米国の警察改革 民主、共和両党は自己目的にこれをどう利用する?

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米国で人種差別主義と警察の人権を無視した行為に反対し、大々的に燃え上がった抗議行動は、無秩序状態に達した後、沈静化に向かっている。現在、抗議行動はすでに全米を網羅する規模ではないものの、それでも地域によっては未だにくすぶり続けている。そしてこれらすべてが大統領選挙戦を背景に起きており、所得の減少、コロナウイルスのパンデミックなど、市民間に高まる不安で深刻化している。

警察改革は選挙キャンペーンの一環

民主党とトランプ大統領は治安維持機関改革法案をほぼ同時に提出した。両法案の主たる狙いは警察の違法行為の発生リスクを下げることにある。だが、民主党が人種差別の根絶に最大の焦点をあて、予算および人員縮小をはじめとするラディカルな警察改革を求めているのに対し、トランプ大統領の案は法と秩序の順守に重点をおき、人種差別については努めて言及を避けようとする内容だ。トランプ氏はツィッターに「米国人は法と秩序を求めている。米国人はこれを口に出すこともなく、言及しないかもしれないが、それでも欲しているのはまさにこれである」と書きこんでいる。

警察を排除せよとの要求に対する答えとしてトランプ氏は、警察の人権を主張するスローガン 「Blue Lives Matter 」(警察の生命は意味がある)への支持を表明している。これは「Black Lives Matter」への対抗として出てきたスローガンだ。トランプ氏の法案では人種差別については語られておらず、警察による力の行使の事件は個々の事例として取り扱われている。 実は野党の側にも警察改革に関するコンセンサスはない。11月の選挙でトランプ氏のライバルと目されているバイデン元米副大統領など、警察への予算縮小案を承認しなかったどころか、治安維持活動局(COPS)の強化に追加で3億ドルの拠出を提案している。バイデン氏はまた死刑制度の廃止、それぞれの刑に対する懲役の「最低収監期間」の廃止、刑期を終えた者の社会復帰をスムーズに図ることも呼び掛けた。

米国で抗議 - Sputnik 日本
米国の政治家ら 抗議を自身の目的ためにどう活用?
この状況について考察したロシア科学アカデミー安全保障問題調査センターのコンスタンチン・ブロヒン上級研究員は、何をどう提案しようと双方の案ともすべて現在の選挙戦のコンテキストでとらえる必要性に駆られているとして、次のように語っている。

「トランプ氏に今大事なのは抗議運動を鎮火することだ。治安維持機関改革を真剣に行うには長い時間が要されるが、その余裕は彼にはない。民主党は党の宿敵のトランプ氏に打撃を与えたい。そのトランプ氏は今、未だかつてないほど人種差別を連想させる存在だ。この他、民主党は深刻な社会、経済問題から社会の目をそらそうとしている」。

違法、でも日常には色濃く残る人種差別

米国に移住した、あるロシア人女性は「米国で人種差別を否定することは、社会現象としてある、この不平等を否定することになる」と言う。移住生活20年以上となるこの女性は匿名を条件にスプートニクからの取材に次のように答えた。

「長年にわたる差別とターゲットが絞られた分離政策、そして高等教育と高収入の職業への道を断たれた黒人がこの社会の大半を占めている。合法的差別を取り除くために米政府は『アファーマティブ・アクション』を取った。これはアフリカ系米国人が大学に入学する、国家公務員になるという際に恩典を得るという、積極的差別政策のことだ。このプロセスはいかなることがあろうと進んでおり、大学に入学して、従来白人が占めていた専門職を得、米国社会の確固たる一員となる黒人は増えている。だが、それよりも達成の難しい課題がまだ2つ残されている。それは日常の人種差別から脱却することと、そして子どもの時分から犯罪的なサブカルチャーに引き込んでしまう、巨大化したアフリカ系米国人コミュニティを脱周辺化させることだ。この問題は1年やそこらで解決できるものではなく、10年かかっても難しい…。」

歯まで武装した国

米「アクシオス」が米国市民に対して行った警察への信頼度調査では、白人の77%が警察を信用すると答える一方で、黒人はわずか36%しか信用していないという結果が出た。

この「Black Lives Matter」運動を熱烈に支持する市民が唱える、人種差別的警官がより多くのアフリカ系米国人を殺害しているという説だが、ニューヨークのマンハッタン・カレッジで人種間関係を専門とするコールマン・ヒューズ氏は論文の中でこれに反論している。自身、アフリカ系米国人であるヒューズ氏は「Black Lives Matter」のスローガンを支持するものの、別の帰結を結んでいる。

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首を圧迫する行為の禁止:トランプ大統領、警察改革の大統領令に署名 抗議デモ背景に
「平均的にみれば、警官が黒人やラテンアメリカ諸国出身者に対して力を行使しやすく、この力の行使が余りに頻繁に行われ、それに対して処罰を受けていないと私も確信するが、警官が武器を持たぬアフリカ系米国人を不釣り合いに多く殺しているとは思わない。」

ヒューズ氏は犯罪学調査の結果を分析した結果、この帰結に達した。警察の行為を調査した結果、露骨な人種差別を示す兆候は見られなかった。ヒューズ氏は論文の締めくくりに記したのは、米国警察は状況の判断、分析を行わずに発砲すると言えるが、それは米国民は他の多くの民族と異なり、歯まで武装しているからだという結論だった。

改革で警察の残忍性は低まる?

警察改革の狙いはその残忍性を低めることにある。特に催涙スプレーの使用禁止、走行中の車両からの発砲の禁止、警官の命が危険にさらされる場合を除いて、首を絞める技の禁止があげられている。職務遂行で過度の力の行使がどれほど行われたか、警官各人に調書がとられる他、法案が承認された場合、市民から出された警察の暴力についての苦情は必ず検討されることが列挙された。だがブロヒン上級研究員は、米国には単一の警察管理システムは存在せず、各州がこれを管轄していること、また大都市、中都市が独自の警察機関を事実を鑑みると、改革はかなり難航するだろうとして、さらに次のように語っている。

「警察は州政府の政策に従う立場にある。もちろん連邦政府には法務省、国土安全保障省を通じててこ入れする方法はあるが、本当の意味で大きな改革を行うことはかなり問題がある。」

ところで統計を見ると、米警察官の15.5%はアフリカ系米国人で占められている。米国における警察の職務は危険ではあるものの、権威は高く、高収入とされている。

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