19:49 2020年09月29日
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緊急事態宣言の解除後、日本の文化ライフは徐々に活性化してきている。しかし、今でも厳しい状況におかれたままの業界もある。そのひとつが国内の感染症流行に対する備えがなかった音楽・芸能業界だ。どうしてそうなってしまったのか?日本の音楽業界がこの厳しい時期をどのように乗り越えようとしているのか?この先にあるものは?スプートニクの記事でお伝えする。

損失は甚大

ぴあ総研の6月の推計によると、今年、国内のライブ・エンターテインメント業界は新型コロナウイルスの影響で年間市場規模の8割弱、約6900億円を失うという。

そして、どうやら今年下半期も状況の改善は望めそうにない。芸能プロダクションを専門とする日本最大のエージェントのジャニーズ事務所でさえ、8月末には今年12月末までのコンサートを中止すると発表せざるをえなかった。

日本の音楽業界にとってライブ・コンサート以外の重要な収入源はCDの売上だ。しかし、ここにも新型コロナは大きな衝撃を与えた。日本の現代カルチャーを研究する松谷創一郎氏によると、現状の唯一の突破口はインターネットだが、音楽・芸能業界はこの方面で大きく遅れをとっており、ニューノーマルに機動的に対応できていないという。

「2010年代の日本の音楽産業の中心にあったのは、それまでと同様にCDを売るビジネスでした。しかし、そのCD販売を支えたのは、AKB48に代表されるCDに握手券をつけて売るビジネス(AKB商法)でした。実質的に音楽ではなく、コミュニケーションを売っていました。これによって、数字上は世界第2位の音楽マーケットを維持してきたと言えます。

また、インディペンデントのミュージシャンやアイドルなどは、ライブに大きな比重を置いていました。ライブエンタテイメント産業は、2010年代に非常に大きな成長を見せました。以上のような状況によって、ネット対応は韓国だけでなく欧米と比較してもずいぶん遅れています。

新型コロナウィルスのことによって、握手会やライブエンターテインメントは非常にダメージを受けています。現在も再開の見込みはたっていません。よってインターネットに打って出るしかないのですが、これまで積極的ではなかったので各プロダクションはその方法論を知らず、戸惑っている状況です。」

なお、最新情報によると、日本では9月19日からコンサートを含むイベントの制限が緩和される予定。これによって音楽業界は新型コロナの影響で被った損失をわずかでも取り戻すことができるかもしれない。

スキャンダルと危機で始まった令和

差し迫った危機の兆候は昨年にも現れ始めていた。令和という新時代の幕開けとともに、音楽・芸能業界には悲報が駆け抜けた。ジャニーズ事務所の創始者で、50年にもわたって日本の音楽業界に大きな影響力を持ち続けたジャニー喜多川氏(享年87歳)の死である。

ジャニー喜多川氏は日本の音楽業界にとってまさに伝説だった。彼はまた歴史上最も成功したプロデューサーとして世界的にも名を馳せ、ギネスブックにも3つの記録を持っている。しかし、彼の活動には日本のマスコミが沈黙し続けてきた裏の面もあった。メディア空間に対するジャニー喜多川氏の影響力はそれほどに大きかったのだ。

彼の死の一週間後、日本のニュースが初めてこうした側面について語り始めた。2019年7月には公正取引委員会が独占禁止法違反行為の疑いがあるとしてジャニーズ事務所を調査していることが明らかになった。約2年前にジャニーズ事務所を去った元SMAPメンバーの3人を出演させないよう、ジャニーズ事務所が民放テレビ局に圧力をかけたという疑いだった。ジャニーズ事務所はそのような行為はなかったと否定。日本のエンタメ業界に詳しい人々は、ジャニーズ事務所は実際、そのようなことはしていないと考えている。そんなことをしなくても、日本の民放各社は、元雇用主(ジャニーズ事務所)の怒りを買わないよう、これらのアーティストを自社の放送にのせるべきではないとわかっているからだ。

ジャニー喜多川氏については、契約を結んだ少年たちに対するセクハラ疑惑でも別の調査を行う必要がある。2000年代初めには、長期にわたる訴訟の結果、週刊文春が書いた少年たちの詳細な証言には「真実性がある」と裁判所が認めた。しかし、これもジャニー喜多川氏に対する正式な告発には至らず、日本のマスコミは事実上この事件を黙殺し、欧米のマスコミはそれに対して特に批判的に反応した。

