09:50 2020年08月04日
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モスクワから東に約630キロ、ヴォルガ河の上流に位置するチュヴァシ共和国。10月上旬、筆者はチュヴァシ共和国を訪れ、ミハイル・イグナチエフ首長および経済発展産業貿易省や財務省の関係者と面会した。イグナチエフ首長は日本に対する熱い思いを語ってくれた。

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その前に、「共和国」という名称がピンとこない人もいると思うので説明すると、共和国はロシアにおける行政単位の一つだ。日本における都道府県のかわりに、ロシアでは共和国・州・地方・連邦市・自治管区・自治州というような名前がついている。それぞれの地域のリーダーの呼び方は、「首長」や「知事」など色々あるが、全員、日本で言うところの県知事のようなものだと考えてもらえばよい。

日本企業がロシア進出あるいは現地生産先を検討する際にチュヴァシ共和国を視察リストに入れるべきなのは、1つ目に共和国トップである首長の姿勢、2つ目にオンブズマン、3つ目に理系人材が豊富だが人件費が安い、という点が挙げられる。

外国企業の投資誘致に積極的に取り組んでいるイグナチエフ首長は「ビジネス環境向上は、最も重要な政策」だと話す。実際チュヴァシ共和国は、ロシア国内の2017年度投資環境ランキングで、タタルスタン共和国に次いで2位を獲得している。

イグナチエフ首長「ビジネスの初期段階には障害がつきものです。それを乗り越えて、その先の協議に入らないといけません。我々ができるのは、ビジネスに最適な環境を作ること。私は共和国内のあらゆる会社にとって、「メインの助手」でありたいと思っています。法的基盤と政治状況の許す限り、それぞれの会社一社ずつに対し、最初から最後まで後見役を務め、お世話したいと考えています」

その言葉を裏付けるのが、日本の非鉄金属メーカー「フジクラ」だ。フジクラは2015年、チュヴァシ共和国の首都、チェボクサルィにワイヤーハーネス工場をオープンさせた。工場建設地選びには3年間かかったが、チェボクサルィは当初、知名度がなさすぎて候補地にも入っていなかった。しかし日本センターの推薦によりチェボクサルィが急浮上。フジクラの関係者は「経済特区はロシア中にたくさんありますが、他の工業団地と比べて、共和国政府の手厚いサポートと協力が決め手になりました。問題があればすぐ動いてくれるのは心強いです」と話している。

海外企業誘致にあたり、関係者は「日本のプライオリティは非常に高い」と口を揃える。チュヴァシ共和国にはドイツやスペイン、スイスなど、欧州の大手製造業が既に進出しているにもかかわらず、なぜ日本なのか?きっかけは意外にも、安倍首相がふるまった日本食だった。

イグナチエフ首長「2013年4月に安倍首相がロシアを訪問した時、非常に多くの日本企業関係者もロシアを訪れました。かつてあんなにたくさんの企業関係者がロシアを訪れたことはありませんでした。安倍首相が自ら日本食をふるまってくれる、という招待を受けて日本大使館に行きました。とても美味しかったです!環境に優しく健康に配慮した食べ物を食べたいという願いは、日露共通です。この出来事を通し、日本のパートナーとの間で、新しい議論のテーマと新しい友情が生まれました。我々は農業関係者の代表団を送りあうことにし、互いに農場を視察しました。こういった人と人とのコンタクトが相互理解に役立ちました。その過程で日本文化に触れたことで、日本人の中にはとても多くの伝統と精神性が息づいていると分かりました。我々も、チュヴァシの文化や風習と、多民族国家であるロシアの特長を、最大限残していこうと努力しています。良い意味で驚いたのは、我々と日本人の家族観がとても似ていることです。そのようなわけで日本人に対して精神的にとても近しい感情を覚えたのです。素晴らしい頭脳と技術をもつ日本人から学び、新しいアイデアを取り入れたいと思います」

イグナチエフ首長は農業博士でもある。旬の野菜をふんだんに使った美味しい日本食によって、農業にかける情熱と日本への関心がグレードアップしたようだ。

現在ロシアでは、ほぼ全ての共和国や州に、企業の権利保護を行なう担当者(オンブズマン)がいる。彼らは、企業が不要な行政手続きを強制されるなどして不当に不利益をこうむらないように、また公的機関からの支払いが滞らないように監視・指導しているわけだが、その仕事内容や働きぶりは地方ごとに異なる。チュヴァシ共和国のオンブズマンであるアレクサンドル・ルィバコフ氏は、「問題があれば必ず現場を訪れ、当事者から直接話を聞きます。単に権利を守るだけでなく、企業にとって働きやすい環境を作ることが自分の使命」と述べている。ロシアの組織ではトップの意向が現場に浸透していないことは非常によくあるので、これだけ現場主義を貫いているオンブズマンがいるのは評価されるべきことだ。

チュヴァシ共和国のスヴェトラーナ・イワノワ財務副大臣は「ここはまだまだ発展途上国です。隣のタタルスタン共和国にあるような石油もなければ、ニジェゴロド州にあるような巨大な自動車工場もありません。でも知識を貪欲に吸収し、発展しようとする人材がいます」と言う。チュヴァシ共和国は、理系人材の育成プログラムに重点的に予算を割き、製造業を盛んにすることで、経済を前進させている。チェボクサルィにある子ども科学技術パーク「クワントリウム」では、子どもたちが放課後に本格的に化学、生物、ロボット工学やITなど、特定の分野をみっちり学んでいる。費用は無料で10歳から17歳までレベル別に学べるので、大学に入る頃には、もう専門家の卵になっている。チュヴァシ共和国はモスクワから飛行機で一時間程度の距離だが、モスクワに比べて格段に人件費が安く(平均月収はモスクワの3分の1)理系の優秀な人材を確保できるとあって、外国企業にとって魅力が高い。

クワントリウムで学ぶ子どもたち
© 写真 : Детский Технопарк Чебоксары
クワントリウムで学ぶ子どもたち

以上、ビジネス目線からのチュヴァシ共和国のおすすめポイントを挙げてきたが、様々な民族が調和的に共存して独自の文化を形成しており、文化人類学的観点からも面白い場所だ。それについてはまた別の機会に譲るが、気になった人はモスクワ訪問のついでにぜひ自分の目で確かめてみてほしい。

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露日関係, 日本, ロシア
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