このユニークなストラクチャーでは中国人民解放軍の持つ、戦争を行う上での情報的な局面や特殊作戦の展開に関する可能性の全てがひとつにまとめられている。中国人民解放軍参謀本部の中でも技術偵察、サイバー諜報、電子戦およびサイバー攻撃を担当していた元第3部(技術偵察部)、第4部(電子部)のほかに、全体として軍事諜報や心理戦も対象としていく。このことからその構成にはおそらく諜報を担当していた参謀本部の元第2部(情報部)と、同軍総政治部のなかでも敵の軍および国民に焦点を絞ったプロパガンダ作戦を担当していた連絡部(諜報機関)も入っているものと思われる。このほか、戦略支援部隊には特殊作戦用部隊も入っているものと考えられる。
このようにして、戦略支援部隊は世界に類のないものとなっている。諜報、情報戦からの防衛に関係するものが全て、これだけひとつのストラクチャーに集中しているということは、一見、持てるリソースを最大限合理的に利用できるということから、意味があることに思える。ところがこの戦略支援部隊もかなり隠された問題や困難を抱えているのだ。
ひとつのストラクチャーにまとめられた機関だが、これはかなり性格が違うものだ。これらは作業メソッドも異なり、作業の上での優先課題も異なる。世界の大多数の国では技術偵察機関というのは、あまたある諜報機関の中でもより規模が大きく、金のかかる要素だ。これは中国も例外ではない。しかも性格の異なる庁を統一すれば、その間でのライバル競争は激化する恐れがある。
異なる部署がそれぞれに集めていた情報がこんどは戦略支援部隊が作られることでどのように入ってくるか。この問題は個別に取り上げるに値すると思う。戦略支援部隊に入れられれたそれぞれの諜報機関は、もともと独自の情報分析部署を持っており、これが国の軍事政治指導部用に情報を準備していた。にもかかわらず、ありとあらゆるソースから情報を集める統一の新情報分析ストラクチャーが果たして誕生するのだろうか? もしそうなるとすれば、その政治的な意味は計り知れないほど大きくなる。
それに戦略支援部隊に入れられると見られる特殊作戦部隊についても、注目する価値はある。これはひとつのストラクチャーに宇宙偵察、電子偵察、スパイ偵察、特殊偵察を持つことで、中国人民解放軍に地球規模で特務作戦を行う可能性を付与する。ここまで進んだ統合、中央集権化は米国はおろか、世界のどこをさがしてもないだろう。
とはいえ、これだけ野心満々の改革であるからして当然単純なものではありえず、成功する保証もない。中国指導部は性格の違うストラクチャーの統合がうまくすべりだすよう、かなりの努力を払わねばならなくなるだろう。