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事故から35年のチェルノブイリへ
「ゾーン」に200回超踏み入った彼女のストーリー
記者:マリア・チチワリナ
写真:ナタリー・テレシェンコ

チェルノブイリ原子力発電所の事故が発生して、今日で丸35年。史上最大の原子力エネルギー事故史上は自然界に計り知れない損害をもたらし、ソ連及びその近隣諸国に暮らす多くの人の生活を根底から覆した。事故から数十年が経過した今もチェルノブイリの周辺は放射性物質で汚染されている。にもかかわらずここを一目見ようという人の波は世界中からひきもやまない。そんな一人、「ゾーン」に魅せられたナタリヤ・テレシェンコさんのストーリーをスプートニクが取材した。

写真:ナタリー・テレシェンコ

インスタ:@lady.adventure_

1986年4月25日、現在ウクライナ(当時ソ連の領域)のプリピャチ市の付近にあるチェルノブイリ原発で事故が起きた。爆発により原子炉は完全崩壊し、周辺地域には大量の放射性物質が放出された。これによる死者数、事故の影響を受けた被害者の数、経済損失額の全てが原子力エネルギー史上最大とされる。国際原子力事象評価尺度では、チェルノブイリの事故は深刻な事故を指す最悪のレベル7。後日に起きた福島原発事故も暫定だが同じレベルに評価されている。このレベルは放射性物質の重大な外部放出が生じ、住民の健康、環境に深刻な影響を及ぼし、近隣諸国でもその影響は感じられる事態を指す。
「自分があるべき場所に来たと思いました」
ナタリヤ・テレシェンコさん、22歳。ナタリヤさんはほんの子どもの頃からチェルノブイリ立入禁止区域に魅せられた。出会いは13歳。コンピューターゲーム『S.T.A.L.K.E.R. SHADOW OF CHERNOBYL』で「ゾーン(立入禁止区域)」を知ったナタリヤさんはすっかりその虜になり、以来、明けても暮れてもどうにかしてチェルノブイリに行きたいという焦燥感を抱き続けたという。
「ゲームという形でさえチェルノブイリのゾーンには私を捉えて離さない何かがありました。ゲーム『S.T.A.L.K.E.R. SHADOW OF CHERNOBYL』のロケーションは本当に立入禁止区域そのものなんです。これがわかった時、私は現実世界のチェルノブイリに立ってみたいと思いました。」

立入禁止区域にツーリストとして行くことができたのはナタリヤさんが18歳(ウクライナの成人年齢)になった時だった。18歳の誕生日から1月後、ナタリヤさんは初めて、ツアーでチェルノブイリを訪れた。
「まるで自分があるべき場所に来たと感じました。自分の心の中に信じがたい感覚が生まれ、旅の後もそれは長い間去ることはありませんでした。しばらくして再び舞い戻り、今度は2日のツアーに参加したんです。立入禁止区域での2日間でわかりました。『これはまさに私の場所だ。私は何度でもここに戻ってきたい』と。」
突然変異の生物と命とは相いれない放射能 チェルノブイリの嘘と真実
ナタリヤさんはチェルノブイリを未だに閉鎖され、所によっては今なお放射性物質に汚染された保護領域だと語る。自由な立ち入りはできない。立入禁止区域にはおよそ2500人が働いているが、領域に入るのは、放射性物質が危険なレベルに達さないとされる時間帯に限られている。ここで働く者たちは全員、常に被爆レベルを検査し、医療チェックを受けている。
チェルノブイリをもっと頻繁に訪れるためにナタリヤさんは立入禁止区域のガイドライセンスを取得した。この間に彼女が区域に入った回数は200回を超えるという。

「3か月ごとにガイドには小型の自動線量測定器が配られるんです。これは私たちの被爆線量を計測するためのもので、安全な許容基準がありますが、この4年で私の被爆量は一度も限界を超えていません。それはこの仕事が危険ではないからです。もちろん事務仕事のようには何も悪いことはないというものではないですが、10年後には悪影響が出てきますということもありません。チェルノブイリ立入禁止区域は広大な領域で未だに放射能汚染のひどい場所もあります。でも、禁止区域でもキエフやモスクワのような大都市の放射能汚染値を超えないところだってあるのです。」
ナタリヤ・テレシェンコさん
コロナウイルスのパンデミックが始まる前は立入禁止区域を訪れる人の数は日に1000人くらいはいたという。
「ツアーコースで私たちは決して安全な道から外れません。この道は箇所によっては放射能レベルは高くなりますが、それでも大陸の上空を飛ぶ航空機の機内での数値よりも、それはずっと低いものです。放射能レベルが高い場所は保護されており、未だに入ることはできません。」
チェルノブイリ立入禁止区域への興味をかきたてる、もうひとつ別のテーマが動物の突然変異。大量の放射能を浴びて変化した動物が人里離れた場所に生息しているという噂が囁かれているが、ナタリヤさんはこれを作り話と一笑する。
「突然変異を起こした動物やモンスターのようなものはチェルノブイリにはいません。こうしたフェイク情報は文学作品や映画、ゲーム『S.T.A.L.K.E.R.』の影響です。研究者に見つけられた変異体もありますが、たいしたものではなく、裸眼ではわかりません。これは動植物のゲノムのレベルの変化の話で尻尾が2本生えているとか、頭が2つあるとかいうことは全くありません。ひどい突然変異が動物の胎児に見受けられたこともありましたが、でもそういう胎児は生まれないか、生まれても死産で終わりました。そこまでの突然変異は生きることはできないんです。チェルノブイリ立入禁止区域で一番よくみられ、知られている突然変異は体長3メートルのナマズです。実際に立入禁止区域の冷却水用の池の水路に生息していましたが、10年の間に全部が捕獲されて、今はもういません。これもサイズが大きいというだけで変形があったという話ではないのです。それにナマズはもともと大きい魚ですし。」
ナタリヤ・テレシェンコさん
チェルノブイリ事故は全人類にとっての恐ろしい悲劇だ。このことから私たちは学ばねばならない教訓を全て受け取ったと思いたい。ナタリヤさんは35年が経過した事故の痕跡をこの目で見たいという希望者にその機会を与えつづけている。