ジャニーズ事務所に独占禁止法違反行為の可能性があるというスキャンダルに続いて、他の会社にもスキャンダルが起きた。とりわけ、2019年に最も注目されたのが、もうひとつの大手エージェント「吉本興業」の事件だ。「お笑い芸人による闇営業問題」の調査で明らかになったのは、同社で働くスターたちが正式な契約書を持たず、安い労働力として扱われているという事実だった。

このような不祥事は、日本のエンタメ業界の既存ビジネスモデルに深刻な体系的問題があることを明確に示している。松谷氏によると、元・関ジャニ∞の渋谷すばるが歌う『ぼくのうた』は、エージェントで働くアーティストが置かれた不自由さへの反意を表現した鮮やかな例だという。『ぼくのうた』は昨年9月、渋谷すばるがジャニーズ事務所を去り、ソロ活動を開始した後に発表されたものである。

デジタル・パイオニア

日本の音楽業界にとって、2019年は象徴的な年だった。平成の終わりが10年の終わりと重なり、多くの人々は過去を振り返りつつ、SMAPや安室奈美恵など、平成のアーティストの多くはもういないことを悟った。ジャニー喜多川氏も亡くなった。つまり、業界は必然的に変化に直面することになる。

令和がどんな時代になるのかは、ノスタルジーに浸るアーティストではなく、時代とともに歩むアーティストが舞台の前面に登場したことで見えてきた。それはまず、日本の音楽・芸能業界が一貫して敬遠してきた「インターネットで自らの知名度を上げること」を恐れないミュージシャンたちである。

新時代の新たなポップスターとなったのが、シンガーソングライターのあいみょんだ。これまでの女性アーティストのポップ音楽は西野カナが歌う「カワイイ」曲が主流だったが、あいみょんの登場で、露骨なコマーシャル文句を排し、個人的な経験と大胆な自己表現に基づいた、より深く叙情的な曲に流れが変わった。

同じくデジタル・パイオニアとして成功しているJ-ROCKの代表格がKing Gnuや髭男dismだ。例えば、髭男dismの曲『Pretender』は2019年にYoutubeのビデオクリップ再生回数で1位を獲得しただけでなく、各種ストリーミングサービスでも長い間1位の座にあった。

上記のアーティストたちは全員、従来型のメディア、民放テレビ局などにも出演しており、誰もが慣れ親しんだJ-POPやJ-ROCKから大きく外れることのない音楽を作っている。しかし、彼らは自分自身を通じて、令和時代の成功への道が新たなプロモーションツールの利用と、音楽プロダクトの制作における更なる創作性の発揮にあることを示している。

こうしたトレンドを背景に、音楽だけでなく、自社のアーティストのアルバムのカバーでさえもインターネット上に公開することに対して厳格なジャニーズ事務所が徐々に厳しいルールを変えつつあることは注目に値する。その代表的な例が超人気グループ「嵐」で、ジャニー喜多川氏の死後、彼らはシングルをストリーミングサービスで公開したり、Youtubeにチャンネルを開設したり、Netflixと組んでドキュメンタリー映画を制作したりしている。

現在、特に人気を集め始めているもうひとつのカテゴリーが、ボーカロイドコミュニティ出身のミュージシャンたちである。現在、日本の音楽業界で引っ張りだこのアーティスト、米津玄師はかつて、初音ミクで大きな知名度を得たプログラム、ボーカロイドの音楽を制作することから活動を始めた。ボーカロイド世代の特徴は、作曲からクリップのビジュアル構成まですべてを自分で制作し、古典的なJ-POPに代わる独自の音楽を作るクリエイティブな人が多いことである。

令和の到来とともに新時代に捧げる曲が数多く誕生したとすれば、2020年には新型コロナの拡大を受けて、多くのアーティストが新たな現実をテーマにした曲を歌った。友だちに会いたいという人々の切なる願いの言葉から始まる4s4kiとRinahamuの『Nexus』も、日本人の女性ラッパー5人のコラボ作品『Zoom』もそうだ。

もちろん、人々を楽しませるだけでなく、ウイルスの危険性に関する知識を高めることを目的とした曲も誕生した。なかでも最も人気なのがピコ太郎の曲だ。安倍晋三首相までもが星野源の音楽動画を利用してこの問題を発信しようとした。(人々の反応を見る限り、決して成功したとは言えないが・・・)

