20:54 2021年08月01日
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国内の厳しい感染状況を受けて、東京オリンピックに向けた多くのイベントが中止されている。国営昭和記念公園で開催される予定だった春風盆栽展もそのひとつだ。日本は盆栽を通じて世界に何を伝えられるのか?盆栽は「年配男性の趣味」というステレオタイプはどこまで通用するのか?盆栽を日本の若者に広める必要はあるのか?東京の公益財団法人フォーリン・プレスセンターが主催する埼玉県のプレスツアーでスプートニクの記者が大宮盆栽美術館の田口文哉 学芸員と清香園5代目園主で若手盆栽家の山田香織氏に聞いた。

日本人の心と技、日本の多様性を映し出すシンボル

大宮盆栽美術館は盆栽文化の調査・研究とともに、大宮の盆栽文化を広く世界に発信するため、2010年3月に設立された世界初の公立の盆栽美術館である。美術館は日本を代表する名品盆栽120点以上をはじめ、鑑賞石、絵画・歴史・民俗資料を公開しており、盆栽を知るための日本有数の施設である。

大宮盆栽美術館
© Sputnik / Eleonora Shumilova
大宮盆栽美術館

オリンピックにあわせて開催予定だった最大の盆栽イベント、春風盆栽展の中止を受け、スプートニクの記者は大宮盆栽美術館の田口学芸員に、日本が盆栽を通じて世界に伝えられるものとは何かを問うた。

田口氏:「中国にルーツをもつ文化を、日本人が長い時間をかけて、技術を磨き上げ、高い精神性を持つ独自の文化「盆栽」として育んできました。さまざまな自然の木を対象として、理想的な樹木の姿を作り上げる技術力の高さ、長い年月にわたって樹木を大切に育て、継承するやさしい心、そして、小さな木のなかに雄大な自然樹の姿を見出す豊かな創造性、また、無駄をそぎ落とし、簡素さのなかに多様性を見出す潔い精神性、小さな盆栽は、日本人の心(精神)と技(技術)、そして日本の国土の多様性を映し出すシンボルとも言えます。

盆栽は、自然に寄り添う芸術です。盆栽をとおして、やさしくもあり、また厳しくもある日本の自然の豊かさ、そして、日本人が自然に対してもつ畏怖や愛情、また、日本人が育んできた技術力と創造力の高さ、精神世界の豊かさを伝えたいと思います。」

大宮盆栽美術館の田口氏と推定樹齢1000年の盆栽
© Sputnik / Eleonora Shumilova
大宮盆栽美術館の田口氏と推定樹齢1000年の盆栽

「IKEA効果」としての盆栽

スプートニク:盆栽は「年配男性の趣味」というイメージが大きいと思います。盆栽を日本の若者にも普及させる必要があると思いますか?

田口氏:「『年配男性の趣味』と言われることは、別の見方をすれば、盆栽が高い文化性と長い歴史性をもっていること、そして、その価値を理解できる世代として“年配男性”であることを意味しているわけですから、私はその点を盆栽文化の価値として大きく評価しています。

ただし、その世代だけでは盆栽の文化的な継承はできませんから、若い世代にも盆栽の魅力を伝える必要はあります。そして、日本においてこの問題は、現代の盆栽関係者の大きな課題となっています。」

田口氏は、盆栽の魅力を日本の若者に伝えるためにまず重要なのは若者のための環境作りだという。

田口氏:「若い世代にアピールするため、まずは日本における『盆栽』に対する非常に狭い入口を大きく広げる必要があると思います。

第一には、そもそも『盆栽を見たことがない』ということが大きな課題です。そのために、さいたま市は公立博物館として、誰もが盆栽を気軽に見に行くことのできる大宮盆栽美術館をつくりました。盆栽は個人の家における非常に閉じられた趣味であり、大宮の盆栽園は一般向けというより、愛好家のために営業がされるため、博物館の存在は一般に開かれた施設として重要です。」

第二に重要なのは、盆栽はただ鑑賞して楽しむだけでなく、自分の手で作る楽しみもあることを若者に伝えることである。

田口氏:「次に、盆栽は鑑賞する楽しみだけではなく、自ら手軽に作る楽しみもある趣味です。美術館にあるような高い価値を持つ盆栽だけではなく、より手軽に、自ら作り上げられる趣味であることを知らせることが必要です。経済学的には『IKEA効果』と呼ぶそうですが、自分で作ったものは、人が作ったものよりも良いものであると人は認識するようです。つまり、自分が作ったものには、より愛着がわくのです。」

