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スパコン「富岳」がコロナ禍を救うか?その能力と限界は? 「富岳」の開発責任者が語った

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世界中の研究者が新型コロナウイルス問題への答えを一瞬でも早く見つけようと努力している。このプロセスを最大限に加速するため、日本の研究者はスーパーコンピューター「富岳」に助けを求めている。「富岳」がウイルスとの闘いにどう役立つのか?「富岳」の類い稀なる能力とその限界とは?「富岳」の開発責任者である理化学研究所の計算科学研究センター長、松岡聡氏が外国メディアに語った。

「富岳」はライバルよりもずっと早い

スーパーコンピューター「富岳」は神戸市の理化学研究所(RIKEN)と富士通株式会社が開発した。

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富岳」は今年、半年ごとに発表されるスーパーコンピューターの世界ランキングで、計算速度や人工知能の学習性能など4部門において2期連続で1位になった。また、計算速度は2位のアメリカのスーパーコンピューターの約3倍である。

だからこそ、今、新型コロナウイルス対策で「富岳」に大きな期待が寄せられている。能力の劣るコンピューターでは大量のデータ処理に数年を要するところが、「富岳」を使えば様々なシミュレーションがわずか数日でできる。

進行中の研究は?これまでの成果は?

「富岳」は現在、新型コロナウイルス対策の研究において、治療薬候補の研究、室内環境での飛沫の拡散状況の分析、マスクの飛沫を防ぐ効果、感染や社会経済への影響に関するシミュレーションなどで活用されている。

「富岳」の開発責任者である松岡聡氏が「富岳による新型コロナウイルスの治療薬候補同定」と「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」の研究について特に詳しく語った。

コロナウイルス対策に有効な医薬品は?

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こうした研究は現在、理化学研究所/京都大学の奥野恭史氏のもとで行われている。最終的な結論に至るには他にも様々なシミュレーションを数多く実施しなければならないが、すでに一定の成果も出ている。とりわけ、世界ですでに承認されている2128種の既存医薬品についてコロナウイルスへの有効性の分析が行われた。

松岡氏:「ほとんどの薬は役に立ちません。しかしながら、ニクロサミド、ニタゾキサニドという虫下し薬、それ以外にも、例えば、日本においては普通に薬局で売っている薬、これらの一部の薬が非常に有効であることがわかりました。」

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松岡氏は、これらは抗ウイルス薬ではなく、ごく普通の薬だと強調した。これらの薬の名称は挙げられなかったが、松岡氏によると「一部のものは長年使われていて、副作用などもよくわかっているかほとんどない、非常に多くの人達に既に投与されている、日常的に投与されている薬」だという。

松岡氏:「今後、これらの薬剤に関してコロナウイルスに対する治験が進むことにより、ワクチンと共に非常に有効な抗ウイルスの薬剤をご提供できるのではないかと期待しています。」

異なる空間でウイルスはどのように拡がるのか?マスクは本当に有効なの?

マスクが本当にコロナウイルスに対して有効なのかどうかについては、長い間、意見が割れていた。そうした論争は今もある。実際はどうなのか?

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松岡氏:「例えば、このパンデミックの初期は WHOはマスクは有効性がないからあまりしなくてもいいというようなレコメンデーションまで出していました。 当然ながら我々はそんなことはないと思ったので、例えば、マスクとかフェイスシールドの有効性、さらにそれをどのようなシチュエーションで使えばいいのか、その限界は何かということを、非常にいろいろなセッティングで現象を再現しました。」

マスクもフェイスシールドも有効だが、これらの持つ限界も理解しておくことが重要だ。

松岡氏:「飛沫というのはいろんな大きさがあって、非常に大きいドロップレットから、非常に小さいエアロゾル 、ミクロン単位、1ミクロンぐらいで、空気中に何時間も漂うようなエアロゾルもあります。この中で一番問題なのはエアロゾルです。マスクをした場合としない場合とで、人間が呼吸したときに喉の奥と肺にこれらがどのように入っていくかをシュミレーションしたところ、細かいエアロゾルはマスクをしていても奥の方まで到達していく場合があることがわかりました。ですから、マスクとフェイスシールドをしていれば感染リスクの低減にはなりますが、エアロゾルに対するリスク低減には換気を同時に行うことが重要になります。」

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松岡氏ら研究者は、現在パンデミックの第2と第3波が起きている大きな原因は、冬になると人々が窓を閉めきってしまい、換気が不十分になるためだと考えている。

