06:07 2020年10月24日
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4月、日本政府は、新型コロナウイルスのパンデミックで毀損したサプライチェーンの回復のための緊急経済対策を採択した。令和2年度補正予算案には、生産拠点を中国から日本に国内回帰させるか、あるいは生産基盤をASEAN諸国に多角化させる日本企業への支援として2,400億円以上が計上された。「日本の中国撤退」はどれほど抜本的なものになるのか?また、今後の日中関係にどのような影響を及ぼすのか?

「新時代」の代わりに到来した「不確定」

奇遇にも、日本政府は中国の習近平国家主席の訪日延期が明らかになったのと同日、日本の製造業を多角化する必要性についての議論を打ち出した。習近平氏の訪日と会談は(習近平氏本人の談によると)日中「新時代」の到来を記念するものになるはずだった。しかし、新型コロナウイルスでこうした計画は乱れた。

日本には経済の中国依存を減らすべきだという議論が以前からあった。しかし、新型コロナウイルスによる世界的な危機を受けて、政府はやっとこの問題に真剣に取り組む決心をした。専門家の中には、長期的に見ると、かつてから言われている「チャイナプラスワン」、すなわち企業が中国にある既存の製造拠点に加えてもうひとつ(予備の)製造拠点を他国に置くというコンセプトの実現以上の何かになるのではないかと疑念を持つ声もある。ことは「中国撤退」政策の策定になりかねないのだ。

中国の反応

日本経済新聞によると、このニュースは日本のメディアではあまり大きく報じられなかった。4月は誰もが新型コロナウイルスに関連する焦眉のテーマで頭がいっぱいだったためだ。しかし、中国は日本政府の行動をじっと注視していた。中国政府は日本政府に対策の意味を説明するよう求めたのみならず、中国に駐在する日本人ビジネスマンに対するアンケート調査も実施し、撤退を計画しているのかどうか明らかにしようとした。

現在、「中国撤退」に向けて動いている国は日本だけではない。そのため、中国指導部は経済情勢のあらゆる展開の可能性を考えつつ、最悪の事態に備える必要があることを冷静に理解している。

日本の「中国撤退」はどこから始まるのか

中国からの供給ストップで最も痛手を負ったのはどの産業だったのか、日中経済関係に詳しい東京大学の丸川知雄教授がスプートニクに語ってくれた。

「今回のコロナ危機で実際に明らかになったのはマスク不足、および日産自動車の日本の工場が、中国(武漢)からの部品が来なくなって一時停止したことです。もう一つは、日本の農業で外国人研修生が来れなくなって収穫ができないという問題も報告されています。」

丸川教授によると、日本政府はあらゆる努力にもかかわらず、今のところ、マスク不足にさえも適切に対処できていないという。

「マスクについては、中国でのコロナの流行(1~2月)と日本での流行(3月下旬~4月)が完全にずれておりますので、果たして本当に問題だったのか?という疑問があります。今まさに中国から大量にマスクが日本に入り始めております。今日のような状況で日本国内でマスク設備に投資する企業はないでしょう。以前にNewsweek日本版にマスク問題について書きましたが、日本政府が早い段階でマスク増産にもっと大きな金額を投じるべきでした。需要面では、韓国や台湾のように国民1人あたり買える枚数を限定できれば有効でしたが、制度的にそれができないのであればせめて医療機関向けだけは政府が確保すべきでした。「アベノマスク」は完全に無駄でした。」

丸川教授は、パンデミックの終息後も日本はマスク供給を中国に依存し続けることになると考えている。

「しかし、マスク問題はまさに『戦時』の問題であり、コロナ終息後の『平時』においても中国への依存を避けるべきだとは思いません。マスクは普段はさして重視されていないものであり、日本でも遅かれ早かれ忘れられて、再び中国依存の状況に戻るのではないでしょうか。」

実際、日本政府のこうした努力は今のところあまり成功しているとは言えない。たとえ電機メーカーのシャープのような企業がマスク不足を補う努力をしても、国内のマスク不足は依然として解消しない。「アベノマスク」はそもそも出来がよくなかったのは言うまでもないが、不良品が見つかったことで国民に迅速に配布することもできなかった。

しかし、5月12日、政府が400社にのぼる国内企業と協力して、医療用品の輸入依存を減らすための作業を始めたことが明らかになった。これはマスクだけでなく、医薬品や人工呼吸器などの医療機器なども対象となる。

