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    トランプ氏

    閑話休題:大統領選報道をめぐる日本のマスメディアのバカさ加減

    © AP Photo/ Evan Vucci
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    塩原俊彦
    筆者 塩原 俊彦
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    前回の「閑話休題」で日本のマスメディアの低劣ぶりをロシア報道について指摘した。今度は、米国の大統領選報道についてもふれておきたい。あまりのバカぶりに腹の虫がおさまらないからである。

    筆者は今年6月に上梓した拙著『プーチン露大統領とその仲間たち:私が「KGB」に拉致された背景』(社会評論社)において、つぎのように記しておいた。

    「もちろん、民主党以上に、共和党は金権体質をもっており、この両党の金権政治への反発がドナルド・トランプへの不可思議な共感を生み出していることを指摘しておきたい。米国の金権政治の実態を暴露したジェーン・メイヤー著『ダークマネー』(二〇一六年)を読むと、共和党への献金できわめて大きな役割を果たしている、石油精製事業などで大金持ちとなったコック兄弟(チャールズとデヴィッド)に献金を求めようとしないトランプへの共感がトランプ支持にあることがわかる。二〇一五年夏、トランプのライバルたちが大挙してコックらに会い、献金を求めるのを尻目に、トランプは、「コック兄弟から資金を乞うためにカリフォルニアに旅行した共和党の候補者全員にグッドラックといいたいね。(やつらは)操り人形なのか?」とつぶやいている。自らが金持ちであるトランプは、コック兄弟に代表される少数の献金提供者のいいなりにならずにすむ独立した候補者であると、共和党支持者には映っているのだ。金権政治にあきあきした人々がカネに屈しない候補者としてトランプを支持している面があることを忘れてはならない。それほどまでに米国の民主政治は汚れている。」

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    ここでいう「コック兄弟」は「コーク兄弟」とも呼ばれており、日本では、講談社から2015年12月に『アメリカの真の支配者 コーク一族』という翻訳本が刊行されている。アメリカウォッチャーならだれでも知っている名前であると、筆者には思われるのだが、米国の大統領選報道でこの名前を耳にした機会はほとんどなかった。

    筆者は腐敗分析の観点から、長く米国のロビイスト制度に関心を持ちつづけている。その成果は今年刊行された、拙著『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社)や『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社)にまとめられている。英語で読みたい方には、同じく筆者が2013年12月に上梓した英語の本、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet)をお読みいただきたい。

    こうした考察からわかる単純な事実がある。それは、米国政治に金権政治が蔓延してきたことである。それを体現したのがロビイストというわけだ。その結果、国民のなかには政治不信が広がり、それが既存の政治家と一味も二味も異なっている、「素人政治家、トランプ」への期待となって投票行動に現れたにすぎない。

    筆者はかつて、ロビイスト研究を積み重ねていた際、目から鱗という感覚を覚えたことがある。それは、2008年の大統領選を前に、バラク・オバマとヒラリー・クリントンが民主党の大統領候補指名を争った際、両者の決定的な差として、前者が反ロビイストの立場にたったのに対して、後者はロビイスト擁護派であったということを知ったときのことである。すでに、米国民には金権政治家への嫌気が広がっており、カネにあかせて政治家や官僚を操ろうとする勢力への嫌悪があったから、多数の人々はオバマに期待をかけたというわけだ。

    今回、ヒラリーはこうした国民の既存政治家への不信の根強さに気づかず、相変わらず、ロビイストにすり寄った選挙運動を展開した。これでは、トランプに勝てるわけはないのだ。トランプはロビイストにカネを乞うような行動をしなくてもすむから、金権政治の元凶であるロビイストに尻尾を振る必要などなかった。ゆえに、金権政治からの脱却という変化をもたらしてくれるかもしれないという期待をもたせたのだ。

    つまり、ロビイストに対する候補者の態度をみていれば、どちらが勝つかは自ずとわかったはずなのである。

    筆者は米国政治の専門家というわけではないから、こんな議論はどうでもいい。ただ、大切なことは、多くのマスコミ関係者が情勢変化の背後にある問題点を探り当て、その問題をとことん探究する姿勢に欠けているという点にある。正確に言えば、日本だけでなく欧米のマスメディアの不勉強も目に余る。ゆえに、トランプ当選も予測できなかったというわけだ。

    この世界中のマスメディアの不勉強こそ、いまやインターネットの世界では常識化しようとしている。それを痛感したのがウクライナ危機をめぐる報道であった。日本のマスメディアは拙著『ウクライナ・ゲート』や『ウクライナ2.0』を一切、無視したが、そもそもウクライナにおいて民主化運動を煽動したのは米国であり、武力闘争を支援したのも米国であったことを否定することはだれもできないだろう。無視することで、クリミア併合だけを国際法違反と非難するだけでは、そこになんの説得力もないことはだれにも自明だろう。

    こうした既存のマスメディアのやり口に米国の選挙民はよく気づいていた。だからこそ、マスメディアは偉そうになにを報道しようと、そんな報道はもはや信じなくなっていたのだ。

    そう考えると、日本でも米国と同じように、もう一、二年もすれば、既存のマスメディアがもっともっと信頼されなくなり、米国と同じ径路を辿るようになるかもしれないと思えてくる。たとえば、豊洲の盛り土問題をめぐって、石原慎太郎の責任を追及する東京新聞のスクープをネグることで、平然と誤魔化しを行っているマスメディアの姿勢は決して許されるものではない。週刊文春の報じた、日本レコード大賞をめぐるスキャンダルを無視しているTBSの不誠実を視聴者は決して忘れないだろう。

    思うに、どうしてそろいもそろって、こんなにバカなのか。本当に情けない。このブログで何度も繰り返しているように、自分の愚かさに気づいて勉強してほしい。そして、自分の身体をかけて「真実」を報道する気概をマスメディアの諸君にもってほしい。

    もっとも筆者はそうしたマスメディアに見切りをつけてしまった。朝日新聞をさっさと辞めた。だが、それは、自分の愚かさを知って、もっともっと勉強したいためであった。筆者は拙著『腐敗の世界史』を書くために、何千もの参考文献を渉猟した。いまもその努力をつづけている。このブログに継続的にアップロードしている『ロシア革命100年の教訓』にしても、調べに調べ、考えに考えて書いている。それは、筆者が愚かであるためであり、だからこそ弛まぬ努力を継続しようと努めているのだ。

    こんな筆者からみたマスメディアや学会のお粗末な実情をこれからも糾弾してゆきたい。バカにはバカだと指摘することが必要だからである。

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    ドナルド・トランプ, 日本, 米国
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