スプートニク日本
バレエ、金髪女性、ウォッカ・・・
若手日本人ダンサーのロシア地方都市での暮らし
バレエの故郷であるロシアのバレエ学校には、毎年、プロのダンサーになって舞台に立つことを目指す数十人の若者が入学する。スプートニクは、夢を実現するためにロシアにやってきた日本の若者4人に話を聞いた。
『ロシア寒くない?ウォッカ飲みなよ?』
大川航矢さんは幼い頃、姉に続いてバレエを始めた。
「バレエを始めたのは生まれ故郷の青森で2歳の頃でした。姉が習っていたバレエ教室に送り迎えのためについていき、そこで母親が僕に「やってみたい?」と聞いたところ、「うん。」と答えたそうです。2歳でしたから当時の記憶はありませんが、母がそう教えてくれました。」15歳の時、モスクワ国立舞踊アカデミー(通称ボリショイバレエアカデミー)で学ぶため、ロシアに渡り、そこで4年間学んだ。当時、モバイル通信もスマートフォンも今ほどは発展しておらず、家族と話すためにはインターネット問題を乗り越えなくてはならなかった。その後、大川さんはロシアの複数の都市で暮らした。大川さんは言う。

「モスクワ、タタールスタン共和国のカザン、シベリアのノヴォシビルスクに住んで、他の街にも行きましたが、同じ国とは思えないほど住んでいる人達や街の雰囲気が違います。ロシアは様々な文化や民族が混在するとてもユニークな国だと説明すると思います。文化を尊重する国なので、差別もあまり感じません。少なくとも僕はほとんど無いです。ロシアの東の方へ行くと、アジア系の民族が住んでいますしね。日本の文化に興味を持つ人達もたくさんいます。」大川さんは今、ヴォシビルスク歌劇場で舞台に立っている。
「バレエはロシアでは文化であり、国の宝です。なので、ロシアの方はそれを誇りにして、より深く理解していると思います。オペラ劇場がそれぞれの街の中心地にあり、その街のシンボルとして扱われていることからも分かります。劇場で働くバレエダンサーへの尊敬の念もあります。バレエダンサーと言うと、街の人が優しくしてくれるので助かります。
面白い話で言えば、僕達ダンサーは毎年健康診断を義務付けられているのですが、劇場からというだけで優先して通してくれます。他の人達と一緒に並ばずに済むんです。そして信用されているので、麻薬検査なども対して調べられることもなく、お医者さんと世間話をして終わります。『次、何の公演をやるの?』とか『ロシア寒くない?ウォッカ飲みなよ?』とか言う話をされて検査が終わります。」

このほか、大川さんがロシアで舞台に立ち続けるのには、極めて個人的な動機もある。
「何よりもロシアバレエが好きだからです。ロシアバレエが1番美しく華やかで、観ていて気持ちが良いと思っています。今上演されているバレエ作品の原点はほとんどがロシアからですし、歴史を作ってきたダンサーもロシアの人が多いです。その古典に対する伝統がきちんと受け継がれているからこそ、踊りが端麗ですね。でも僕はロシアにいるからそう信じて踊っているだけで、他の国にもそれぞれ良さがあり、皆ダンサーは僕と同じ様な思いで、自分のするバレエに誇りを持ってやっていると思います。」
「アジア人の外見が不利になること」
宮庄眞記子さんは10歳の時にクラシックバレエを始めた。「当時、仲の良かった女の子達と一緒に創作ダンスを習っていたのですが、『せっかく習うのであればクラシックバレエにしたらどうか?』という父の一言でバレエの世界に入りました。」

宮庄眞記子
16歳でロシアの都市ペルミに渡り、バレエ学校で3年間学んだ。卒業後は別のロシアの都市イジェフスク(フィギュアスケートのオリンピック金メダリスト、アリーナ・ザギトワの出身地)のチャイコフスキー記念オペラ・バレエ劇場でさらに6年間ソリストを務めた。2017年からはウファのバシキール国立オペラ・バレエ劇場で主席アーティストを務めている。コロナ禍で日本に一時帰国することになったが、今は職場に戻るため、ビザ取得を待っているところだ。
お金とダンサーの社会ステータスについて
大川航矢

