日本の新型砕氷船は学術のためではなく、地政学的に必要なもの

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日本の新型砕氷船は学術のためではなく、地政学的に必要なもの - Sputnik 日本, 1920, 21.04.2021
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日本の海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、2021年に新型砕氷船の建造を開始する。これは北極海の観測を目的としたもので、総建造費は335億円と発表されている。主要な国々が北極海へのますます高い関心を持つようになり、地域における影響力に対する国際的な競争が予想される中、砕氷船によって得られるデータは、高い割合で、学術研究ではなく、潜水艦にとって有益なものとなる可能性がある。

砕氷船を建造、保有する理由と目的

もし日本が北極海航路の開発を計画しているとしても、そのために砕氷船を建造する必要性は特段ない。というのも、ロシア北極海航路局とロシア国営の原子力砕氷船運行会社であるアトムフロート社が氷上の航行は保証しているからである。現在、ロシアでは、通年運航に向けた準備が進められているほか、定期航行の計画も進んでいる。これを目的に、天候条件と海氷の状態をモニタリングするシステム(人工衛星アルクチカM)も作られており、すでに最初の衛星が2021年2月に打ち上げられた。また2024年までに、北極海航路で30万平方キロメートルに及ぶ海底の水路測量も計画されている。北極海航路はすでに完成しており、2020年には総容量4,320万トン、479隻の船が航行している。必要なのはアイスクラス級の船で、それさえあれば北極海航路は利用できるのである。

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海氷の研究は気候変動の調査のために行われている。これはきわめて重要な学術的課題である。しかし、海氷のデータは国際プログラムの枠内での衛星からも得ることができ、またロシアとの研究協力を通じても入手することができる。

ほぼすべての平和目的の北極調査プログラムは、日本の研究者が砕氷船を持たずとも実施することができる。数百億円もの建造費、維持費を費やさなくても、必要なデータは、ロシアまたはその他の北極圏国との協力により得ることができるのである。

こうしたことから、日本の砕氷船建造計画は学術的なものというよりは、軍事的あるいは地政学的な目的を持つものだと予測することができる。北極海での日本の艦船の行動を維持するのに、独自の砕氷船はまったく必要ないからである。

海上自衛隊の利益

新型砕氷船による研究プログラムが軍事的な性格を帯びたものであることは明らかである。海氷の厚さ、水温、塩分濃度、深さ、海流などのデータは、日本の潜水艦が北極海を航行するのに必要不可欠なものだ。

ディーゼル電気機関潜水艦は通常、氷海上を航行しない。バッテリーの電力では12時間から16時間しか潜航できないからである。しかし、日本の海上自衛隊の潜水艦にはディーゼルエンジンに加え、大気に依存しないスターリングエンジンが搭載されている。複数のデータによると、このタイプの潜水艦は、最大で14日間、潜航することができる。そうりゅう型潜水艦の水中速度は20ノット(時速37キロ)で、1日で480マイル、14日間だと6720マイル航行することが可能である。つまり、日本の潜水艦は北極海航路の全行程、ムールマンスクからベーリング海峡まで(およそ2800マイル)を往復することができるのである。

しかしながら、潜水艦には通信が必要である。ディーゼルからのバッテリーを充電する必要に迫られた場合、潜水艦は氷を割って浮上しなければならない。ロシアの原子力潜水艦(プロジェクト941)は厚さ最大3メートルの氷を割ることができる。しかし、一般的な潜水艦が普通、割ることができる氷の厚さは60センチから80センチである。

日本の新型潜水艦の砕氷能力は1.2メートル。つまり、1.2メートルまでの氷であれば、日本の潜水艦は航行でき、また浮上できるということである。砕氷船は浮上するため氷を突き破ることができ、また操縦士は浮上するための場所を選ぶためのデータを収集することができる。

水温と塩分濃度に関する情報は非常に重要である。海中での音の伝わり方は、冷たい塩水層と温かい淡水層の境目で変わり、ソナーや水中音響ステーションの働きにも影響を及ぼす。追跡を逃れようとするとき、潜水艦は冷たい塩水層に移動する。この方法は第二次世界大戦時にも用いられていたものである。

また塩水層は「水状の土壌」として知られている。つまり潜水艦は塩水層を海底のようにして停止し、エンジンや機械を切り、戦闘能力をそのまま維持しながら、水中音響ステーションに検知されずにいることができるのである。

多くの川の淡水が流れ込む北極海では塩分濃度による水の密度が変わりやすく、潜水艦の水中での制御に影響を与える。潜水艦のバラストはより密度の高い海水を想定したものであるため、水中の潜水艦が淡水層に入ると、潜水艦は急激に潜航深度を下げる。

また潜水艦にとって海底の地形に関する情報は、特に浅い水域ではきわめて重要である。また海底の特徴は、潜水艦が浮上できないとき、また位置を確認できないとき、方向を特定するのにも使われる。

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氷の厚み、その変化、温度、塩分濃度、海底の地形、海中の水流など、こうしたすべてのデータは、北極海を航行する日本の潜水艦操縦士の水路誌およびハンドブックに掲載されるべきものである。こうした情報は軍事的な意味を持つ特殊なものであり、ロシアやその他の北極圏国が簡単に提供できるものではない。つまり、それを収集するためには北極海を航行する日本の潜水艦が必要なのである。

北極海航路の意義

ロシア海軍は、近い将来、軍事行動が起こることが想定されないような場所を含め、さまざまな海の情報を収集している。なぜなら、遠く離れた海域に艦船や潜水艦を派遣する必要が出てくるような事態が起こる可能性もあるからだ。常に最新の航行データを有しておく必要があるのである。

また北極海航路の意義が増すにつれて、新たな状況が生まれる可能性もある。

北極海航路はきわめて重要な航路となりつつあり、軍事的、経済的な意義も高まりつつある。北極海航路を通って、中国向けの液化天然ガス(2019年には16便、およそ100万トン)、石炭、鉄鉱石の輸送も始まっており、また2020年には、中国籍の船が、北極海航路を利用して、16万トンのトランジット輸送を行った。加えて、北極では、石油、天然ガスの採掘、液化天然ガスの製造が行われているほか、石炭採掘の大規模プロジェクトも開始されている。北極は中国にエネルギー資源や天然資源を供給する可能性を十分に秘めているのである。

北極争奪戦はまだ未来のことであろう。この地域での権利獲得の争いがどのような形で行われるのかいまの時点で予測することはできない。しかし、日本がこの地域での勢力図の描き変え、そして北極海の水路誌およびハンドブックの内容変更に関心を抱いていることはすでに明白である。

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