00:45 2021年03月09日
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新型コロナウイルスの感染拡大とそれに端を発した経済危機は、世界政治に新たな流れを生み出した。米国の影響力は弱まり(国内問題の発生を背景に)、世界における中国の経済力は強まっている。

「スプートニク」は米国のバイデン大統領が、アジア諸国との関係において、現在の状況にどう対処していくのか、専門家に話を伺った。

バイデン政権下の米国の対アジア外交政策のパラダイムは、通例の対中国抑止政策をはじめとした後継的なものになると見られる。しかし、欧州・国際問題総合研究センターのドミトリー・ススロフ副センター長は、戦略はより慎重に、より選択的に行われるようになるだろうとの見方を示す。


中国に対する「戦略的忍耐」

バイデン大統領の報道官は記者会見で、米国は中国との厳しい競争にあることから、中国には「戦略的忍耐」を持って対応していくと述べた。

ススロフ氏は、「戦略的な注意を持って行動する、つまりトランプ政権の決定を見直すため、関係を一旦、休止させるのではないか」と指摘し、次のように述べている。「何よりもまず、中国よりも米国自身に大きな損失を与えた決定の見直しです。たとえば、事実上、経済関係の分断を賭けた貿易戦争です。貿易戦争は、すぐには実現できない米国への製造業回帰を検討するものであり、それにより、米国経済は苦境に立たされました。このことはおそらく考慮に入れられることになります。しかし、バイデン政権が、中国のハイテク企業を抑止するというトランプ前大統領の路線を継続することは間違いないでしょう。それが、中国の大手IT企業に対する制裁という形となる可能性もあります」。

その上でバイデン新大統領は、アジアにおける米国の同盟国を引き込むことで、トランプ政権と較べてより効果的な行動に出ると見られる。


米国の同盟国の支持は得られるのか?

一方で、アジアのパートナー諸国を中国に対して圧力をかける勢力に引き込んでいくことで、これまで隠されていた対立が引き起こされる可能性も除外できないとススロフ氏は指摘する。「アジア諸国の大部分は、トランプ時代にも、緊密な経済関係を理由に中国に対する強硬路線を避ける傾向がありました。こうした立場は、大統領が変わったからと言って、根本的に変わることはないでしょう。なぜなら、中国は強大な経済力を行使し、米国とその同盟国に報復してくるからです。しかも、現在、中国との対立路線を取るのは正しくありません。その理由のひとつに挙げられるのは、最近、世界最大規模の自由貿易協定である、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)が発効したことです。このRCEPは2020年11月に署名されたもので、中国、日本、韓国が参加しています。米国はこの協定には入っていないことから、これは地域における中国の経済力を大幅に強めるものとなります」。


日本との関係に大きな変化は起こりうるのか?

アジア太平洋地域における米国の主要な同盟国である日本との関係について、ススロフ氏は、バイデン政権下で起こりうるのは基本的な変化ではなく、レトリック上の変化だけだとの見方を示す。「米国は日本との同盟関係に忠実であることを強調するでしょう。新政権は尖閣諸島をめぐる中国との領土問題において、日本政府の利益を守ることを約束していることから、事実上、もうすでにそれを実行したと言えます。もっともこれはトランプ政権時代にも言われていたことでした。ですから、この外交路線は変更されていないということです。ただしそのレトリックは変わってくるでしょう。トランプ前大統領は、日本は在日米軍の駐留費の負担を増やすべきだと「声高に」求めてきました。しかしこれは日本にとって非常に厳しい問題です。そこで、バイデン大統領はこの問題に関して、強硬な発言を避け、より正しい言葉を選でしょう。そのほかに、日米関係に大きな変更はないと思います」。

これは、トランプ政権時代よりも穏やかで、予測可能な外交政策を望む日本の期待とも合致する。


バイデン大統領が前政権の対中政策を継続することを日本が歓迎するのはなぜか?

日本は、中国に対し、経済協力と競争という2つの方向性をうまく使った外交政策を維持していくこうとしているとススロフ氏は言う。「中国に対する核抑止戦略は日本の国益にも敵うものです。米国のロイド・オースティン国防長官はトランプ政権時代の米国の防衛政策には完全に同意すると述べています。これは何よりも、中国を軍事分野における“仮想敵国”と見なし、それを抑止する必要があるという考え方のことを指しています。一方、アンソニー・ブリンケン国務長官は、新疆ウイグル自治区での中国の行動はイスラム教徒のウイグル人に対するジェノサイドであるというマイケル・ポンペオ前長官の見解に同意するとの立場を明らかにしました。つまり、バイデン政権の対中政策は、事実上、トランプ政権時代を引き継ぐものとなり、大々的な変化は起きないということを意味します」。


朝鮮半島情勢は一時的に落ち着く

トランプ前大統領は、朝鮮半島の非核化をめぐって欧米が求める譲歩を金正恩総書記から引き出すことによって、歴史的な成果を上げようとしていた。またトランプ氏が金正恩氏と数度にわたって会談を実施したことにより、世界は、朝鮮半島における緊張緩和を期待した。

これに関して、ドミトリー・ススロフ氏は、バイデン新政権は恐らく、北朝鮮問題を行き詰まり状態にするだろうと見ている。「韓国政府はバイデン大統領の就任を喜んでいるでしょう。北朝鮮に対するトランプ前大統領のアプローチや脅威的な声明は韓国を懸念させました。トランプ氏は北朝鮮の核施設に攻撃するためだとして韓国の沿岸部に船艇を派遣しましたが、当然、韓国はこれを非常に警戒していました。ですから、韓国政府はトランプ前大統領が自身の発言を変え、金正恩氏と会談を重ねたことを評価しました。しかし、バイデン新大統領は金正恩総書記と会談を実施することはないと述べています。とはいえ、北朝鮮に対し、厳しい声明を出したり、トランプ前大統領のときのように、軍事力を行使すると脅したりすることはないでしょう。これが北朝鮮に対する従来の政策であることから、韓国は安堵していることでしょう。しかし別の問題があります。それは、こうしたやり方が北朝鮮政府にも受け入れられるかどうかということです。北朝鮮はバイデン氏の就任で、すでに優位な立場に立ちつつあります。北朝鮮側からはすでに、アジア地域における米国の影響力を根本的に変化させない限り、完全非核化に応じることはないとする厳しい声明が出されています」。

しかしながら、北朝鮮政府が望むようなシナリオが展開されることはないと見られる。南北朝鮮に関して、バイデン政権下で起こりうることがあったとすれば、それは「六者会合」という形での多国間協議の再開、そして前向きな発言程度だろうとススロフ氏は見る。本質的にこれは朝鮮半島情勢を変えるものではなく、問題は行き詰まり状態にするものである。つまり、北朝鮮は再び活発な実験を再開し、自国の核ミサイルプログラムを発展させるだろうとススロフ氏は予測する。

このように、バイデン大統領のアジアに関する主な外交政策は予測可能なものである。トランプ大統領の衝動的な政策と比較すると、この点は大きな利点かもしれない。ただし、北朝鮮問題がアジア太平洋地域における「痛点」であり続けるという問題は解決されないままとなるだろう。

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