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    閑話休題:マスメディアや政治家のバカさ加減

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    塩原俊彦
    筆者 塩原 俊彦
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    この「閑話休題」において、マスメディアや政治家、あるいは官僚のバカさ加減を糾弾してきた。今回もまた、彼らの愚かさを指摘したい。国会での「駆けつけ警護」をめぐる議論のバカさ加減にあきれるからである。

    ロシアを研究していると、日本のことを理解するのに役立つ。ソ連時代には、社会主義なるイデオロギーの研究が哲学的考察を深める役割も果たしてくれた。筆者が哲学に長く関心を寄せているのも「比較」することで学ぶ姿勢を貫いてきたからである。

    こんな筆者からみると、日本の政治家、マスコミ関係者、有識者と呼ばれる学者のような連中のバカさ加減が目に余る。世界中で起きている変化にあまりにも無関心なのである。

    なにが言いたいかというと、「民間軍事会社(Private Military Companies, PMC)への関心のなさが国防議論を歪めているという事実に気がつけ」ということだ。日本では、憲法第9条に絡んで、国防の問題が国家にかかわる一大事として当たり前のように受け取られている。しかし、世界をみれば、PMCが紛争地に出かけて安全保障にかかわる仕事を遂行していることがわかる。つまり、「国家=軍」といった旧来の常識にとらわれていたのでは、いまの国際政治の変化に対応できないのだ。

    筆者は現在、『ロシアの最新国防分析 (2016年版)』を執筆中であり、本稿の内容をより詳しく知りたい者は2017年春にKindle版で上梓するこの本をぜひとも読んでほしい。政治家、マスコミ関係者、国際政治学者は必読であると書いておこう。あまりにも無知なバカであると自負すれば、ともかくも学ぶしかないからだ。

    PMCの定義
    まずは、PMCの定義について簡単にみておきたい。たとえば、デボラス・アヴァントはその著書のなかで、民間安全保障会社(Private Security Companies, PSC)という言葉で、PMCとよく似た概念を記述している(Avant, Deborath D. (2005) The Market for Force: The Consequences of Privatizing Security, Cambridge University Press)。彼女は、PSCを「ロジスティクス、武器システムの作戦支援、訓練」のようなかつて軍人によってなされた仕事を行う会社であるとのべている(Avant, 2005, p. 1)。本稿でイメージするPMCは彼女のPSCに近い。PMCを使用するのは、PMCのほうがPSCよりも人口に膾炙していると思われるからにすぎない。あるいは、PMCとPSCを合わせたPrivate Military and Security Companies(PMSC)という言葉もある。アレクサンドラ・アンドリューらによって編集された本では、このPMSCをタイトルに使っている(Private Military and Security Companies: Ethics, Policies and Civil-Military Relations, Routledge (2008) edited by Alexandra, Andrew, Baker, Deane-Peter and Caparini, Marina.)。このPMSCも本稿では、PMCと同じと解釈して話を進めたい。

    米国のPMCを定義しようとすると、国務省と国務省国防機器取引管理部のライセンスに基づいて活動する、米国の会社ないし米国に登録された会社であるとみなすことができる(Частные военные компании и их роль в решении локальных конфликтов (2015) Центр политической информации)。興味深いのは、米国も英国もPMCをコントロールするのが対外政策を所管する省庁であることだ(Ведомости, Oct. 23, 2014)。スペインでは、労働省がPMCを所管しているという。あるいは、国防総省ないし中央情報局(CIA)活動合意をもつ会社とあることがPMCの必要条件とみる見方もある。これはいわば米国だけのPMCを狭義に定義したものであり、ここではそこまで限定的なPMCを想定しているわけではない。むしろ、主権国家の軍組織から分離された形で軍務関連業務にかかわる会社という程度の広義でPMCを考えたい。

    前述したアヴァントは、「1990年以降、国連によって行われたあらゆる多角的平和活動はPSCのプレゼンスを含んでいた」と指摘している(Avant, 2005, p. 7)。PSC=PMCとすれば、PMCの活動には20年以上の歴史があることになる。湾岸戦争以降、PMCの活用に着手した米国政府の場合、たとえば、1987年に設立されたMilitary Professional Resources Inc.(MPRI)というPMCにボスニア・ヘルツェゴビナ連邦軍の訓練を委託した。1995年ころのことだが、その後、2003年のイラク戦争などでもPMCは積極的に利用されるようになる。このように、PMCだけで多くの記述を要するが、ここではロシアのPMCに関連づけながら議論を進めたい。

