舞台芸術の祭典シアター・オリンピックス、初の日露共催!演出家・鈴木忠志さんに聞く創作の源とは

© Sputnik / Vladimir Vyatkin / メディアバンクへ移行鈴木忠志さん
鈴木忠志さん - Sputnik 日本
サイン
世界中の演劇人が参加する舞台芸術の祭典、第9回「シアター・オリンピックス」がまもなく開幕する。シアター・オリンピックスは1993年の創設以来、ギリシャなど世界の8か国で開催されてきたが、日本とロシアの2国で共同開催されるのは今回が初めてだ。日本側の芸術監督を務めるのは、演出家の鈴木忠志さん。鈴木さんは富山県南砺市利賀村を拠点とする劇団「SCOT」を主宰している。ロシアとの縁も深く、鈴木さんの演出による「リア王」や「エレクトラ」はロシアの国立劇場のレパートリーとなっている。スプートニクはシアター・オリンピックスの準備に奔走する鈴木さんに、話を聞いた。

スプートニク日本

スプートニク:今回のシアター・オリンピックスは史上初めて、日本とロシアで共同開催されることになりました。日露共催の意義についてどうお考えですか。

鈴木さん:異なった文化をもつ人たちの理解を促進するには、演劇は非常に良いものです。日本とロシアは、領土問題や平和条約交渉など政治的には大きい問題を抱えています。両国には相互理解が必要ですが、日本には、あるいはロシアにはどんな人々が住み、その人々がどんなことを考えているのか、演劇なら生身の人間と直に接触できるので、相互のイメージを具体的に定着させることができます。演劇人同士は友達になりやすいですし、日本の観客がロシアの俳優と話すこともできます。我々もロシアに行けば現地の観客と接触します。そういった交流により生まれる相互理解は、幅広くはありませんが、重要なことです。ですからロシアと共同開催できるのは、とても良いチャンスであり、シアター・オリンピックスをこのために役立てたいと思います。

スプートニク:シアター・オリンピックスの日本におけるメイン会場は、利賀村ですね。東京や大阪といった大規模な集客が見込める場所でなく、あえて利賀村にしたのはなぜでしょうか。

三浦基さん - Sputnik 日本
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鈴木さん:利賀村は人口が400人ほどしかいない小さな村ですが、劇場が6つあります。SCOTの劇団公演の際には多くの人たちが見に来てくれ、ある意味、演劇の文化センターのような存在になっています。山の中ですから、お客さんは終演後に宿舎やテントに泊まることになります。そうすると芝居の後に、お客さん同士の会話が生まれ、今見た芝居について議論したり感想を述べ合ったりして、演劇鑑賞とはまた違う時間をお客さんが共有する事ができるのです。東京など大都会の劇場でやれば、見終わった後はみんなバラバラになってしまい、全く知らない人同士が語り合うということはないでしょう。ロシア側のメイン開催地・サンクトペテルブルクは大都会ですが、それとコントラストをつけ、「演劇は、大都会でだけ成立するものではないよ」ということをアピールしたいという気持ちもあります。もちろん、都市部のように気楽に劇場にアクセスできる、というわけではありませんが、利賀村まで来てくれた人にとっては、とても楽しい時間になるでしょう。「演劇を見る」のはもちろん一つの重要な要素ですけれど、その周辺に、お客さん同士が作る楽しい時間があります。演劇を中心にした出会いや経験も、人生においてはとても大事なことだと思います。

スプートニク:鈴木さんの演出する作品がいつも全く違って見えるのは、どうしてでしょうか。常に「実験」を続けているように見えますが、何が鈴木さんを絶え間ない創作に駆り立てるのですか。

アレクサンドリンスキー劇場 - Sputnik 日本
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鈴木さん:私は、現代を生きている人たちに対し、演劇をやることで、「世界や日本における社会の将来を考えたとき、こういう問題を考えなければいけないのではないか」というメッセージを出しています。社会の状況はそれぞれの時代で変わっていくものですから、私の演出する演劇のスタイルやメッセージも変わっていくのが当然であり、変わっていかざるを得ないのです。スマートフォンが普及した今では、昔とコミュニケーションのスタイルも変わってきました。日本社会は大都市を中心とした構造になり、日本はグローバル経済の一員になっています。そういう時代にあっては、その社会状況に合わせた演劇を作らないといけないと思っています。ただ変化に合わせる、というのでなく、少し予見的・予言的というか、もっと先を見据えて、「こういう問題が起きるのではないか」と問題提起をしています。私は、大勢の人に支持されたいとか、利益を追求しようと思って演劇をやっているわけではなく、いつも社会の中の問題を提供し、みんなで考えたいと思っています。

スプートニク:鈴木さんはロシアの国立劇場で演出をしたり、俳優教育のマスタークラスを開催したりと、日露の演劇界のために貢献してこられました。ロシア人と仕事をする中で、特に印象に残っていることはありますか。

鈴木さん:ロシアの演劇人は、演劇に対して情熱的で真面目、そして魅力的な人が多いですね。私の今までの友人関係からは、そういう印象を受けます。一番思い出深いのは、モスクワ芸術座、タガンカ劇場といった劇場の俳優たちが、利賀村に一ヶ月ほど滞在し、稽古したことです。俳優たちとともに生活し、色々な生活の仕方を垣間見る事ができたのは、とても楽しい思い出です。

6月15日には、シアター・オリンピックスの開会式がサンクトペテルブルクで行われる。日本会場は、利賀村と富山県黒部市の2会場で、公演は8月23日からスタート。大自然の中で、世界の一流演出家の作品を日替わりで鑑賞する事ができる。前売り券の販売は6月30日から。より詳しい情報は第9回シアター・オリンピックス公式サイトをご参照ください。

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