マレーシア航空ボーイング機法廷:圧力の手段としての裁判

© AFP 2023 / Kena Betancurマレーシア航空ボーイング機法廷:圧力の手段としての裁判
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ロシアはウクライナにおけるマレーシア航空のボーイング機墜落事故に関する国連国際法廷案に拒否権を発動した。イニシアチブをとったマレーシア、オランダ、豪州、ベルギー、ウクライナは、法廷開設のため、代替手段をさがすという。ロシアの法律家イリヤ・レメスロはこの件について、次のような見方を示している。

ロシアがなぜ国連安保理決議を阻止したのか、その理由を問い直してみよう。第一に、関係全当事者の参加するしかるべき調査がないこと、ロシアに対し、国際グループの情報へのアクセスが与えられていないこと。第二に、法廷推進派とその背後にある米国の、明らかな不公平。第三に、ボーイング機墜落は、刑事犯罪の結果あり、平和・安全への脅威でない。ゆえにそれは、法廷で審議されるていのものではない。

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現代の刑事法廷というものは、国内のものであれ国際的なそれであれ、法手続きを厳格に遵守することを必要としている。それは全ての文明国に共通のスタンダードだ。欧州でも米国でも、調査を行うことなく、また被告に捜査資料を開示し、起訴状を示すことなしに刑事告訴することは不可能である。こうしたスタンダードは国際法廷でも堅持されている。ではなぜボーイング機墜落事故法廷が例外となるのか。なぜ事故原因と犯人特定が国際民間航空条約に権限を付与された国際仲裁機関でなく、閉鎖体制で、法廷で下されねばならないのか。

国際法慣行では、国連安保理は、ジェノサイド、平和や安全に対する罪にかかわる場合には、法廷を開設する。個別の犯罪について国際法廷が開かれたためしはない。民間機撃墜はまさにそれにあたる。比較のために別の事故を引き合いに出そう。1988年ペルシャ湾でイランのエアバスA300が墜落した。米海軍の巡洋艦が中立水域で「誤って」290人の乗る同機を撃墜した。しかし米国も西側の同盟諸国も、このとき法廷開設を要求することはなかった。どころか米国は形式的には事故について自らの法的責任を認めることもせず、巡洋艦部隊は合法的に行動したとして、謝罪をすることもなかった。当時の副大統領、ジョージ・ブッシュ・シニアは、「どのような事実があれ、米国を代表して謝る事は決してない」と述べた。しかし、ボーイング機墜落をめぐっては、まるで違うスタンダートが適用された。事故はロシア圧迫という政治的目的で利用されることになった。

ロシアが拒否権を発動した後、法廷開設推進派は新たな方策を持ちだした。マレーシア、オランダ、豪州、ベルギー、ウクライナで独自の法廷を開くか、もしくは国連総会開会にあわせて裁判を開くか、もしくは上に示した一カ国の国内裁判所か。これら全てのやり方がことごとく法的観点から疑わしいものであり、何らの前例ももたないものであり、最も重要なことには、非公開である。

「国内法廷」創設というのまったくナンセンスだ。特定国が国際法廷の機能を自己に付与するなど、国連憲章および一連の国際条約への違反である。

「国連総会開会にあわせた裁判所」については、国連総会は安保理とちがい、法廷その他司法機関を創設する権限を付与されていない。もし国連総会が推進を是とする投票をとったとしても、結局その問題は安保理に託されることになる。

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上に示したいずれかの国の国内裁判所は、審議を行う権限がない。理由は簡単、このケースは国際的性格をもっており、したがって、一国の法管轄権には属さない。

上に示したいくつかのやり方の中に、最も簡単で合理的なやり方、国際裁判所の裁判手続きというものが欠けていることは、まことに驚きである。米海軍がエアバスを撃墜したのち、イランはまさにその道に走った。米国側は事実の圧力をうけ、裁判所で和平合意をむすぶことを余儀なくされた。米国の罪は事実上、裁判所で確定したのだ。

もし法廷推進派の言うようにロシアがボーイング機墜落に参加した反証不能な証拠があるなら、なぜそれを公開裁判の対審手続きで示さないか。推進派諸国のこのような不決定の理由は次のようなものと考えられる。

第一に、推進派の背後に立つ米国は、自分が管理していない国際司法機関を軽視することで有名だ。1986年、国連国際裁判所におけるニカラグア対米プロセスを思い出せば十分だ。裁判所は、米国はニカラグアで戦争をはじめ、一連の国際法上の責務を侵害した、と判定した。米国は膨大な賠償金を命じられたが、それは結局支払われることはなかった。この裁判ののち、米国は国連国際裁判所の決定を認めることを拒否した。

第二に、推進派諸国は実は、ボーイング機墜落の犯人を特定できる、公開の、公正な審理を必要としていない。ロシアによる安保理決議案ブロックは、ボーイング機墜落が単にウクライナへの「ロシアの侵略」を強調する口実に利用されているに過ぎないことを示している。

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