松岡氏:「(ですから)我々は、どのようにすれば換気が十分になるか、例えば、日本の教室で窓を開けながら暖房や冷房が効くようにするにはどうすればいいか、そういうことをシミュレーションしています。」

タクシーにおけるリスク評価と対策:結果が期待を裏切るとき

シミュレーションによって文脈の重要性も明らかになってきた。例えば、タクシーでの感染リスクを分析することで、意外な結論に至った。

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松岡氏:「タクシーの場合は意外な結果が出ています。窓を開けることではあまり換気が達成できず、むしろエアコンによるメカニカルベンチレーションで外気導入をすること、エアコンというのは内気循環と外気導入がありますが、この外気導入が一番大切だということがわかりました。 」

レストランではフェイスシールドが当たり前に

松岡氏:「今レストランにおける感染が問題になっていますが、これもいろんな状況をシミュレーションして、且つサントリーや凸版印刷などの会社と一緒にどういうフェイスシールドをデザインすればレストランでの感染のリスクを下げることができるのかという研究を行っています。」

© 写真 : TOPPAN PRINTING CO.,LTD検討中のフェイスシールド (理化学研究所 計算科学研究センター センター長、松岡 聡氏のプレゼン)
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検討中のフェイスシールド (理化学研究所 計算科学研究センター センター長、松岡 聡氏のプレゼン)

松岡氏:「このシミュレーションによるとお椀型、普通のフェイスシールドはフラットですが、お椀のようなカップ型のフェイスシールドが有効です。それを用いて、今、サントリーと凸版印刷では飲食の時に開閉できる、且つ一部のマスクに近い飛沫の抑止効果があるフェイスシールドを開発しており、もうすぐいろんなレストランに配布することが可能になります。」

オリンピックの安全性は?すでにシミュレーションしているのか?

松岡氏は、屋外なら感染の可能性は低いからマスクは必要ないという誤解があるが、シミュレーションによると決してそのようなことはないと指摘する。

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松岡氏:「シアターや屋外スタジアムのシミュレーションを行っています。それによると、マスクをしていない状況があると、やはり屋外でも相当感染リスクが生じてしまいます。一方、マスクやフェイスシールドをきちんとすると、様々な抑止効果が働いて、感染リスクはかなり低いということもわかりました。

オリンピックに関しては、一般論として、屋外ないしはスタジアムは設計上、基準に従って非常に良いベンチレーションが確保されるので良いのですが、例えば、観戦中に飲食をしてマスク取ってしまうとか、大声を上げるとか、そういうのはやはりまずいです。」

観客席で飲み食いをしているときに、選手に向かって大声を出したり、声援を送ったりすることは望ましくないため、そういった事態が発生しないような措置が必要になる。例えば、マスクの着用を非常に厳重に管理する、あるいは飲食との両立を可能にするフェイスシールドを利用するといった対策が求められると松岡氏は指摘した。

「富岳」の限界とは?まだわからないことはあるのか?

スーパーコンピューター「富岳」のおかげで従前は考えられなかった規模の研究を極めて短期間で実施できるようになったことは科学技術の大きな成果である。しかし、「富岳」にも限界があるのではないか?この質問に松岡氏は次のように回答した。

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松岡氏:「まさに、大抵のことはシミュレーションできます。コロナウイルスに関して富岳のシミュレーションで新たにわかったこともありますし、まだまだ謎であるということもあります。

エアロゾルやドロップレットに関しては多くの発見がありました。それがどのように拡散していくのか、どのようにするとそれが防げるのかということ。また、どのようなメカニズムでCOVID-19が感染を進めていくのかというメカニズムもだんだんわかってきました。しかしながら、わかっていないこととしては、例えば、エアロゾルを吸い込むとどのくらいの量が気道や肺に到達するかはシミュレーションでわかるのですが、どのくらいの量が到達するとどのくらいの確率で感染が起こるのか、これはわかっていません。

これは、スーパーコンピューターだけでなく、感染症やウイルス学の専門家の方々、そしていろいろな研究所と共同研究を開始しようとしています。感染者がいて、その人が他の人をどのように感染させるのかを見てみると、その間には非常に複雑なメカニズムがあるわけです。(感染の)点と点を結ぶ線を作らなければいけない。その一部は富岳のシミュレーションでも行えますが、一部は実験やより深い科学の知見がさらに必要になります。」

「富岳」は2021年に本格稼働の予定だ。

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