大川さんによると、ダンサーがロシアで踊るのには多くの理由があるという。そのひとつが、この国ではバレエが、他の国にありがちな副業ではなく、本職として成り立つという経済的保護と社会的ヒエラルキーだ。「また政治的な結びつきがあるのもロシアのバレエの特徴です。芸術にお金を使うことで、ロシアという国の力を見せるという役割がバレエに求められています。国立劇場は必然的に層が厚くなり、総裁を始め、いろんな部署があり、必ず政治家や文化省の人達と結びついています。そして僕達ダンサーは国家公務員でもあります。トップのダンサーにはロシア人民芸術家という称号が与えられ、そうなると他のダンサーとは扱いが全く違ってきます。一流芸能人のようになって、いろんな分野の人と交流を持ったり、中には政治家になる人もいます。」

宮庄眞記子

宮庄さんによると、ロシアと日本では、ダンサーの地位だけでなく、バレエそのものに対する考え方が違うという。「ロシアではバレエは劇場へ足を運び観て、聴いて、感じて楽しむ芸術として親しまれていますが、日本では習い事としての位置付けが強いと感じます。見るとしても幕物やコンサートを劇場でみるのではなく映画やテレビの題材として目にする人が殆どではないのでしょうか。また、日本ではバレエダンサーの収入だけでは生計を立てられないと聞いていたので日本で踊る選択肢はありませんでした。」


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福田昂平さんは、両親と一緒にロンドンに住んでいた時にバレエに惚れた。「私は10歳の頃にロンドンに住んでいましたが、英語がわからないまま現地の学校に通った為に友達も出来ずに孤立してしまい、辛い日々を過ごしていました。そんな私のために両親が映画やジャズ、ミュージカルなどにたくさん連れて行ってくれて、ミュージカルのCATSにとても強く惹かれました。CATSになる為にはバレエが出来ないとダメなんじゃないかという事で、たまたまロンドンのコベントガーデンにツアーに来ていたマリインスキーバレエ(当時はキーロフバレエ)の白鳥の湖を見て、バレエダンサーになる事に決めてすぐにバレエを習い始めました。」

2016年からはノボシビルスクに住み、ロシア国立ノボシビルスク劇場に所属している。福田さんは年間220回以上、舞台に立つ。日本では考えられない回数だが、ロシアでは至って普通のことだ。日本で所属していたバレエ団の公演回数は年間60公演だった。
ステレオタイプについて
大川航矢

ロシア人のお酒好きは事実の部分も多いが、それでも大川航矢さんは、信じてはいけないステレオタイプもあると言う。「恥ずかしがり屋なところでしょうか。ロシアの人々は無愛想に見える時もありますが、シャイなだけなのだと思います。初対面の人に対して自分からは心を開かないところは似ているかも。フレンドリーとは真逆で奥手なイメージがあります。あと博識の人が多いところ。皆、何かに興味を持って勉強をするのが好きだと思います。歴史も好きで、話していると「○○年にあの戦争があったけどー」と普通にするので、驚きます。」

宮庄眞記子

ロシアに来るまでは、ロシア人は気難しい、冷たい、よくお酒を飲む人という一般的なイメージを抱いていたという宮庄さん。「気難しい方やよくお酒を飲む方はおられましたが、13年住んでみるとロシア人のイメージはガラリと変わりました。とても温かく、世話好きで、人懐っこい、女性は美意識が高く、男性は女性への気遣いが素晴らしいと思います。」いまは次のように考えているという。「ロシアは芸術も、観光も、食事も楽しめますが、何より人と人との繋がりを大切にする文化をもった素敵な国だと伝えたいです。上下関係を大切にするところや、親切な人が多く日本の田舎を思い出すこともありました。」