    PMCの業務

    傭兵があくまで個人として国家に雇われるのに対して、PMCはあくまで法人として政府などと契約を締結するという特徴がある。その意味で、単なる傭兵ではなく、法人として民会の会社が戦争にかかわることになる点が新しい。

    PMCは自国外で活動するケースが一般的だ。国内を中心に業務を展開する民間警備会社とPMCとの区分や法律上の相違点を明瞭にしておかないと、国内で暴力装置を作動させて新たな脅威となりかねない。その場合、PMCと民間警備会社との目的を明示的に区別することが必要になると考えられている(http://www.pravda.ru/politics/militry/defence/20-09-2016/)。

    もちろん、PMCの業務範囲についても議論が必要だ。おそらく、PMCの主な業務としては、①ロジスティクス、②武器取引、③警護サービス、④戦闘サービス、⑤技術提供サービス、⑥訓練・再訓練--などが想定できる。とくに、問題になるのは戦闘サービスであり、国際法上、主権国家の軍隊に属さない人物は軍人とはみなされないから、PMCから派遣される者に対する国際法上の整備が必要になるだろう。

    PMCの契約先を規制することは可能だろうか。PMCが海外で活動する場合、PMCはその本社がある国の政府と契約し、その政府の意向で当該国にスタッフを派遣するだけなのか。その政府契約の窓口は外務省なのか、国防省なのか。PMCが当該国政府と直接、契約し、スタッフを派遣することは認められるのだろうか。その場合、PMCのある国の政府の意向を無視できるのだろうか。PMCはある企業や個人と契約を結んで、それに基づいて海外にスタッフを派遣できるのだろうか。その場合、当該国政府の意向やPMCのある国の方針を無視してもいいのだろうか。このように、PMCを法律上、明確に位置づけようとすると、さまざまの問題に直面することになる。

    こうした世界の趨勢を知っていれば、日本の自衛隊の業務についても上記のような業務ごとに、どこまで「アウトソーシング」が可能かを審議するのは当然であろう。そして、その有効性が認められれば、粛々と実施すればいい。「駆けつけ警護」は本当に自衛隊の仕事か。PMCに任せばいいだけのことか。諸外国政府のPMC利用を研究し、日本政府も活用できないか検討してみる必要があるだろう。

    軍事のビジネス化

    PMCは軍事関連活動の内容をつぶさに分別するなかで、その活動の一部を民間に委託することで軍事関連活動にかかる経費を削減するねらいがある。民間事業者からみれば、新たなビジネスが可能となり、利益が見込める。こうしていまやPMCとか、PSC(民間安全保障会社)とか、PMSC(民間軍事安全保障会社)とか呼ばれる会社が世界的に「暗躍」する時代に突入しているのだ。

    その意味で、トランプ新大統領の時代になると、戦争のビジネス化に拍車がかかる恐れが大と指摘しなければならない。現在、PMCとして活躍している具体的な企業をみると、つぎのような会社が有名だ。

    1. BlackWater Corporation Worldwide
    2. Control Risks
    3. DynCorp
    4. Erinys
    5. Executive Outcomes
    6. Global Strategies Group, formerly Global Risk Strategies
    7. Kroll
    8. Military Professional Resources Inc. (MPRI)
    9. Olive Group
    10. Sandline International
    11. Triple Canopy
    12. Vinnell

    ロシアにおける事実上のPMC

    「ロシアに現在、民間軍事会社(PMC)はあるか」と問われれば、「事実上は存在するが、法律上はない」と答えるのが正解だろう。ロシア政府は2000年10月、ロシア海軍の事実上のPMCとみなされていた、BRSなる会社の子会社と、沈没した原子力潜水艦クルスクの引き揚げ契約を締結した。ロシア軍が民営化された軍事産業に目を向けた最初の事例の一つと言われている。この会社は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の解体でも、ロシア政府と連携している。もちろん、いわゆる傭兵を雇って戦闘を行わせる動きについては、ロシア政府はチェチェン戦争でも利用していた。ロシア正規軍と傭兵との対立から、傭兵150人強が殺害される事件まで起きている。

