14:46 2020年09月20日
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8月半ば、日本では珍しい広告が渋谷に登場した。巨大なバナーの中でバーチャルモデルのMEMEがワキ毛を見せている。なぜこんな広告が必要なのか、日本でのボディポジティブの動きとどんな関係があるのか。スプートニクが日本のプラスサイズモデルに話を聞いた。

オシャレな日本人は自分の体をどうするかを自分で決めたい

『ムダかどうかは、自分で決める。』MAGNET by SHIBUYA109のビッグボードと地下鉄の電車内に掲示した広告はこう語る。この広告は、その大きさもさることながら、日本には珍しい内容で目を引いた。広告の中のかわいい赤毛の女の子は、短いトップスを着て、手を挙げている。彼女のワキには毛が生えているのが見える。

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Публикация от MEME (@meme.konichiwa)

この広告を出した企業は事前に15歳から39歳の男女600人を対象に剃毛と脱毛に関するアンケート調査を実施した。その結果、回答者の90%が「ファッションや髪型のように剃ることは自分で自由に決めたい」、「気分によって毛を剃っても剃らなくても良いと思う」と回答した。まさにこのアンケート結果にインスピレーションを受けてこのヴィジュアル(広告)を制作したと広告制作者は語る。

メッセージには欧米で広がるボディポジティブの考え方が反映されている。

ボディポジティブとは、どんな外見であっても自分の体を快適に感じる権利、他人の体をあるがままの姿で受け入れる権利を訴える運動だ。ボディポジティブは身体能力、サイズ、性別、人種、外見に関係なく、自分の体も他人の体を受け入れることを求めている。


バーチャルモデルならSNSに書き込まれた批判を読まない

注目すべきは、企業の顔になったのがバーチャルモデルMEMEという点だ。大胆なアイデアではあるものの、おそらく、社会からのネガティブな反響を恐れずにこの実験に参加してくれるリアルなモデルは見つからなかったのではないだろうか?

スプートニクは有名な日本のプラスサイズモデルにこの質問をぶつけてみた。

安藤うぃ、27歳。彼女はモデルの仕事をしながら、Instagramに自身の生活や仕事を綴っている。Instagramに1万2000人のフォロワーを持ち、YouTubeチャンネルでは、ぽっちゃり体型の女の子もオシャレに洋服を着こなせることを発信する。

「不可能では無いが、実際の人間を起用するには、まだ難しかったのではないかと思います。日本では「女性は毛を剃るのが当たり前」という文化が未だ根強く、実際の人間では剃っている(隠している)人がほとんどだと思います。もし、仮に、今回の企画のために、実際の人間(モデル)が、わざわざ毛を伸ばして撮影していたとしたら、ただのフィクションのようになってしまい、この広告の「自分で決める」という伝えたい部分が伝わらなかったと私は考えます。だからこそ、バーチャルヒューマンが起用されたのではないかと思います。」

吉野なお、34歳。広告や雑誌La Farfaでモデルをするかたわら、雑誌FraUにコラムを持ち、Instagramには1万7000人のフォロワーがいる。

「可能だったと思いますが、バーチャルヒューマンという点が『習慣化された従来の価値観』ではなく、『近未来』を現していると思います。また、広告のメッセージが今の日本ではまだ新しい取り組みなので、どのようなリアクションが起きるか未知数だったのではないか、ネガティブに捉えられてしまった場合、実在の人物の体に対するインパクトが強くなるため、あえて無機質なCGにしたのではないかと思いました。でも、時間をかければ実在の人物で、こういったボディ・ポジティブを表現する広告が日本でもっと作られていくと思います。」

ボディポジティブの大きな目標のひとつは、人々があるがままの自分の体を受け入れ、自己評価を高め、自分のイメージを向上させ、自分を好きになることができるよう、社会から非現実的な美の理想を排除することである。しかし、日本の社会が美への考え方を変えるための素地はできているのか?この広告がその助けになるのか?2人にきいた。

