「母のカレー」: ロシアの小さな町にレストランを開業した日本人の話
7月1日、モスクワ郊外のレウトフ市に日本人の大坪拓己さんがカレー屋をオープンさせた。母親のレシピで作った日本のカレーを提供する。モスクワでは毎日のように新しい日本食レストランがオープンしており、誰もがこれに慣れきっている。しかし、モスクワ郊外の小さな町に「母のカレー」が登場したことには多くの人が驚いた。大坪拓己さんとレストランのストーリーをスプートニクがお伝えする。
レウトフの日本食レストラン。どうしてこれが普通じゃないのか。
レウトフはモスクワの東にある小さな町で、公式データによると人口は10万9000人(2019年現在)。この町には特別な観光名所もなく、町の大部分がベッドタウンである。モスクワを見物に来た外国人が、どういう訳かレウトフへ行くことになったというのは、なかなか想像できない。しかし、他でもないこの町の、地下鉄駅から徒歩20分のマンションの1階に「母のカレー」はオープンしたのである。
このレストランに関する情報はすぐにSNSで広まった。ユーザーが驚いたのは、本物の日本のカレー屋がいつものモスクワ中心部ではなく、モスクワから遠く離れたところにできたということだった。また、このレストランのオーナーが本物の日本人であることも人々を驚かせた。彼はいったいレウトフで何をやっているのか?
オーナーの大坪拓己さんによると、レストランの立地は経済的な理由で選んだのだという。モスクワ郊外の賃料はモスクワよりもずっと低いからだ。
誰でも手が届く日本食
「母のカレー」で驚くのはロケーションだけではない。値段も驚くほどに安い。
大坪さんは言う。「私のカレーはロシアでは多分、一番安いです。」 これこそが彼の最大の狙いだった。学校帰りの子どもや、お金のない学生、経済的余裕の如何にかかわらず誰でも通うことのできるカレー屋をオープンさせたい。そして、それを実現させた!
「母のカレー」ミニはわずか100ルーブル、コーヒーは一杯60ルーブルだ。(比較のために言うと、通常のチェーン店では同じような料理は250ルーブル~、コーヒーは200ルーブル~である。)
大坪さんは、こんな値段だとすぐに倒産してしまうかもしれないと冗談めかして言う。しかし、彼のこの小さなビジネスは、コストを最小限に抑えることで価格を低く抑えられるよう、すべてきちんと計算されている。高価な陶器の食器の代わりに、彼は(環境に申し訳ないですけどと言いつつ)使い捨てのプラスチック食器を使用している。これなら洗う必要もなく、値段も安い。掃除も食材調達も事務作業も必要なことはすべて、宣伝やプロモーションに至るまで、大坪さん自身が行う。アシスタントを使うのはカレーの調理だけだ。「朝、私が基本的に一人でカレーを作ります。そしてその後はアシスタントさんと一緒に作ります。私がメトロへ行ってチラシを配って広告するときは、アシスタントさんはお昼からカレーを作ります。そしてその作ったものを朝に私が作ったカレーに加えるという形になります。アシスタントさんはキルギスの方です。その方にもカレーの作り方全部教えましたので、そしてその人が作ったカレーを私のカレーに加えますので、味は基本的に毎日ほとんど変わりません。」
今は思ったほどお客さんは多くなく、人々が家の外に出たがらない雨の日には、1人もお客さんが来ないこともある。しかし、大坪さんは落ち込まない。「利益はそんなに多くないですが、私はロシアのお客さんが喜んで食べてくれることがありがたいです。」
母親のレシピで作るカレー
もちろん、私たちもカレーを食べずに大坪さんのレストランを後にすることはできない。
スプートニクの記者、徳山あすかは次のように印象を語った。
ロシアで、たった一人でお店を始めるという大坪さんのチャレンジ精神に感銘を受けました。きっと、開店に至るまでにたくさんの苦労があったと思います。大坪さんは自分では「ファーストフード店」と言っていますが、せわしない感じは全くなく、ビビッドな内装にも関わらず、落ち着ける雰囲気のお店です。カレーは、子どもの頃の夏休みのお昼ご飯を思い出させるような、安心感のある味で、鶏肉がとてもやわらかくておいしかったです。こういう純粋な家庭の味が味わえる場所は貴重なので、このカフェがもっと有名になって、もっと地元の人に愛されるような存在になってほしいです
徳山あすか
スプートニクの記者
大坪さんはカレーのレシピは秘密だと言い、レシピは教えてくれなったが、このお店の名前にもなっている母親については、本人は「そんなにおいしいカレーを作っているつもりはなく、普通のカレーを作っていると考えていますので、とても恥ずかしいと言います」と語ってくれた。
大坪拓己さんがロシアに来たきっかけは?
私たちの質問に大坪さんは「デジャヴュ」だと答えた。
2006年ぐらいに私はルーマニアへ旅行に行ったんですよ。その時にモスクワで乗り換えをしたんですけれども、不思議なことに、私はロシアに行ったことがあると感じました。デジャヴュですね。それで面白いことに、そのあと日本の会社で働いていたんですけれども、食べ物を作る機械を作って売っていまして、私のお客さんの一人がロシアの会社だったんです。それで私はこれからロシア語を勉強し始めようと思い、2008-2009年からロシア語を勉強し始めて、ロシアにだんだんと興味を持つようになりました。
大坪拓己
大坪さんは、モスクワ国立大学でロシア語コースを受講した後、さらに国立ロシア観光サービス大学で別のコースを受講し、その大学で修士課程を修了した。
「大学で時々日本のカレーを作りました。ロシアのお友達に料理を作ってあげたら、みんなに「日本人、美味しいぞ、とてもおいしい。料理屋さん、始めたらどうか」と言われまして、ちょっと考えるようになりました。」
現在はSNSのおかげで、大坪さんのカレー屋は知名度を上げている。9月1日からは料理の宅配サービス「ヤンデックス・フード」とも提携しているため、大坪さんのお店には雨の日でもお客さんが来るようになっている。
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