    だが、PMCの位置づけが法的に不明確な状態がつづいてきた。「アルファ」という民営化された会社をPMCの一つとみなす見解もある。ただし、同社は主として民間警備会社であって、どこまで軍事活動に関与しているのかについては確認できない。ソ連崩壊後、KGB(ソ連国家保安委員会)や軍、警察官などが設立した民間警備会社のなかにおそらく軍事活動を請け負う会社も複数含まれていると思われるが、現状は判然としない。

    プーチン(当時、首相)は2012年4月、下院議員の質問に答える形で、ロシアでのPMC創設について「よく考えてみる必要がある」とのべたことがある(Ведомости, Oct. 23, 2014)。こうした背景もあって、2014年10月22日、「公正ロシア」の下院議員が「民間軍事警護会社法案」を下院に提出したが、法案は下院の国防委員会はこの法案を破棄した。同年12月、修正した法案が再び提出された。だが、同委員会が採択を再び邪魔した。

    PMC法案の制定失敗の背景には、PMCに対する強い警戒感があった。ソ連崩壊後の1990年代の混乱期に、満足できるだけの給与を得ていないアルメニア系の多くの将校が多額のカネを支払ってくれるいかなる組織とも契約するといった「事件」が起きたことをロシア国防省も連邦保安局も忘れていない。戦闘をも請け負うPMCができると、このPMCに多額の金を支払って、暴力による権力実現をかかる人物とPMCとの共謀が成立しかねないと怖れる人々がいるのだ。もちろん、事実上のPMCが存在する以上、政権側はこれを秘密裡に活用できるいまの状況に満足しているという事情もあった。

    ウクライナでのPMC

    筆者は拙著『ウクライナ・ゲート』において、ウクライナの戦闘地区でのPMC活用についてつぎのように書いたことがある。

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    「米国のAcademiという、イラク戦争やアフガニスタンで「活躍」したBlackwaterから改称した会社の約400人が新政権側にたって活動していると、ドイツの連邦諜報局がメルケル首相に報告したとされる。Blackwaterはさまざまなスキャンダルを経て2009年、XE Servicesという会社に改名し、2年後、再び改称したものだ(「ロシア新聞」2014年5月14日)。さらに、Greystone Limitedという会社から兵員が派遣され、ウクライナで戦闘にかかわっているという見方が根強くある(「ノーヴァヤ・ガゼータ」2014年7月2日)。さらに、筆者の友人で政治評論家、アレクセイ・ムーヒンによれば、ウクライナ西部の国境には、イラク、シリア、リビアで戦闘経験のある人々が傭兵として出番を待ち構えているという(「独立新聞」2014年7月2日)。2014年5月2日から6月29日までの間にドンバス地方での戦闘の死傷者数は3530人で、うち252人が外国人傭兵であったという情報もある(http://www.freetavrida.org/?p=3321)。その内訳は、ポーランドの民間軍事会社ASBSOthagoからの派遣者が61人、米国のGreystoneからの派遣者が40人、同じくAcademiからの派遣者が125人、バルト海沿岸の女性スナイパーが26人であった。別の情報では、ウクライナ政府側が反政府の「テロ掃討作戦」を始めてから3カ月間に、自らの陣営に258人の死者が出たほか、約900人が負傷した(「ロシア新聞」2014年7月17日)」
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    これを執筆した当時には知らなかったのだが、ロシア側も事実上のPMCをウクライナとの戦闘に活用している。「ヴァグネラ」という事実上のPMCがあり、ロシア人を雇って2015年2月、ドンバスでの戦闘に参加させたというのだ。さらに、シリアでも事実上のPMCが利用されている。ヴァグネラのほか、「スリャヴァンスキー・コールプス」という会社が人員をシリアに派遣している。一説には、2013年秋には、267人もの同社の関係者が石油施設などの警護のためにシリアに派遣されたという。

