20:03 2020年10月31日
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モスクワの中心のピャートニツカヤ通りに新しいコンセプトの日本料理店「Hachiko」がオープンした。ロシア人の大半は忠犬ハチ公の映画に涙を流した経験があり、この名前を聞いただけで心に温かいものを感じる。田舎家バーと題した「Hachiko」はこじんまりとしており、お客さんの目の前で料理が創られていく。アルコールメニューには日本のお酒、ウィスキー、ビールに加え、「Hachiko」のオリジナルカクテルが並ぶ。

「Hachiko」のブランドシェフにはモスクワでの飲食業経験の豊富な小林克彦さんが招かれた。小林さんはパリのパティシェ修行を経て、2006年にモスクワに移られて以来、大きな成功を収めてこられた。その小林さんにモスクワにおける日本食産業の変遷、町の、そしてご自身の生活の変化などをスプートニクが取材した。

© Sputnik / Kristina Savitskaya
小林克彦さん

寿司はもう目新しくはない

スプートニク:お店のコンセプトについて教えてください。

小林氏:「Hachiko」という名称は 知名度が高く、日本人のメンタリテイそのものが現れています。今、和食はロシアで再び流行っていて、私は第二のブームだと思ってるんです。一番目のブームはソ連崩壊後、初めて日本の料理が入ってきて、ロール(巻きずし)とかがすごくうけた時。今の第二の流行は、カジュアルな、今までロシアで見られなかった日本料理ですね。「ハチコー」は炉辺焼きなどが中心で、ロシアですから日本にあるレストランとは違うんですけど、お客さんが来たときに、日本というものは感じられる位にしておく。そういうイメージを作り出すのは私の役目です。

© Sputnik / Kristina Savitskaya
Hachiko

スプートニク:カフェやレストランの多いピャートニツカヤ通りでの開店は大変じゃないですか? モスクワの和食レストランの間の競争はどの程度熾烈でしょうか。

小林氏: モスクワは東京と同サイズの大都市でキャパシティーがある。ですから、このぐらい多くの日本料理のお店が出来ても、良いコンセプションで、良い料理を作っていれば、お客さんの引っ張り合いになることはないし、日本料理を食べたことのない人もまだ多いので、そういう新規のお客さんがくれば問題はないと思います。競争の激しいピャートニツカヤ通りであっても、コンセプトとしては新しいし、この店のことを一生懸命やっていればおのずからうまくいくじゃないかと思っています。

食材のメインはロシア産

スプートニク:日本料理とは異なり、日本のビール、お酒、日本製ウイスキーはロシアの消費者にはあまり知られていません。 ロシアで日本の飲み物を宣伝するおつもりはありますか。

小林氏: 一つ難しいのは、お酒は輸入された枠の中で販売しなければいけないこと。新しいお酒が輸入出来ない。フランスワインが多種多様に輸入されているように日本酒も色々な各産地の良酒に入ってきて欲しいけれど、それがない。そこにひとつ日本のアルコールを売る際の壁があるんですね。だからこれから輸入者はもっと沢山日本のお酒を輸入して頂ければと思います。日本のビールはこういうお店では非常に皆さん飲まれますよ。

© Sputnik / Kristina Savitskaya
Hachiko

スプートニク:お酒のほか、あと何を輸入していますか。

小林氏: 食材は野菜もお肉もほとんどがロシア産。日本からの調達はロシアで手に入らないものだけです。ただ魚は難しいです。問題はやはりお値段で、日本や外国から輸入すると値打ち以上に高くなる。その輸送費をお客さんに払わせることに非常に抵抗があるのが一番の理由です。第二の理由は、最近ロシアの食材が、日本産と大差無いほど非常に良くなり、十分それでやっていけるという事。という理由で食材のメインはロシア産です。

ロシア暮らし いいところは「ゆとり」

スプートニク:10年のロシア暮らしでモスクワの印象はどのように変わりましたか?

小林氏:  色々な面で大きく変わりましたね。まずスタッフの方が仕事に対してよりハングリーになりました。最初の頃のスタッフの仕事ぶりはなんとなくやって帰るという感じ。もう少し仕事を覚えたら、シェフや更にいい仕事がみつかるのに、なんでやらないんだろうと思いましたよ。ところが最近の特に若い子達は、今頑張れば、後でいい結果に繋がるというのが解っているんでしょうね。以前よりもハングリーに物を覚える。良い傾向だと思います。

食材も全く大きく変わりました。最近のロシアの食材は種類も豊富でクオリティーも高く、レストランには非常にいい条件だと思います。

© Sputnik / Kristina Savitskaya
Hachiko

スプートニク:ロシアの暮らしにはすっかり慣れましたか? いいところ、困るところはなんでしょう?

小林氏:  慣れましたね。慣れていいのか悪いのかわかりませんが、今はそんなに困っていません。最初の頃はロシア人の物の考え方が非常に納得出来なかったんですが、ロシアの人達が変わったのか、私がそれに慣れてしまったのか、最近はそれがあまり気にならなくなりました。

ロシアの生活で満足しているのはゆとりです。時間や物の考え方に余裕があって、日本みたいにカチカチとしていなくて少し隙間がある。逆に困るのは、ゆとりがあるからなんでしょうが、物事があまり正確に運ばず、ずれて進む。そういったことがあまり好きじゃないですけれど、それを受け入れることでなんとなく上手くいっています。

© Sputnik / Kristina Savitskaya
Hachiko

スプートニク:モスクワでのご活躍で小林さんの評判は大変高まりましたが、どんなふうにスキルアップをされておられるのでしょう?

小林氏:  まだまだ新しくやっていかなきゃいけないですし、経験も勿論大切です。経験プラス新しいものの開発、その両方があって初めて上手くいきます。新しいものは自分が食事へ行った時、何か雑誌を見ていても、旅行へ行った先でも生活の全てから入ってきます。

家族ができ、生活が大変化

スプートニク:趣味や余暇の過ごし方について教えてください。

小林氏:   雪国でいつもスキーをしていましたので、子どもの時はスキーの選手に憧れたけれど、料理の世界に入るとは考えていませんでした。今はスキーはテレビ観戦だけ。最近家族ができ、大分生活が変わってきました。妻はロシア人。娘2人は1歳になったばかりで、歩き始める時期です。それはもう私は凄く変わりますよね。休みの日は殆ど家族の時間で、どこかへ遊びに行くというだけではなくて、病院へ連れて行ったり、子どもの物を買い物に行っています。

© Sputnik / Kristina Savitskaya
Hachiko

スプートニク:近未来の計画をおしえてください。モスクワにとどまるか、フランスや日本に戻るか、全く別の国に移ることはありえますか?

小林氏:  最低年に一回は日本に帰るようにしています。日本に、というよりも、生まれ故郷へ帰って、両親に顔を見せるためです。近い将来はたぶんモスクワにいるでしょう。まだやりたいと思っている事もありますし、実際動くのは大変なので。でももっと先になったらわかりません。そういう人生を歩んできましたから。日本からフランス、フランスからロシアへと。だからこの先また家族で何処かへ移住するかもしれません。


小林さんはラーメン屋「Kojiro」、居酒屋「Izumi」のシェフを務めておられるほかに、アルバート街のCornerCafe&Kitchen のオーナーシェフと多忙を極めておられる。どこのお店も日本人はおろか、ロシア人のファンも多く、SNS上のレビューも極めて高い。

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食べ物, 食事, 食生活, 食料
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