15:51 2020年10月20日
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ロシアで制作中のSF映画「ペトロポリス」に、ロシアで活躍する日本人俳優、木下順介さんが出演している。メガホンをとるのは、ロシア演劇界の巨匠ワレリー・フォーキン監督。これまで舞台演出を手がけてきたフォーキン氏が、なんと約20年ぶりに映画を撮るとあって、公開前から大きな話題になっている。

日本で芽生えた、映画を撮りたいという気持ち

フォーキン氏はロシア演劇界では知らぬ者のない存在で、サンクトペテルブルグにある国立アレクサンドリンスキー劇場の芸術監督を長年務めている。2019年に日露共催で行われた「シアターオリンピックス」ではロシア側の芸術総監督として来日し、自身が演出した舞台「2016年、今日」の公演が富山県の利賀村で行われた。実はこの時に上演された「2016年、今日」こそ、映画「ペトロポリス」の前身である。原作は、監督の息子であるキリル・フォーキン氏のSF小説だ。

日本での公演を振り返り、監督は「日本人は、戦争、犠牲、ファンタジーといった全てのものに対して、とても繊細な感性を持っていました。また、観客の中にはアメリカやヨーロッパからの外国の方もたくさんいて、彼らは舞台をとても感情的に受けとめました。私たちはどこへ行くのか、私たちとは何者なのか、私たちはいつか変わることができるのか?こういった問いは世界の全ての人にとって普遍的で、重要であるとわかりました。このことが私を、映画撮影へと駆り立てたのです」と話している。

ワレリー・フォーキン監督。20年ぶりに映画界へカムバック
© 写真 : INTERFEST
ワレリー・フォーキン監督。20年ぶりに映画界へカムバック

「ペトロポリス」ってどんな話?

「ペトロポリス」のストーリーは2000年から2020年にかけて進行する。舞台はロシア、アメリカ、そして日本にまたがっている。主人公は、アメリカに移民したロシア人の息子で、国連に招聘された優秀な心理学者だ。実は米ソの冷戦時代、異星人はすでに地球人とコンタクトを取り、様々な知恵を授けていた。国連の一部の人間を除いては、このことは秘密にされていた。しかし異星人と、自国の利益を追求する地球人との間にはどんどん軋轢が生じ、地球の運命は、主人公の手に委ねられることになる。

木下さん演じる国連職員・尾尻宏樹
© 写真 : INTERFEST
木下さん演じる国連職員・尾尻宏樹

木下順介さん、巨匠との仕事に満足

木下さんは、「ペトロポリス」で国連職員・尾尻宏樹の役を演じている。主人公を研究に引き入れ、彼の運命を変えてしまう重要な役どころだ。木下さんは「フォーキン監督と一緒に仕事ができたことはとても嬉しい」と話している。

これまで歴史的大作からコメディドラマまで、ロシアで数多くの作品に出演してきた木下さんだが、今回の映画では監督の求めに応じて日本語と英語でセリフを話した。しかも小説が原作なだけにひとつひとつのセリフが長く、瞬時に3つの言語を駆使するため、芝居の呼吸が難しかったと話す。

木下さん「相手がロシア語で、僕は日本語で話しているので、僕は相手のセリフが終わったら分かりますが、相手は、僕のセリフがどこで終わったか分からない。そのために、うなずくタイミングが違ってしまったり、呼吸が難しく、相当準備しておかないとセリフがすらすら出ない、ということがありました。これまでロシアの現場ではロシア語で演技してきたので、現場のリズムにのると、ついロシア語で返したくなってしまいます。監督の指示に応じて、英語のセリフの後に日本語を言うシーンもありました。後で、どういう形で完成するのか興味深いです。」

撮影を終え、イベントで挨拶する木下さん
© 写真 : INTERFEST
撮影を終え、イベントで挨拶する木下さん
撮影セットの「日本レベル」にびっくり

筆者は幸運にも、撮影現場を訪れることができた。全身消毒、検温など、徹底したコロナ対策がなされている。スタッフや出演者は定期的にPCR検査を受けている。中に入ってみると、広大な敷地に、色々なシーンのセットが設営されていた。驚くべきは、セットの豪華さだ。砂浜、お洒落なマンション、日本のお墓など、色々なものが一つに集まっていて、不思議な感覚だ。本当は日本のシーンは日本で撮影する予定だったが、コロナ禍ではもちろんそれはできない。セットのお墓にはきちんと漢字も書かれていて、白い煙が漂うと、まるで日本のホラー映画のようだ。

撮影セットとは思えないほど本格的なお墓
© 写真 : INTERFEST
撮影セットとは思えないほど本格的なお墓

さらに目を奪われるのは、飲み屋などが立ち並ぶ日本風の通りだ。漫画喫茶や居酒屋の看板に灯りがともったり、メニューが立てかけてあったりと、芸が細かい。そして道路上の「止まれ」の文字は本物にしか見えない。そこに、アジア系の外見をした日本人役の俳優たちが集うと、本当に日本にワープしたような気分になる。

  • 日本の通りでの撮影 
    日本の通りでの撮影
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日本の通りでの撮影

つい先日、全てのシーンの撮影が終わり、セットが報道陣に公開された。この撮影現場の跡地には住宅が建設される予定で、セットは破壊され、日本の通りは幻になってしまう。今後、編集作業を進め、来年にまずはロシアで公開される予定だ。監督が「主要なテーマは互いへの信頼です。国境の枠を超え、互いの文化が行き来する幅を広くし、不信感をやわらげることにつなげたい」と話すこの映画、日本でも観られる日が来てほしい。

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