごろからカードによる消費が大きく伸びているロシア市場の潜在的な可能性に注目し、ロシアでのカード発行事業を開始する方針を固めた。2014年1月に現地法人を立ち上げた後、ロシア中央銀行から決済事業者としての許可を得た。そして2015年3月、ロシア大手のガスプロム銀行とスヴャージ銀行がJCBカードの発行を開始したのである。新決済システムの登場は、ロシア人の目に新鮮に映った。ロシアでは元々、VISAとマスターカードが約95パーセントのシェアを誇っており、実質的に他の選択肢がなかったのである。ロシア人がビザなしで旅行できる東南アジアや韓国・香港といった国々で優待を受けられたり、海外旅行先での買い物に対してキャッシュバックが受けられたりするメリットから、JCBは今日まで急速に会員数を伸ばしてきた。

そんな中で、JCBブランドの名をロシアに広く知らしめたのは、ロシアが独自に創設した国家決済カード「ミール」との提携による「ミール・JCBカード」の発行だ。このカードは国内ではミールとして、国外ではJCBカードとして使うことができる。2014年、クリミア併合により米国から制裁を受けたロシアでは、VISAとマスターカードで一部の支払いができなくなるという決済処理の混乱が生じた。そこでロシア中央銀行は国家決済システム「NSPK」を作り、決済処理は全てNSPKを通してロシア国内で行うように法律を改正した。国家決済カード「ミール」の登場は、NSPK創設に続く、ロシアの金融システム改革の重要な一歩だ。ミールはロシア政府の非常に強力な後押しで、瞬く間に利用可能店舗を国中に増やした。2018年には公務員や教師といった公職に就いている人の給料カードがミールになり、2020年には年金受給者がミールを使って年金を受け取るようになる。

ロシアのビジネス誌「エクスペルト」の金融アナリストであるアンナ・コロリョワ氏は、次のように話している。

コロリョワ氏「ロシア人にとって日本製という言葉は、『高い技術』とか『高品質』と同義です。ロシア人がなぜJCBを選ぶかといえば、JCBという会社の安定的な評判に加え、直感的なものだと思います。JCBは大変積極的に行動している会社で、ズベルバンクとの提携によってJCBブランドの存在感が市場に広がります。また、ミール・JCBを通して、インドやミャンマーなど、世界各国の国内ブランドと組んできた貴重な経験をロシアと分かち合ってくれるでしょう」

JCB の現地法人「ジェーシービー・インターナショナル・ユーラシア」は、ここ数年激変してきたロシアのカード業界の事情に柔軟に対応してきた。同社の末次崇(すえつぐ・たかし)社長は、ロシアのカード文化について次のように話している。

末次氏「日本でカードを持つには自分で金融機関に申し込まなくてはいけませんが、ロシアでは給与や奨学金などの支給口座に紐づいたデビットカードとしてカードを支給されるケースが一般的です。そのためか、複数枚のカードを使い分ける情報感度の高い方がいる一方で、カード払いのメリットを知らず、カードを現金引き出しのためにしか使わない方もいます。とはいえロシアが遅れているというわけではなく、例えばオンラインショッピングにおけるカード払いの際のセキュリティがしっかりしていたり、モスクワであればかなり高い率でどんな店でもカード払いができるなど、進んでいる面もあります」

ロシア人が初めて自分名義のカードを手にするのは、大学の奨学金をもらう時だ。ロシアでは、学費無料枠で入学できれば、額は小さいが国から奨学金が出る。また、多くの企業では従業員に対し給与受け取りのためのカードを配布する。その際、どの銀行のどんなカードが発行されるかは、大学や企業の取り決めによる。ちなみに筆者の留学時代、地方銀行で奨学金のキャッシュカードを受け取ろうと思ったら、申し込んだ自覚がないのに「VISA」のロゴがついていたので驚いた。それはキャッシュカードではなくデビットカードだったのだ。つまりVISAやマスターカードのシェアが高くても、それは一人ひとりのユーザーの選択の結果であるとは言えない。「カードは、もらうものではなく積極的に選ぶもの」という意識がめばえてくれば、コロリョワ氏の指摘のように、日本発のブランドを選びたい人は増えるのではないだろうか。

末次氏「米国ブランドに比べると認知度の点ではまだまだこれからなので、どうやってロシアの方に、JCBを良いブランドだと認識していただくかが課題です。お客様からすると、日本ブランドのカードだからこそ、日本食レストラン利用や日本製品購入にあたって、優待などのご期待があると思います。それに答えていくためにも、ロシアの一般消費者向けに直接販売を行っている小売業やサービス業などの日本企業と協力して、一緒に日本ブランドとして活動していき、ロシア全土のお客様と接点を持ちたいと思います」

またもちろん、ロシアのJCBカード保持者の日本での利用も想定している。今年1月から日本ビザの発給要件が緩和され、日本への個人旅行者数は増加中だ。日本政府観光局(JNTO)も今年モスクワ事務所を開設し、個人旅行者をメインターゲットにして活動を開始した。末次氏は「日本に旅行へ来てもらえれば、JCB発祥の地で大いにメリットを感じていただけると思う」と話している。

 

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露日経済協力, 露日関係, 日本, ロシア
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