多角化は万能薬ではない

製造拠点を中国から他のアジア諸国に移すことで供給の安定性と安全性が完全に保証されるわけではないことは理解しておかなければならない。しかし、丸川教授によると、生産をしっかりと多角化することで、リスクは大幅に下げることができるという。

「一般論として供給先が中国だから危ない、タイや日本だから安心だとは言えません。日産の工場が止まったのもたまたま運悪かった、という以上のことは言えません。タイでも洪水によって工場が多数止まったこともありました。何らかの感染症がタイで広がる可能性もあります。経済産業省の予算も、供給先の複線化を促進するものであり、その趣旨は現在中国に強く依存しているのであれば、ASEANと日本にも供給先を作ろうということだと思います。逆に日本国内に強く依存しているのであれば、中国に供給先を設けるという発想もあり得ます。先ほど、NHKニュースで除菌器の部品がマレーシアから輸入できなくなったので中国からの輸入に切り替える話がありました。特に自動車や電子製品など、多数の部品から構成され、どの部品が欠けても製品ができないようなものは、各部品について複数の供給先を確保しておくことはリスクへの備えとして有効だと思います。」

中国との関係悪化は避けられない?

この問題を考える気運が高まっているのは、係争の尖閣諸島(釣魚島)を巡り昨今情勢が先鋭化しているためだ。5月11日、中国海警局の船が日本船を追尾し、日本船が「違法」行為をしたとして、同海域から出るよう呼びかけた。この事件を受けて、日本のメディアは、断固とした措置を講じなければ、中国が武力で島を奪取する可能性があると再び危機感を募らせた。

丸川教授は、それでも中国が強硬な報復行動に出るとは考えにくいと語る。

「供給先を複線化することが目的で、中国の生産拠点を閉めるわけではない、ということを明確化していくことが重要だと思います。実際、そのつもりもないと思います。中国はアメリカとの厳しい貿易戦争のさなかですから、日本政府が中国以外の供給先を開拓するのを促進する程度のことは気にしていられないと思います。

中国との貿易に伴うリスクは、2010年の尖閣沖での漁船衝突事件の後にさまざまな製品の日本に対する輸出手続きが滞ったことが示すように、国際的な紛争が起きたときにその相手国に対して貿易における不透明な形の報復が行われることです。いま再び尖閣問題が起きつつありますが、中国が貿易で何らかの報復をするような事態に至れば、日本政府も何らかの対抗措置をとる可能性があります。しかし、そもそも中国が報復するような事態に発展する可能性は低いと思います。」

一方、日本経済新聞は日本政府筋の話として、将来的に日本がアメリカに続いて、潜在的に軍事利用される可能性のある製品、とりわけチップに対して、より厳しい輸出制限措置を導入する可能性があると伝えた。これはすなわち、日本もアメリカに追随して、より保護主義的な政策を導入する可能性があるという考えに結びつく。しかし、丸川教授はこのような展開になる可能性はやはり低く、それにはいくつかの理由があると述べる。

「日本政府が、中国からの輸入をターゲットにした保護措置を、アンチダンピングやセーフガードといったWTOで認められている手続を使って実施する可能性は今も今後もありえます。その場合に中国が報復することはWTOのルール上ありえません。一方、アメリカのようにWTOを無視して一方的な理由で保護措置をとるようなことは日本の場合まず考えられません。中国より経済規模が大きいアメリカと、中国の3分の1程度の経済規模しかない日本とでは立場が違います。日本が中国を怒らせるようなことは積極的にはしないと思います。アメリカの圧力が強いファーウェイへの措置でも、日本政府は中国に配慮しながらアメリカに追随しました。」

世界の「中国撤退」トレンドはパンデミック下での一時的でやむを得ない現象にも見える。しかし、ウイルス以前にもアメリカの有名企業の多くは徐々に中国からアジア諸国へと移り始めていた。ベトナムが「新たな中国」になるとまで言われていたほどだ。

現在、日本の最優先事項は、他国と同様、新型コロナウイルスの拡大による危機を乗り越えることだ。しかし、生き残りをかけた問題が過ぎ去れば、世界経済における再構築が注目を集めることになるだろう。

この記事に示された見解はスプートニク編集部のものとは必ずしも一致していません。

タグ
医療, 日中関係, 中国, 日本, 経済, 新型コロナウイルス
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