21:49 2020年06月05日
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11日および13日、ロシア・モスクワのシェレメチェボ空港から東京・羽田空港に向け、日本航空(JAL)の臨時便で在留邦人とその家族など、合計275人が帰国した。臨時便運航はロシアにおける新型コロナウイルスの感染拡大を受けたもので、帰国者は今後、ホテルや自宅などで2週間の完全隔離生活を送る。

なぜ今のタイミングで大量帰国?

ロシア政府は、3月27日以降、政府の個別決定に基づく便以外の国際線フライトを全て停止した。この直後、日本航空(3月28日モスクワ発)、全日空(3月27日・30日ウラジオストク発)による帰国フライトが実現した。4月10日にはロシアの航空会社アエロフロートが、日本に滞在するロシア人の帰国のためにチャーター便を手配。その往路となるモスクワ発東京行きに搭乗できた人もいた。

しかしこれらの便は、運行決定のアナウンスから出発まで全く時間がなかったため、利用できない人も多かった。4月下旬、在ロシア日本国大使館が臨時便運航に備えた搭乗希望調査を行ったところ、かなりの数の帰国希望者がいることが判明。これを受けて日本航空と調整を行い、臨時便2便の運航が決まった。

今回は幸い数日間の猶予があったため、地方都市から長時間かけてモスクワに移動してきた人もいた。調整にあたった大使館の担当者は振り返る。

「ロシアの各地方都市にお住まいの方々にも、留学生を中心に帰国をご希望の方々が数多くおられ、日本のご家族からも強い帰国の希望が寄せられておりました。当館としては、留学先の学校とも連絡を取りながら、彼らが取り残されないよう配慮した結果、今回の便により帰国されました。また、日本人のご家族をお持ちのロシア人の方々からはご家族のもとへ戻りたいとの希望も当館に多く寄せられていましたところ、今回の便を利用していただきました。」

42年ぶりJALのシェレメチェボ=羽田線

臨時便のチケットは早々に完売となった。機内では隣の人との間隔も十分にあいており、機内食などのサービスも通常と変わらず、快適なフライトとなった。モスクワでは提携している機内食工場がフル稼働していないため、特別にロンドンで食事を積み込んだ。

社命で一時帰国を余儀なくされた男性は、スプートニクの取材に対し、日本航空に感謝を述べた。

「感染防止のために席を半分以下しか提供できず、採算がとれるとはとても言えない状況で、万全のサービスをしてくれました。機内では、長時間の外出禁止を守ってロシアでひっそり過ごしてきた私たちの不安と疲れをねぎらうアナウンスがありました。そしてきわめ付きは、機長さんの『42年ぶりのシェレメチェボ=羽田線の初便のご利用をいただきありがとうございます』とのメッセージでした。」

日本航空は、日露間の旅客数拡大を目指し、3月29日からモスクワ線の発着空港を成田から羽田に変更し、モスクワにおける乗り入れを、ドモジェドボ空港から、より利便性の高いシェレメチェボ空港に変更する準備を着々と進めていた。しかし予定日2日前に全ての国際線が飛べなくなってしまった。奇しくも、帰国のための臨時便が、シェレメチェボ=羽田線復活の第一便となってしまったのである。

男性は、「こんな最悪の環境下でも万全の『おもてなし』を提供するべく頑張る、という強い決意が感じられました。同じくロシア市場で顧客サービスを提供する日本企業として、心意気を共有して頑張らなくては」と話してくれた。

帰国前も帰国後も隔離生活

日本メディアも、臨時便によるロシアからの邦人帰国について報道した。それらのニュースのコメント欄やツイッターには、「帰国者から感染するのでは?」といった不安の声や、「感染爆発国から帰ってくるな」というような、心ない書き込みが散見された。

ロシアでは、PCR検査数を最大限に拡大して早期に感染者を発見し、軽症なら自宅で隔離、病状が中程度なら重症化しないうちに早めに病院に収容するという政策をとっている。これまで行われた検査数は600万に達し、あえて検査数を抑えてきた日本とは真逆の道を行っているのだ。感染者数だけで言えば、ロシアは5月14日現在で約25万2200人と世界2番目に多いが、死者数は2116人(世界18位)と低めに抑えられている。

ロシアに残った日本人の一人は「検査数が増えれば感染者数も伸びるのは仕方のないこと。ロシアではまるで、道端で人が死んでいるような光景を想像されるのは心外だ」と話す。

感染者数が最も多いモスクワでは、3月30日から、厳しい自主隔離政策がとられている。最も近いスーパーに徒歩で行くことは可能だが、そういった外出すらも避け、仕事も運動も室内で行い、食料品のデリバリーサービスを利用する人も多い。注意深く行動してきたある日本人は、「ロシアでコロナが流行り出した時、アジア人だからといって差別されることはなかったのに、今日本に帰ったら、ロシア帰りということで偏見の目で見られるのは辛い」と心境を吐露した。

臨時便の帰国者はPCR検査を受け、空港内で約8時間待機して結果を待ち、そこから専用バスや迎えの自家用車、帰国者のための特別なハイヤーなどで隔離場所へと移動していった。複数の帰国者による証言から、11日の臨時便で帰国し、空港内で待機した人々は全員、陰性だったことがわかっている。しかし陰性であっても、帰国翌日から2週間の隔離生活は必須だ。その間公共交通機関は使えないし、スーパーやレストランにも行くことはできない。しかしモスクワの厳しい自主隔離生活の後なら、特に問題なく乗り切ることができるだろう。

ただし金銭面での負担は、予想以上に大きかったようだ。スプートニクの取材に応じた留学生は「帰国便のチケット代と、隔離施設(ホテル)で20万円は使いました。ロシア人に、日本は裕福な国なのにそんな費用も出してくれないのかと驚かれ、同情されました」と話した。2週間自炊できず、デリバリーサービスがロシアと比べて割高なことも、出費拡大に拍車をかけている。

今後、ロシアから日本へ帰国便が飛ぶかどうかは未定だ。大使館の担当者は「現時点で帰国を希望する旨のご連絡を頂いた邦人の方々については、11日と13日のいずれかの便に席を確保していただくことができたと理解している」としながらも、「今後とも在留邦人の方々の帰国のご希望を踏まえながら,臨時便の運航の実現に努力していく」と話している。

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露日関係, 日本, ロシア
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