13:30 2019年11月19日
マドゥーロ大統領 【アーカイブ写真】

南米取材歴50年の日本人ジャーナリスト、米国がベネズエラを潰したい4つの理由を語る

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経済危機に直面するベネズエラの政情不安は、日に日に混迷を増している。1月10日に2期目に入ったニコラス・マドゥーロ大統領に対し、野党勢力代表格のフアン・グアイドー国会議長は、昨年5月の大統領選は違憲だとして、自身の大統領代行就任を1月23日に宣言した。両者は激しく対立し、チャベス派政権継続20周年の2月2日には首都カラカスで政府派と反政府派が、それぞれ大規模なデモを実施した。

スプートニク日本

反政府行動での死傷者が出続ける中、グアイドー氏を後押しするトランプ米大統領が「(ベネズエラへの)軍事介入も選択肢」と言明、軍事侵攻の現実味が増しつつある。スプートニクは、元共同通信記者で、50年以上にわたりラテンアメリカを取材してきたジャーナリストの伊高浩昭氏にベネズエラ情勢について聞いた。

伊高氏「今回の事態はほぼ100パーセント、トランプ米政権のシナリオに基づいて動いており、米国は形振り構わぬ内政干渉をしています。ベネズエラでは過去21年間に6回の大統領選挙がありましたが、野党は一度も勝てませんでした。米国は1990年代までのような親米政権を迎えることができず、昨年8月のドローン爆弾によるマドゥーロ暗殺作戦など陰謀工作も成功せず、業を煮やして、ついに勝負に出ました。内政干渉をぼやかすため、実体のない『グアイドー政権』を仕立てる必要があったのです。米欧両州を中心に約30カ国が『グアイドー暫定大統領』を承認、これをもってあたかも実体があるかのように装っています。グアイドー氏は現状では、第一義的に国土も国民も国軍も持たない巨大なフィクションにすぎません」

伊高氏によれば、米国がベネズエラを狙う理由は4つある。

伊高氏「まず、安全保障担当のボルトン米大統領補佐官も明言しているように、世界最大の埋蔵量を誇るベネズエラの石油資源への利権の回復を狙っています。これが最大の標的です。金、ポーキサイト、天然ガス、淡水など他の資源の利権も確保したいところでしょう。第二は、2023年に200周年となる『モンロー宣言』絡みの狙いです。この年までに米国は、ラテンアメリカ・カリブ地域における覇権を再び確立したいと願っています。第三の理由は『新冷戦』戦略に基づくもので、中露、イラン、トルコなどと関係の深いベネズエラを、米国寄りの国に戻すことです。そして第四の理由は、司法上の窮地に陥りかねないトランプ氏が自身の立場を強化するための生贄としてベネズエラを利用することです。内憂を『外患退治』で凌ぐのは政治家の古典的な手法で、トランプ氏は『マドゥーロ政権打倒』を、著しく目立つ功績としたいのです」

ベネズエラの親米富裕層は2002年に軍事クーデターを決行し、失敗に終わった。チャべス大統領(当時)は、政変を支持したブッシュ息子大統領(同)を敵視し、激しい反米攻勢に出た。伊高氏は「2005年にアルゼンチンで開催された米州首脳会議の際、ブッシュ氏は米州全体を自由貿易地域にするための決議を試みましたが、チャべス氏主導の反対工作により提案は葬られ、ブッシュ氏は大恥をかかされました。この屈辱は、ホワイトハウスと米国務省のトラウマになっています」と指摘する。

オバマ政権時の2014年12月、米国はキューバと国交正常化交渉入りを正式発表し、社会主義国キューバを事実上、承認した。しかし翌2015年3月には「ベネズエラは米国の安全保障にとって重大な脅威である」と宣言し、世界を驚かせた。伊高氏は、「1年前の2014年3月にロシアがクリミア半島を併合したことから、米国内で『新冷戦』思考と対抗意識が広がりました。ロシアがそういう行動に出るなら、『裏庭』にあるベネズエラは米国が『取る』という発想が出てきたのでしょう」と分析する。

