15:29 2020年10月20日
ルポルタージュ
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モスクワから北東に300キロほど離れたところに、ロシアの「花嫁の町」として知られるイワノヴォがある。18世紀初頭、イワノヴォには織物工場が建設され、19世紀には、ロシアのマンチェスターとも言われていたほど、繊維産業を中心に繁栄していた。織物工場の労働者の多くが女性だったため、花嫁の町と呼ばれたというのが定説になっている。繊維産業はソ連崩壊後に打撃を受けたため、現在のイワノヴォは以前ほど有名ではないが、かつての栄光がうかがえる名所が町のあちこちに残っている。そのうちの一つが、イワノヴォ中心部に位置する「キャラコ博物館」だ。ロシアの繊維産業の歴史がわかる、世界的にも珍しい博物館である。

常設展「イワノヴォの繊維:歴史と現在」では、イワノヴォで生産されてきた布の見本が飾ってある。その模様の多くは小花柄で可愛らしく、女性に人気のイギリスのブランド、キャスキッドソンを思い起こさせた。

小花柄をモチーフにした可愛らしいデザインの布
© 写真 : Andrey Egorov
小花柄をモチーフにした可愛らしいデザインの布

かつては模様をつける際、まず木に模様を彫って型を作り、それを布に押し当て、木製の小槌で叩くという方法が取られていた。浮世絵の版画のようなイメージだ。当時の仕事を体験するため、特別に木型のレプリカが作られた。持ち手が付いていても重く、片手で操るのはかなりの重労働だ。やがて木型は金属でできたローラーに変わり、織機も現代的なものへと進化を遂げていく。展示品からは、それらのプロセスをつぶさに観察することができる。

  • 木でできた小槌で模様をつける
    © 写真 : Andrey Egorov
  • 体験用の木型は、かなり重い
    体験用の木型は、かなり重い
    © 写真 : Andrey Egorov
  • 金属に精巧に花模様が彫られている
    金属に精巧に花模様が彫られている
    © 写真 : Andrey Egorov
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© 写真 : Andrey Egorov
木でできた小槌で模様をつける

織物工場は生産を拡大し、他地域に輸出を始めた。ビジネス拡大とともに布のデザインも豊富になり、定番の花や植物以外に、行商人を描いたものや、動物を描いたもの、コーカサス地方の人々が好みそうなエキゾチックな模様などが揃っていた。現代で言うところのマーケティングを行い、地方ごとのニーズを把握し、それぞれの好みに応じた製品を生産、販売していたのである。工場は、そのための専属デザイナーも多数抱えていた。

浴衣の柄のような豊富なデザイン
© 写真 : Andrey Egorov
浴衣の柄のような豊富なデザイン

博物館の上階には、ロシアのファッション界のレジェンドであるヴャチェスラフ・ザイツェフ氏の作品が展示してある。ザイツェフ氏はイワノヴォの出身で、ソビエト・モードの象徴として君臨した。現在は病気のため一線から退いているが、イワノヴォ市民の誇りである。

ロシア・ファッション界の大御所ヴャチェスラフ・ザイツェフ氏のコレクション
© 写真 : Andrey Egorov
ロシア・ファッション界の大御所ヴャチェスラフ・ザイツェフ氏のコレクション

キャラコ博物館の地階には秘密の地下通路があり、別の博物館「産業芸術博物館」とつながっている。二つの博物館はどちらもイワノヴォ州歴史郷土博物館に属しており、キャラコ博物館の建物はもともと、博物館創設者であるドミトリー・ブルィリンの私邸だった。ブルィリン氏は繊維産業で富を築いたコレクターで、地方都市とは思えない両博物館の収蔵品を見ても、その規模の大きさがうかがえる。

博物館では布製品自体は販売されていないが、イワノヴォの郊外に行くと、大規模な布製品のショッピングセンターがあり、服、タオル、寝具、靴下、下着など、あらゆるものを破格で買うことができる。ロシアの花嫁の町は、ショッピングの町でもあるのだ。


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