安藤うぃ: 即効性は無いと思いますが、少しづつ考え方を見直すきっかけに繋がっていると思います。この広告はネットでも話題になっていましたし、今までとは違う「新たな価値観」に多くの人々が触れるきっかけになったと思います。ただし、現実的にはまだまだ、この広告と真逆の「脱毛」や「ダイエット」を強く促す広告が多くあるように、今までの固定概念も根強く残っており、今すぐ変わるのは難しいだろうと思っています。しかし、今回の広告だけで終わらず、色々な企業や人がもっと発信してこの価値観が広がっていけば、きっともっと自由に変わってくれると思います。
吉野なお: 考え直すきっかけになる人たちも多いと思いますし、広告があることによって身近な人と話題にしやすくなると思います。また、剃刀を売るメーカー自身がこの広告を作って選択する自由のメッセージを掲げたことは、かなりチャレンジ精神を感じますし、毛に関して一方的なプレッシャーを感じさせる広告よりも、ボディポジティブという新しい風潮をうまく捉えたメーカーに対する好感度を抱いた人も多かったのではないでしょうか。

«ボディポジティブという言葉だけが一部で盛り上がり»

ボディポジティブの支持者らは、女性の美の理想形は時代とともに変化し、時代によってまったさまざまだったと語る。彼らが例に挙げるのは、ルネッサンス時代の絵に描かれたふくよかな女性、マリリン・モンローの時代の理想サイズ90-60-90、2000年代の高身長で体重40キログラムのモデルなどだ。

文化やメディアがその時代に流行している体型を唯一の理想として視聴者に押し付けていれば、遅かれ早かれその思想が頭の中に浸透し、標準の枠におさまらないあらゆる人々を苦しめることになる。今の日本でボディポジティブはどう捉えられているのか?女性は自分の外見について、プレッシャーを感じたり、コンプレックスを抱えているのだろうか?

安藤うぃ: ボディポジティブの考え方は、昔よりは、メディアに取り上げられたり、SNSを通したりして、多くの人々に知られたと思います。ただ、まだまだ浸透してない部分も多く、「もっと痩せたい」「痩せていた方が、目は大きい方が可愛い」「太っていたらお洒落できない」となどと思い込んでしまっている女性が多くいるという感覚はあります。しかし、昔は細いモデルしか起用していなかった下着ブランドが私も含め、プラスサイズモデルを起用して「多様性」を表現し始めるなど、「もっとありのままの自分を愛そう」というメッセージを主張する企業や個人が増えており、今現在、ボディポジティブは広がって行っている最中だと言えると思います。
吉野なお: プラスサイズモデルの私としては、7年前からずっとこのテーマについて取り組んでいましたが、去年(2019年)あたりからボディポジティブを意識するメーカーが増えてきたと感じました。今年になってからwebメディアを中心に更に関心度が上がり、私もボディポジティブに関するコラム連載をいくつも持ったり取材を受けることが増えました。でも、まだまだボディポジティブという言葉だけが一部で盛り上がり、実際に私たちをとりまくファッションのサイズ選択肢は限られたものだと感じます。さらに日本では日常的に外見指摘(太った?痩せた?などを言う)をする文化や、痩せていることだけが美しく、太った人は貶すような価値観、『女性の容姿はこうであるべきだ』とコンプレックスを刺激するあらゆる広告や情報が広く認知されています。そういった社会なので、自分の容姿や体に対して否定的に捉えている女性はかなり多いと感じますが、ボディポジティブを知り少しずつ自分の体を肯定できるようになったという女性の方も多いです。

世界でボディポジティブを推す運動が始まってからそれほど時は経っていないが、すでに一定の成果も出ている。Sony Picturesはプラスサイズのスーパーヒーローを描いた映画を立ち上げ、有名なランジェリーブランドVictoria Secretはプラスサイズモデルを採用するようになった。とはいえ、スキャンダルもなかったわけではない。プラスサイズモデルとは仕事をしないという会社幹部もいた。これから先、長い道のりが待ち受けていることは間違いないが、たとえ小さな一歩でも、人々が自分や他人をあるがままの姿で受け入れる社会へと一歩踏み出したことには意味がある。

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