閑話休題:官僚支配の証拠

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日本の官僚制はもう1300年以上つづいている。拙著『官僚の世界史:腐敗の構造』では、日本の官僚制が「公私融合」であることを指摘しておいた。ここでは、官僚が法の上に立つ、官僚支配の現状を森友学園問題に絡めて論じてみよう。

「閑話休題:天下り官僚」において、文科省の組織ぐるみの国家公務員法違反が官僚支配の証拠であると論じたことがある。官僚支配の現実を認めたくない官僚はもちろん、その支配下にある政治家、御用学者、マスメディアはこぞって瑣末な「天下り」部分を取り上げるだけで、本筋である、官僚による「国法無視」の実態について論じていないことを批判した。

筆者に言わせれば、財務省による「森友学園事件」への対応も官僚支配の証拠を披歴していることになる。国会での質疑を丁寧に行うようにという安倍晋三首相の言葉をまったく無視して、頑なに隠蔽をはかろうとする財務省に対して、手をこまねくばかりの政治家という構図は、政治家よりも上に立つ財務官僚という現実をまさに映し出している。内規によって書類を廃棄したというのであれば、その内規そのものが公文書管理法違反であり、まさに組織ぐるみで法律を棄損していることになる。ここでも、官僚による「国法無視」が歴然となっているのだ。

ただし、これは官僚支配の現実を直視し、この問題について真正面から取り組もうとしてこなかった長年のつけが噴出しているだけのことである。

実は、日本の官僚支配の実態はときとして顕在化してきた。たとえば、『週刊朝日』(2012年7月13日号)において、大武健一郎元国税庁長官の脱税疑惑事件が報じられたことがある。妻が告発しただけに、信憑性はきわめて高いと思われる。国税庁という徴税機関のトップが平然と脱税に手を染めていた事実を知れば、国民は税金などばかばかしくて支払わなくなるだろう。その意味で、この事件は国の根幹を揺るがす重大事件であった。しかし、他のマスメディアはこの報道を無視した。財務省が怖いのである。財務官僚の脱法行為(脱税)が日常的に行われている真実を隠したかったのだ。筆者の知るかぎり、国会でもこの問題はほとんど無視されたのではないか。まさに、財務官僚が支配する国、日本を象徴する出来事であったと言える。

この事件は、財務省が絶対的とも言える権力を握っており、国家にとって不利益になる情報を露骨に遮断することさえできることを示したことになる。だが、この財務省による支配を打破すべく努力してきたのが安倍晋三その人であったことは実に皮肉な事実であると指摘しなければならない。

安倍と財務省幹部との間に消費税引き上げ延期をめぐって軋轢があったことはよく知られている。その財務省は安倍との関係の過度の悪化を避けるためにも、安倍との関係に細心の配慮をしてきた。そこに、森友学園事件での「忖度」が生じたと考えるのが普通であろう。あるいは、安倍昭恵による「圧力」があったと推測される。

問題は、森友学園事件が明るみに出て以降、安倍が感情的な発言を国会の場で行い、その発言が事態の収拾を困難にしてしまったところにある。自分に非がないのであれば、事実を捻じ曲げることなく明らかにして、財務官僚の忖度の誤りと責任の所在を明確にし、再発防止策を講じればいいだけの話であった。ところが、感情的になった安倍は事実を捻じ曲げる方向に舵を切ってしまった。その結果、対立してきた財務官僚を守らざるをえないはめに陥っている。

1300年以上つづく日本の官僚制の見直しをはかりたいのであれば、安倍は感情的になってしまった自らの発言を撤回して謝罪し、返す刀で財務官僚の忖度の過ちを自ら糾す方向に改めるべきであろう。そうすることが、官僚支配の実態を少しは改善することにつながる。このまま、財務官僚をかばいつづければ、結局、森友学園事件をうやむやにさせるだけでなく、財務官僚の支配を正当化することにつながってしまう。それは、官僚支配の国、日本の悪弊をさらに数十年、いや数百年も長引かせることになってしまう。

大臣命令を発出せよ

政治家が官僚から権限を奪い、政治家主導の政治を実現したいのであれば、安倍は財務大臣である麻生太郎に国家行政組織法に基づく大臣命令を出させて、財務省にある森友学園関連の資料をすべて提出させるべきであろう。それでも、財務省の瑕疵が見つからなければ、大臣命令で関係者全員に第三者からの聴取に応じさせればいい。必ずや、財務省の「忖度」の中身が明らかになるはずだ。

麻生が命令を出さないのであれば、解任すればいいだけの話だ。財務省が大臣命令に従わず、資料を出さなければ、財務省理財局長の現職および元職、近畿財務局長の現職および元職ら全員を馘首すればいい。法律に則って、粛々と財務官僚の「嘘」を暴けばいい。

おりしも、文科省と同じような国家公務員法違反の有無の調査が進んでいる。その結果の公表を急ぎ、各省でも同じようなことが行われてきた事実をすみやかに公表すればいい。「国法無視」の官僚の実態を糾弾し、官僚との全面対決も辞さない姿勢をとれば、安倍の政治家としての面目は保たれるに違いない。それどころか、官僚支配に立ち向かった政治家として、かれの名は永遠に記憶されるだろう。

官僚支配を打破するためには、拙著『民意と政治の断絶はなぜ起きた』で指摘したような改革を行うことが必要だ。その方法については、本書を読めば書いてある。ゆえに、あとはやる気だけの話だ。森友学園事件を契機に、官僚支配との攻防に打って出れば、少しは官僚支配からの脱却に舵を切ることができる。

ただし、もちろん、安倍にそんな覚悟と勇気があるとは思えない。総理大臣を辞めるだけでなく、衆議院議員をも辞める覚悟が本当にあるのなら、1300年以上つづく官僚支配に真っ向から戦いを挑むのも悪くない。まあ、無理だろうなあ。ちょっと「甘ちゃん」だし、頭の出来も芳しいとは言えないからなあ。

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