福田昂平

「ステレオタイプというとロシア人は怖い、ロシアは寒い、みんなウォッカを飲んでいる、ロシア人は美人が多い、あたりでしょうか…。ロシア人は怖いという点は全く違うと思います。むしろとても優しい印象を受けます。骨格的に目と眉毛が近く、更に文化的背景の違いから初めから相手の下手に出るような事はしないので、なんとなく怖い、印象はありましたが、話せるようになればみんなフレンドリーです。また意見をはっきりと主張するのと声が比較的大きいので日本人からすると怒っているように見えるかも知れませんが、彼らにとってはとても普通のことで、むしろ意見を言わないと、何を考えてるか分からないとイライラさせてしまいます。喧嘩ではなく意見の主張の仕合が多いので、若干ピリッとしても、次の日には元通り、という光景を何度も目にしてきました。ロシア人は優しいです。」

荒木元也

「まだロシアに来たことのない人はきっと「寒い」「金髪」「ウォッカ」などの単語が頭に出てくると思いますが、実際は違うところがたくさんあります。

ロシアにも夏がしっかりとあり、今だと日本よりも気温が高い日もあります。しかし家にはクーラーがないのでとても暑いです。

金髪の人もいますが、僕の知り合いでは染めて金髪にしてる人がほとんどで、地毛が金髪の人は少ないと思います。そしてアジア系の人たちもたくさんいます。最初の頃は日本人や中国人がたくさん来てるのだと思っていました。

ウォッカは飲みますが他のお酒の方がよく飲んでいると思います。劇場の打ち上げなどでもウォッカ、シャンパン、ウィスキー、コニャックなどが用意されますが一番最後まで残っているのはウォッカです。」


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荒木元也さんは8歳の時、母親の勧めでバレエを始めたという。「バレエをやると体も柔らかくなり怪我もしにくくなるという理由でした。実際それでも怪我はよくしていました。」小学生の頃からコンクールに出場し、中学2年生の時にはモスクワ国立ダンスアカデミー(ボリショイ舞踊学校)に迎えられた。当初、留学は考えていなかった本谷さんだが、入学を認められたとき、こんな滅多にないチャンスを逃すことはできないと思ったそうだ。
荒木元也さんは「もし留学先が他の国だったら就職先も全然違ったかもしれません」と言うものの、教育を受けたところで働けることを喜んでいる。
ロシアのカレリア共和国音楽劇場のソリストになって、もう6年になる。荒木元也さんは「くるみ割り人形」「ドンキホーテ」「海賊」「白鳥の湖」「ジゼル」「リーズの結婚」「ワルプルギスの夜」で主役を演じた。
露日の違いと共通点
福田昂平

「ロシアが寒いという事については全く異論はありません。ウォッカは思っているより皆さん飲んでいませんが、やはりお祝い事になるとウォッカが多いのでイメージは間違っていないかもしれません。そしてロシア女性は確かに皆さんモデルさんかアイドルの様に美しいです。

あまりロシアは日本に正しく知られていませんが、すごく近代的です。勿論広大なので大自然も魅力的ですし、人が優しい国だと思います。そしてなにより踊り、音楽、建築等の芸術は素晴らしい国です。共通点は宴会事が好きな事でしょうか。あとは両国とも伝統ある国ですので、古い言い伝えやことわざを大切にしている部分があると思います。先人達への畏敬の念や尊敬する心は両国とも持っている部分だと思います。」

荒木元也

「あと日本では誕生日の人にみんながお祝いをしますが、ロシアでは誕生日の人が周りの人におもてなしをします。劇場での新入りの人たちのお祝いもその人たちが準備します。

そしてこの間、僕も誕生日だったのでいくつかのお酒とおつまみを買って劇場の男の子を呼んで小さい飲み会を開きました。もちろんウォッカは買わずに。」