大宮盆栽美術館
© Sputnik / Eleonora Shumilova
大宮盆栽美術館

田口氏:「盆栽にも、本格的なもの(30cm以上の大型のもので、特にマツなどの常緑樹の盆栽、価格も数万円以上と高い)と、より手軽なもの(手のひらサイズ、モミジなどの落葉樹、数千円程度)とランクが分かれています。もちろん人それぞれの好みはありますが、若い世代には、より手軽な盆栽がよいでしょう。手軽なサイズの落葉樹の盆栽は、なにより『カワイイ』ですし、都会で生活する若い世代は、身近に季節感を感じられることのすばらしさに気づくことができると思います。」

もうひとつ重要なポイントがある。盆栽を作るには、より盆栽を購入しやすい場所を知ってもらう必要があるのだと田口氏は強調する。

田口氏:「一つの良い例が、大宮盆栽村で毎年5月3日から5日まで開かれる「大盆栽まつり」というイベントです。大宮盆栽村のほとんどの道路を封鎖し、盆栽を売る露店が日本中から集まる盆栽のお祭りです。このイベントには、毎年数多くの若い世代が来て、小さな、かわいらしい盆栽を買っている様子を見かけます。ほんとうに、とても楽しく、日本でもここにしかいない祭りです。」

また、田口氏は、若い世代へのアピールには、盆栽を趣味にしている若いアイドルや俳優、スポーツ選手などを紹介することも良い方法だとして、「盆栽の歴史のなかでも、著名人が盆栽を趣味としていたことから大衆に広まっていったという経緯があります」と語る。

大宮盆栽美術館、推定樹齢500年の盆栽
© Sputnik / Eleonora Shumilova
大宮盆栽美術館、推定樹齢500年の盆栽

田口氏:「また、日本人は、海外で人気があり、権威のある文化を積極的に取り入れようとする気質をもっています。欧米、そしてアジア圏における盆栽の人気は高く、いわゆる『逆輸入』のかたちで、『古くて新しい盆栽文化』を発見させるように仕向けることもできそうです。これはつまり、従来の日本人の視点ではなく、外国人のように新たな視点で日本の文化である盆栽を再発見して見つめてみようというものです。」

盆栽は女性のやることではない?

山田香織氏は江戸嘉永年間に江戸で創業した歴史ある盆栽園「清香園」の5代目園主。山田氏は、手掛けた盆栽が5つ星ホテル「シャングリ・ラ  ホテル東京」や「明治神宮宝物殿」にも展示される、注目の若手盆栽家である。

山田氏は同園で新しい盆栽のスタイルを提案している。木々に草花を添えて小さな庭を作るように寄せ植えすることで、鉢の中により華やかで写実的な風景描写を施す「彩花(さいか)盆栽」というスタイルだ。彩花盆栽教室は首都圏6か所で運営されており、老若男女を問わず、広い層に盆栽の楽しみ方を伝えている。

清香園5代目園主で若手盆栽家の山田香織氏
© Sputnik / Eleonora Shumilova
清香園5代目園主で若手盆栽家の山田香織氏

また、山田氏は盆栽の「年配男性の趣味」というイメージを覆したいという。というのは、女性の手が入ることで、盆栽の端正なイメージにより女性的でかわいい要素を付け加えることができ、伝統的な盆栽に劣らず美しく類い稀なものを作り出すことができるからだ。しかし、山田氏によると、盆栽の世界に女性はまだまだ少なく、従事者全体の5%程度でしかないという。しかし、彼女の盆栽教室に盆栽を学びに来る人に占める女性の割合は85%にのぼる。

山田氏:「日本ではこれまで、伝統的な産業の担い手は男性が主体だったんです。それは盆栽に限らずそうなんですが、ちょうど私たちの世代は過渡期で、女性がどんどん増えてきていて、いろんな分野でお嬢さんが跡継ぎになったりしています。それによって、発想の視点が増えると思います。私もそうだったんですが、女性だったら、もっと小ぶりなものがほしいなとか、もっと軽いものがいいなとか、鉢ももっとオシャレなのがほしいなとか、お洋服選びのようにもっと自由に選びたいなとか、もっと違う形のものがほしいなとか。そんなふうに拡がっていくことで視点が増えて、多様化していったらいいなと思っています。

あくまで私の個人的な感覚ですが、男性のお客様より女性のお客様の方がコツコツ育てていくことがその人自身を満たしていくんです。男性のお客様はどちらかというと、形作りにものすごくこだわっていく。いかに銘木に近づけていくかというところにすごくアンテナを張っているというイメージがあります。ですから、そういった楽しみ方の違いも、人によってあるのかなと思います。」

盆栽園「清香園」
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盆栽園「清香園」
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