05:54 2021年04月23日
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日本のスイーツが少しずつ浸透しつつあるロシア。ついに和菓子の代表である大判焼きまで登場し、日本人から「美味しい」と絶賛されている。ロシア初の大判焼き店「ヤキ」を創業したのは、フリーランスのIT技術者エドアルド・スワリャンさん。モスクワに住む若きアルメニア人だ。予想外な大判焼きとの出会いから、コロナを乗り越え創業一周年に至るまでの話を聞かせてもらった。

全てはクリームパンから始まった!?

生活するには十分な収入を得ていたスワリャンさんだが、新しいことに挑戦したい、自分のビジネスをやりたいと夢見て、資金を貯めていた。コンピューターに飽き飽きし、人とコミュニケーションできる仕事をしたいと考えていた。

スワリャンさん「自分の性格上、本当に好きなことじゃないと頑張れないし、ゼロから、自分の思うようにやりたいんです。だから、既にできているビジネスを買うという選択肢はありませんでした。自分は本当は何がしたいのか、ずっと探していました。」

そんな時、スワリャンさんのガールフレンドが、用事ができて韓国に行くことになった。一緒に行かない?と誘われ、二つ返事でOKした。ロシアと韓国間は観光ビザが不要で、飛行機のチケットさえ買えば、いつでも行けるのだ。

スワリャンさんたちはソウルにあるロッテホテルの地下を訪れた。そこには色々な日本のお店が入っており、「あるもの」を食べた。丸くてふわふわでクリームがたくさん入っていて、「こんな美味しいもの、人生で初めて食べた」と思った。

ロシア初の大判焼き「ヤキ」創業者のエドアルド・スワリャンさん
© 写真 : YAKI
ロシア初の大判焼き「ヤキ」創業者のエドアルド・スワリャンさん

理想の味を求め韓国を再訪、勘違いに気付く

モスクワに戻って、あれは何だったのかネットで調べたスワリャンさん。「あれは、大判焼きだ」と大いなる勘違いをして、中国から焼き型を取り寄せて試作品を作り始めた。それから半年間、自力で試行錯誤したが、うまくいかない。もう一度本物を食べて舌で味を覚えなければならないと決意し、一人で韓国へ向かった。そこで色々な店の大判焼きを食べ比べ、チャイナタウンで中国人が作っている大判焼きが理想的な美味しさだという結論が出た。

食べ歩きしている間に、違和感を覚えた。よくよく調べてみると、半年前に食べて感動したのは大判焼きではなくてクリームパンだったことが判明した。しかしスワリャンさんは、方向転換しなかった。パンならロシアにもあるので、目新しさがない。しかもあのクリームパンは日本のメーカーが数年かけて開発した特別なもので、とても真似できるレベルではない。スワリャンさんには、もっと気軽に再現できるものが必要だった。

レシピ迷子を救った日本のおじさん

中国人を口説き落として大判焼きのレシピを送ってもらい、モスクワの自宅で試作を繰り返したが、全然思い通りにならない。もうあきらめかけた頃、日本語で書かれたレシピをネットで見つけ、グーグル翻訳して試してみたところ、ほぼ理想の味だった。それは、日本のおじさんが趣味で投稿したものだった。そこからモスクワで手に入るあらゆる小麦粉で試作を繰り返し、とうとうマイレシピを決定した。家族も総出で手伝ってくれた。特に大判焼きの中に入れるクリームは、スワリャンさんのお母さんが考案した。

大判焼きには「今川焼き」「回転焼き」「おやき」など様々な名前があることを、スワリャンさんはよく知っている。そこで、全てに共通するワードとして「ヤキ」を採用した。ロシア人にとっても覚えやすく、ネーミングは好評だ。

フードコートに「ヤキ」オープン
© 写真 : YAKI
フードコートに「ヤキ」オープン

コロナが襲うもデリバリーで生き残る

「ヤキ」が入居を決めたショッピングセンター「ユーロポリス・ロストキノ」はモスクワの北東部にある。中心部からは離れているものの、リニューアルしてとても現代的になり、特にフードコートは大規模で、流行に敏感な若者が集まっている。

新しい商品の浸透には時間がかかるので、気長にやっていこうと思っていたスワリャンさんだが、開店から1か月も経っていなかった昨年の春にモスクワがロックダウンになり、ショッピングセンターも営業停止になった。

幸い、自宅には試作に使っていた大判焼き器があったので、デリバリーで商売を続けることができた。外出自粛時の子どものおやつとして高い需要があったのだ。大判焼きよりデリバリーのタクシー代の方が高くても定期的に注文してくれる日本人もいて、着実にリピーターが増えていった。こうして、ロックダウン後の営業再開もスムーズにできた。

大判焼きの中身は14種類。クリーム、抹茶、イチゴなどのおやつ系と、ハムチーズ、カニカマといったお食事系があり、そのバラエティの豊富さはロシア風クレープ「ブリヌィ」を思い起こさせる。悲しいことにあんこがない。日本人は必ず「あんこはないの?」と聞いてはガッカリするので、スワリャンさんは商品化を検討中だ。

ロックダウン中にはスワリャンさんが自ら配達した
© 写真 : YAKI
ロックダウン中にはスワリャンさんが自ら配達した

TikTokでバズッて一躍人気店に

「ヤキ」には流行に敏感な若者がやってきて、勝手に宣伝してくれる。ある女性客が、大判焼きを2つに割って、チーズがとろりと出てくる動画をTikTokに投稿。スワリャンさんの知らないうちにバズっていた。これには慌てふためいた。

スワリャンさん「生地をあらかじめ作っておくと味が変わってしまうので、作り置きはしませんし、クリームなどの中身も、その場で作っています。動画の影響で、信じられない数のお客さんが来て、それが数週間続きました。朝から晩まで働いて、記憶が無いです。わざわざ2時間かけて来てくれた人もいて、その人に『2時間待ちです』なんて言わなきゃいけないんです。夜になると何も売るものがなくて、申し訳なくてお客さんの目が見れませんでした」

今ではアルバイトも雇い、土日には2人体制で営業しているが、いずれにしてもそれなりの時間待つことを覚悟した方がよい。

一番人気はクリーム。今月には新作チョコバナナ、抹茶チョコが登場
© 写真 : YAKI
一番人気はクリーム。今月には新作チョコバナナ、抹茶チョコが登場

日本の美味しいものを紹介したい

スワリャンさんは、エキゾチックな外見からすぐアルメニア人だとわかる。お客さんの中には「アルメニア人がロシアで日本の伝統菓子を焼いている」という異文化のミックスに戸惑い、本当に日本のお菓子なのか疑う人もいるという。しかしスワリャンさんは、「誰が作ろうと、美味しいものは美味しい」と意に介さない。

今はフードコートの一角でしかないが、そう遠くない将来、モスクワ中心部に路面店を出すのが目標だ。スワリャンさんは「コロナが落ち着いたら必ず日本へ行きます。昔から甘いものが大好きで、日本のチーズケーキも作ってみたい。それ以外にも日本には、僕のまだ知らない美味しいものがたくさんあるに違いありません。そういうものを見つけて、ロシアで紹介したい」と夢をふくらませる。

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食生活, 食べ物, 食料, 食事
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