2020年には、ついにTikTokが日本の生活に目に見えて浸透し始め、このSNSにぴったりなダイナミックな動きのある曲が需要を得た。例えば、昨年1月に発売されたShuta Sueyoshiの『Hack』は当初それほど人気が出なかったにもかかわらず、今年春にはTikTokerの創意工夫によって大ヒット曲となった。

もうひとつのトレンドとなり得るのが、インターネットに音楽をアップするというコミュニケーションだけでなく、新たな手法を使ってオーディエンスとやりとりすることである。Youtubeの超人気曲で知られる中田敦彦は、5G技術からヨーロッパの歴史に至るまで、様々なトピックを議論するための個別のチャンネルも開設している。今後、同じように新しい形式でファンとのコミュニケーションを試そうとするミュージシャンが増える可能性はある。

また、新型コロナで慣れ親しんだ生活リズムが止まってしまったことにより、人々の心はより穏やかな音楽に向かうようになった。1987年リリースの盛岡夕美子のアンビエントのアルバム『余韻(Resonance)』はこの不安な時代にかつてないほどぴったりで、このほど復刻された。

日本の音楽産業のこの先は?

音楽・芸能業界は徐々にインターネットを活用し始めているものの、他国に比べると大きく遅れをとっている。日本は音楽コンテンツ制作で今よりも輸出指向型になれるのだろうか?松谷氏は言う。

「ネット活用は、グローバルマーケットに進出することを意味しますが、現状では非常に難しいと言えます。なぜなら、これまでネット活用しなかった結果、音楽の質が非常にドメスティックだからです。ここからBTSのようなアーティストを育てるのは、非常に時間がかかるでしょう。

海外に向けて何かやろうとする機運はなくはないのですが、各プロダクションのトップは音楽産業最盛期の90年代後半のイメージからなかなか脱却できず、壁にぶつかっています。

大きな可能性として挙げられるのは、韓国の音楽プロダクションが日本で展開することです。すでにJO1とNiziUが活動していますが、これらは日本人ばかりで構成された男女それぞれのグループで、K-POP日本版というべきものです。これらは海外展開も意識したもので、おそらくこのように韓国の力を借りることがもっとも現実的だと思います。」

同時に松谷氏は、アーティストがエージェントから独立するケースが増え、これが日本の音楽産業に好影響になると信じている。

「今後も独立していく人たちは増えていくと考えられます。ただし芸能プロダクション主導のアイドル文化なども根強くあり、同時に主要芸能プロダクションは日本の地上波テレビと太いつながりを持っています。よって、今後は地上波テレビの力が衰えた瞬間に大きく動く可能性は出てくると思います。また、芸能人の独立・移籍の自由度の高まりは自由主義社会においては当然のことですので、これまでその自由度が低かったことのほうが問題だと考えています。よって、ポジティブなことだと捉えています。」

しかし、松谷氏はこのような競争の中でもテレビの音楽番組の質が改善するとは思えないと考える。おそらく、テレビのポップアイドルもオーディエンスとの新たな関わり方を習得する必要があるだろう。

「そもそも日本では、もう20年以上前からテレビでは音楽番組はあまり盛んではありませんし、強い重要性も持っていません。プライムタイムのレギュラー音楽番組はひとつしかないほどです(テレビ朝日『ミュージックステーション』)。よって、テレビと音楽がそんなに強い結びつきを持っていない状況にあります。これは、ひとびとの志向が80年代後半から多様化したからです。

AKB48も、音楽がその人気を支えていたわけではありません。握手会であり、本人のパーソナリティです。ですから、彼女たちはテレビ番組には多く出ますが、それはバラエティ番組が中心です。

ジャニーズ事務所もそれとほぼ同様で、握手会はありませんが、ドラマやバラエティ番組でその人気を維持します。

日本のアイドルは音楽を中心としているわけではなく、バラエティ番組やドラマ・映画で活躍します。音楽番組はそのひとつでしかなく、プライオリティは低いのが実状です。

ただ、地上波テレビの存在感は年々落ちていますので、これからはインターネットを軸にどのようにアイドル活動をするかがポイントとなるのは間違いないと思います。」

この記事に示された見解はスプートニク編集部のものとは必ずしも一致していません。

タグ
音楽, スキャンダル, エンタメ, 日本
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