米国は1月28日、ベネズエラの国営石油会社PDVSAに対する経済制裁を発表。これと同じ日に、ボルトン補佐官が記者会見で手にしていたノートに「米兵5千人をコロンビアに」と書かれていたことが波紋を呼んだ。米国はベネズエラの隣国、コロンビアに7つの軍事共用基地を持つ。コロンビアは北大西洋条約機構(NATO)の域外協賛国。米国はベネズエラを兵糧攻めにするだけでなく、軍事介入の可能性をちらつかせてベネズエラ国軍と政権の分裂を図り、圧力をかけている。実際に空軍高官、警察、判事、外交官に離反者も出始めた。

伊高氏は、マドゥーロ政権が限られた時間内に、米国の挑発に乗らず、いかに実りある対処ができるか注目している。

伊高氏「ベネズエラ軍上層部ないし実戦部隊の3 分の1がグアイドー氏に寝返れば内戦の危機が現実化するでしょう。米国の戦略は、内戦を避けたければ辞任せよとマドゥーロ大統領に迫り、『グアイドー暫定政権』下で大統領選を実施させ、親米政権を生み出すことです。しかしマドゥーロ政権は、実体ある政権が『米国の傀儡架空政権』の圧力によって譲歩することなどあり得ないという立場です。とは言え、このままでは外貨獲得も滞り国民生活は一層厳しくなります。平和路線に基づく対話が不可欠です。事態安定化のため、実効ある話し合いをしなければなりません。正論を言えば、米国は強硬な内政干渉をやめ、実効ある対話を支持すべきです」

「まずはベネズエラ国内で、マドゥーロ政権に正統性があるのかないのか、広範な話し合いや国民投票で決着をつけるべきです。その結果、正統性がない、あるいは正統性はあるが、内戦を避けるため早急に手を打たねばならない、という結論になれば初めて、国際監視団も招いて、出直し大統領選を実施するということになる。これが理想的です」

「同時に、チャベス前政権時代から標榜されてきた『21世紀型社会主義』路線の有効性についても議論すべきです。たとえば無料の医療・教育制度など貧困救済政策は、幾つかの先進資本主義諸国も達成しています。ならば新自由主義隆盛期の現代において、21世紀型社会主義の存在意義は何かという問い掛けが出てきます。この政策を続けて行くならば、マドゥーロ政権は正当な理由を示し、国内の合意を勝ち得ねばならないでしょう。一方の野党勢力に対しても、新自由主義が必然的に招く弱肉強食を良しとするのか否かが厳しく問われます。出直し選挙をするならば、双方は基本的な政治思想を明確に示すべきですね。しかし時間が刻一刻過ぎ、状況はマドゥーロ政権にとって悲観的な方向に動いているように見受けられます」

現在、メキシコ、ウルグアイ、ローマ法王庁、国連事務総長、欧州連合(EU)が、米国や、それに同調する「リマ・グループ」諸国などとは異なる対話路線を構築しようと努めている。だが米国、コロンビア、ブラジルは「対話の時期は去った」との立場をとっている。

伊高氏「米国と南米両国は今週中にも援助物資をベネズエラに運び込み、国民の支持を確保し、国軍の政権からの離反を促そうとしています。米国はマドゥーロ政権打倒を決意しており、対話路線にとっては時間がなくなりつつあります。政権が現状維持を図るのはほぼ不可能でしょう。ここはウルグアイ前大統領のホセ・ムヒーカ氏も言うように、マドゥーロ大統領は内戦など流血の対決や混乱を回避するため、いち早く内外で合意を取り付け、万全かつ公正な準備を整えたうえで、大統領、州知事、市長、国会、州議会、市会のすべての選挙を一斉に実施する決断を下すのが望ましいのではないか。実効ある対話とは、具体的な出口を開くことですから」

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