フクシマ

「原発事故は特定の場所で起こるものだが、原発の被害はどこででも起こる」

10年前に発生した福島第一原子力発電所は制御不能な原子力災害を前に、人類が無力であることを物語る悲しい象徴となった。福島第一原発での事故は国際原子力事象評価尺度「INES」で、もっとも深刻な事故であるレベル7に区分された。事故は大規模な社会経済および環境への影響を引き起こし、日本は依然としてその処理に追われている。また世界中で、原子力発電所の安全を見直す動きも出てきている。


事故からの10年で、被災地がどれほど復興したのか、また今後、どのような問題を解決すべきなのか、「スプートニク」が取材した。

地震

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震は、19世紀末以降に地球上で観測された最も大きな揺れによって引き起こされた地震の1つ(マグニチュード9.0)。

津波

太平洋深部での地殻変動によって引き起こされた津波の高さは38メートルに達し、数キロの範囲に押し寄せ、数千人の命を奪った。

犠牲者

死者1万5896人、負傷者6157人、行方不明者2536人。地震によるおおよその被害額は約3090億ドル(約33兆5200億円)。

3月4日、東京電力福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は、1号機から6号機までのすべての原子炉の使用済み燃料プールの燃料取り出し作業は2031年に完了する計画であることを明らかにした。また小野氏は、この数年で、福島第1原発内の放射能汚染水の1日あたりの発生量が低減し、2014年5月に540立方メートルだったのが、2020年には140立方メートルとなり、ほぼ4分の1にまで減少したと述べている。

それより前、日本が原子力発電所の汚染水を、トリチウム以外の多核種を除去した上で太平洋に放出する計画であることが明らかになった。日本の専門家らは、こうした措置が必要とされる理由について、2022年には汚染水のタンクがいっぱいになるためだと説明している。これに関連し、専門家らは汚染水が海水の中で1:40の割合で薄められれば、トリチウムの放射線量は危険なものではなくなるとの見解を示している。
セルゲイ・フロリャ氏
放射性廃棄物管理企業「RosRAO」の専門家
日本政府は事故の処理に莫大な資源を投じています。わたしは、この分野におけるプロとして、現在、海岸部において放射線による危険はないと断言します。原子力発電所の事故によって発生した水も、世界保健機関(WHO)の法基準では、放射性を含んでいないとされています。WHOは海洋に放出してもよい放射性同位体の数を定め、その水が人間に及ぼす生物学的影響について基準を定めています。福島第一原発の水は、トリチウムの含有量が現在より1万倍多くならない限り、放射性廃棄物とは認められません。しかも、放射性量の高い水が10億リットル放出されたとしても、それは“大海の一滴”に過ぎず、環境にとって有害な成分は瞬時に大洋の中で広がり、有害物質の許容レベルよりも低くなります。
サーファーの鈴木康二さん。福島第一原発から30キロ離れた海岸にて
写真:AFP/Charly Triballeau

原子力発電所の汚染水をタンクから海に放出することは、もっとも安全で経済効果のある方法であると認められてはいるものの、日本政府のこうした解決策にはさまざまな方面から批判を浴びている。とりわけ、日本の漁業協同組合(JF)は、汚染水の海洋放出には「断固反対」の立場を表している。韓国もこの件に関して真っ先に最初に懸念を表し、日本に対し、計画をより詳細に説明するよう求めている。また中国も、日本に対し、時宜良く、透明な形で情報を開示し、近隣諸国との協議を基に決定を下すよう求めている。

福島県相馬市の水産加工施設で、船から魚を下す漁業関係者たち、2019年
写真:AP/Jae C. Hong
日本は事故現場の状況を評価するために国際的な専門家チームが作業を行うことをとくには歓迎していません。福島第一原子力発電所は米国の最大手ジェネラル・エレクトリック社によって設計されたのですが、事故では、原子炉の冷却に必要な電力が喪失したことが明らかになっています。日本の原発に、他の国の専門家を招くことは、単に米国にとって不利であるという可能性も除外できません。外国の専門家らが原発の不備を指摘した場合、原子力分野における米国の技術の脆さを露呈することになり、ジェネラル・エレクトリック社の威信が失墜する可能性があるからです。

ロシア連邦天然資源省付属社会評議会のメンバーで、社会監督環境実験室の代表を務める
セルゲイ・グリバレフ氏

日本政府は、2030年までに、日本の発電電力量のうち原子力発電が占める割合を20〜22%にする計画である。これは、20から30の原子炉が稼働することを意味する。一方、NHKが福島原発事故から10年を迎えるにあたり実施した世論調査によれば、日本で今後、原子力発電所の数を増やすべきだと答えた人は3%、現状を維持するべきだと答えた人は29%、原子力発電所の数を減らすべきだと答えた人は50%、原子力発電所をすべて廃止するべきだと答えた人は17%であった。

ウラジーミル・チュプロフ氏
グリーンピースロシア支部エネルギープログラム代表
新たな原子炉の許容可能なリスクのレベルは従来のものの250分の1だと言われていますが、リスクゼロというのは基本的にあり得ません。故障、人為ミス以外にも、2011年の3月に日本で発生したような深刻な事故を招く非常に多くの外的要因が存在します。地震、津波、テロ、また航空機、ドローン、彗星の落下、水上浮揚型原発が潜水艦や氷山と衝突したり、海賊からの攻撃を受ける可能性も除外できません。そしてどの企業も、国際原子力機関(IAEA)のどんな専門家も100%の安全を保証することはできないのです。しかも、数十年後には、風力、太陽光など再生可能なエネルギー源とする電力は、原子力発電よりもはるかに安くなるのです。

福島第一原発では現在も廃炉作業が続けられているが、完全な廃炉には40年ほどかかる。専門家らは、損傷を受けた原子炉を閉鎖し、環境汚染の被害を抑えることには成功したが、状況が深刻化する脅威は消えてはいない。


NHKが実施した世論調査によれば、少なくとも65%の日本人が、福島の被災地における放射能の除染作業には進展がないと考えている。また回答者の約3分の1が、地震と津波による被害を受けた福島各地の復興作業にも進展は見られないと答えている。

オブニンスク原子力工学研究所の
ヴィクトル・ムロゴフ教授
“原発事故は特定の場所で起きるが、原発による被害はどこででも起こる”という表現があります。フクシマからの教訓について言えば、事故の原因は不完全な設計と人為ミスです。しかし、だからと言って、世界のおよそ100カ国が50%以上のエネルギー資源を輸入し、およそ40カ国が独自のエネルギー資源を持たないことを考えれば、これが原子力の使用をやめるという決断を下す理由にはなりません。一方で、原子力は、化石燃料に代わるものとなるという自らの使命を果たせずにいます。ほとんどの原子力発電所は加圧水型原子炉を基礎としています。つまり、高温高圧の水により、蒸気発生器で蒸気を発生させて、電力を得るのですが、その結果、原子力発電の効率は30%で、このレベルは1960年代から変わっていません。これも解決すべき問題の一つです」。
スプートニク日本
写真:Depositphotos/IraGirichBO, AFP, AP
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