22:38 2020年07月12日
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18日、モスクワで厚生労働省主催、丸紅による企画運営で、セミナー「ロシア―日本 コーポレート・ヘルス」が開催された。このイベントには、ロシア中に病院や診療所を展開しているロシア鉄道も協力し、コーポレート・ヘルスの重要性やトレンド、平均寿命伸長に向けた日本とロシアのアプローチなどについて意見交換が行なわれた。丸紅とロシア鉄道は、2021年、ロシア極東の健康診断の拠点となる「予防医療診断センター」をハバロフスクに開設し、亀田メディカルセンターや九州大学病院の専門家の協力を受けながら、住民の健康増進にあたっていく。

ロシア男性の短すぎる平均寿命

今年10月のロシア保健省の発表によると、ロシア国民全体の平均寿命は73,6 歳と、昨年より7か月伸びた。しかし日本の84,2歳と比べると、まだ伸びる余地は大きい。特にロシアでは男性の平均寿命が短く、セミナーで発表されたデータによれば、50,2パーセントの男性が65歳までの生産年齢時に亡くなってしまう。今後、人口減が予想されるロシアで、男性の2人に1人が65歳まで生きられないというのは由々しき自体である。ロシアは、2024年までに平均寿命を78歳まで伸ばすことを国家目標としている。

日本人の平均寿命が長いのは、健康診断や人間ドックで予防医療に努めてきたことや、誰でも安価で治療が受けられる国民皆保険のシステムなど、様々な要素の相乗効果によるものだ。中でも、重大な疾患を早期に発見する健診の普及度は、国全体の平均寿命を大きく左右する。

2016年5月の日露首脳会談において、日本からロシアに提示した8項目の「協力プラン」にも「医療水準を高め、ロシア国民の健康寿命の伸長に役立つ協力」が含まれている。その中でも日本の健診のノウハウを伝えることは、特に重要だ。

厚労省・大臣官房総括審議官の佐原康之氏は「セミナーにこんなに多くの人が集まってくれ、驚いています。日本も、もともとは病院での治療に一生懸命でした。しかし健診を受ける、さらに言えば病気にならないようにする、というように、政策が『一次予防』にシフトしてきています。例えば肺がんであれば、がんを早めに見つける、さらに言えば煙草を吸わないようにする、といったようにです。そういう経験をロシアに伝えることはとても大切です」と話している。

ロシアと日本の健康診断の根本的な違い

亀田メディカルセンター幕張の岡田実管理部長は、ハバロフスクの鉄道病院で、ロシア流の健康診断を受けてみた。岡田氏は「日本とロシアでは、健康診断に対する考え方が根本的に違う」と指摘する。総合健診では外来患者に混じり、各科の医師(総勢11人)のキャビネットを延々と回るはめになった。

岡田氏「市民には、病院は病気になった時に行かざるを得ないところ、という意識があるので、検診を受け入れてもらうための啓発活動が重要です。ハバロフスクで受けた健診も、病気の予防というよりは、労働許可を出すためのもの、という意味合いが強い。健診がシステム化されている日本のように、効率化を求めるには工夫が必要だと感じました。」

九州大学の秦淳准教授は、日本の健診の事例として、福岡県糟屋郡久山町のケースについて報告を行なった。久山町では、自治体の健康診断としては珍しく、企業勤務の有無に関わらず7~8割の住民が健診を受診している。通常は検診を受けても「受けっぱなし」になることが多いが、久山町では検診当日に結果が出て、自分の健康状態に関する説明や保健師の指導を受けることができる。このプロセスは全部で2~3時間で簡潔し、効率的な仕組みが確立されている。

また、九大と久山町は、IT企業と協力し、健診で得た数値を入力すると、何年後にどんな病気になる可能性があるか、パーセンテージで予測するアプリを開発。自分の健康事態を「見える化」し客観視することで、生活習慣の改善につなげている。会場からは「アフターフォローの仕組みが素晴らしい」「日本流の健康診断を受けたい」という声が出た。

亀田理事長「一国民として、日露関係発展の役に立ちたい」

予防医療診断センターに日本流のノウハウを提供するのは、亀田メディカルセンターだ。亀田メディカルセンターといえば、亀田総合病院をはじめ、常に患者目線で、快適に治療が受けられることで広く知られている。亀田隆明理事長は、日本で培ってきたものをそのままロシアにもっていきたいと考えている。

亀田氏「日本とロシアではやり方がだいぶ違うので、ハード面もソフト面も含めて、全体の流れを含めた仕組み、プランを作るところから協力します。できるだけ効率よく、しかもそれで結果が出るようにしなければいけません。その実現のため、これまで培ってきたノウハウを伝えるというのが第一の役割だと思っています。もちろんロシアの事情にあわせていかないといけない部分は出てくると思いますが、できるだけ我々が日本でやっている、そのままができれば一番良いと思っています。」

亀田氏は、丸紅のプロジェクトに協力を決めた理由について次のように話している。

亀田氏「日露関係はやはり重要だと思いますし、なんといっても戦後、ロシアとはまだ平和条約が締結できていません。そう考えると、一国民として少しでも役に立てるのなら、やりがいがあります。それが一番大きなモチベーションかもしれません。」

亀田メディカルセンターを経営する鉄蕉会の亀田隆明理事長
亀田メディカルセンターを経営する鉄蕉会の亀田隆明理事長

ロシア鉄道・中央保健局のエレーナ・ジドコーワ局長によれば、予防医療診断センターの設立準備は、大企業同士のプロジェクトであるだけに書面の取り交わしや承認にかなりの時間がかかっているが、それを除けば非常にスムーズに進んでいるという。ジドコーワ氏は「来年2月末には、ハバロフスクでも今回のような日露合同セミナーを開き、それと同時に予防医療診断センターの起工セレモニーを行ないたい」と話している。

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医学, 露日関係, 日本, ロシア
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