    PMC法の制定、当面見送り

    事実上のPMCがこれだけ「活躍」するようになると、ロシア軍そのものの活動にも影響をおよぼしかねない。その意味では、PMC法によってPMCを明確に法律で規定し、その業務範囲や契約内容などを定めることは決して悪いことではないように思える。

    だが、2016年6月現在、PMC法案の立法化は難しい状況にある(РБК-daily, Jun. 23, 2016)。なぜならプーチン政権は秘密裡に事実上のPMCを利用してきたこれまでの状況を変革する必要性を感じていないからである。PMC法が立法化されると、PMCの活動状況を監視したり議会に報告したりする必要が生まれ、PMCの活動実態が明るみに出される可能性がある。それは、事実上のPMCをウクライナやシリアでの戦闘に利用してきたプーチン政権にとって望ましいことではない。ゆえに、PMC法の制定は当面、難しいとみられている。

    ここで紹介した話はPMCのごく一端にすぎない。すでに日本でも、『戦争請負会社』(Singer, P. W., 山崎淳訳, 日本放送出版協会, 2004)、『民間軍事会社の内幕』(菅原出, ちくま文庫, 2010)、『民間軍事警備会社の戦略的意義: 米軍が追求する21世紀型軍隊』(佐野秀太郎, 芙蓉書房出版, 2015)といった本がある。関心のある方はぜひ読んでもらいたい。

    本当は、自衛隊そのものについても、緊急救助機能と軍事機能を区別し、もっと専門的な自衛能力を強化すべきであるという議論が成り立つはずなのに、日本ではこの問題について侃々諤々の議論がなされてきたとは思えない。さらに、自衛隊の業務を分解し、積極的なアウトソーシングをはかるべきではないかという議論もあまり耳にしない。

    トランプが大統領になれば、在日米軍基地に勤務する正規軍人の数を大幅に削減し、その多くの仕事をPMCに肩代わりさせて、米国政府のトータルコストを削減しようとするのではないか、という憶測が生じる。米政府の負担を大幅に減らしつつ、日本政府からの「思いやり予算」の増額を迫るという構図が想像される。日本政府はそもそも、米国が在日米軍基地でどの程度、PMCを活用してきたかを知っているだろうか。もちろん、知る由もないだろう。PMCの存在すら知らないのではないか。

    東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えて、海外のPMCは警備を名目に日本への本格的な進出をもくろんでいる。いわゆる「カジノ法案」が制定されれば、カジノの警備を名目にした外国のPMCの日本上陸もあるだろう。余談だが、カジノ法案の背後には、日本のパチンコ業界との癒着や闘争がある。テレビの解説者が語らない真実を吐露すれば、カジノ法案にもっとも反対しているのはパチンコ業界であり、そこには北朝鮮系の人々との闘争がある。筆者はその昔、朝日新聞の金融担当記者であったとき、パチンコ業界のカード化の動きを察知し、その背後に北朝鮮へのパチンコ業界資金の還流の動きを監視・抑止せんとする日本の治安維持機関の強い意志があることを同僚だった朝日新聞記者に教えてやったことがある。

    こうした事情を知っている筆者に言わせれば、カジノ法案に反対する理由はない。個人的に言えば、筆者は60年間の人生のなかで、10回ほどカジノに出向いた経験がある。とくに、ワルシャワのマリオットホテルのカジノでは、3回、カジノに入って、3回とも勝利した。このときの利益のおかげで、トータルでも損はしていない。いずれもルーレットによる勝利であったが、混乱期のワルシャワのカジノでの経験は、人間の本性を観察するうえでも勉強になった。「カジノは人間の社交場として、多くを教えてくれる大切な場である」と筆者は考えている。

    トランプの圧力

    カジノを自ら経営してきたトランプは、米国のカジノ警護に実績をもつPMCにも太いパイプをもっているから、日本へのPMC進出をカジノ解禁とともに猛烈にプッシュしてくるだろう、と筆者は想定している。それは、日本の警備会社にとって脅威となりうるはずだ。

    そうであるならば、いち早く、PMCの議論を俎上に載せて、より透明性の高いなかで自衛隊の再編をも考えることが必要となるだろう。

    要するに、政治家も官僚もマスコミ人も世界の潮流の変化にもっともっと敏感でなければならないとつくづく思う。

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