21:59 2020年04月04日
フィギュア特集
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トリノでフィギュアスケート グランプリシリーズのファイナルが終わった。男子シングルが大方の予想どおり、ネイサン・チェンと羽生結弦の一騎打ちに終始したのに対して、女子はまたもやどんでん返しに終わり、首位の入れ替わりが起きた。

女子は五輪金メダリストのアリーナ・ザギトワが舞台裏でつらい涙を流し、ロシア・スーパートリオのアリョーナ・コストルナヤ、アンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トルソワが高ぶる喜びを抑えるという結果に終わった。3人娘は表彰台をすべてロシアが占めるという快挙を成し遂げ、新たな歴史を開いた。その1番高い場所に立ったコストルナヤは記者会見で幾度もこう繰り返していた。「グランプリシリーズで自分が何度も優勝したことに嬉しい驚きを感じています。でも試合では何位になるとか考えないんです。ただよりよい演技をしようとしているだけで。」

トゥトベリーゼ門下生たち
© Sputnik / David Carmichael
トゥトベリーゼ門下生たち

これと意味的には似たようなセリフを、あの時のザギトワもはいていた。大人の大会に出場し始めたばかりの彼女が続けざまに勝利を収めていたときのことだ。ザギトワは五輪金メダリストとなった。だがそれからわずか2年、ファイナルで6位という屈辱を味わうことになった彼女はもう涙をこらえることはできなかった。

どう評価する 度重なる首位の交代 

ロシアのフィギュア女子シングルの本物のリーダーは一体誰なのか。これをスポーツ界はずばり断言できない。

まずはソチ五輪の後、団体戦の金メダル獲得に貢献したロシアのユリア・リプニツカヤ(当時15歳)。彼女をロシアのプレスも海外の報道もソチ五輪の空に突如輝いた若きスターとして盛んに書き立てた。ところが、五輪直後からリプニツカヤは大人の体へと成長し始め、試合結果にこれが問題として現れるようになった。そのリプニツカヤの後をすぐに占めたのがエフゲニア・メドベージェワだった。メドベージェワはロシア国内、世界の両方の選手権で、おそらく他のどの選手よりも多く、首位を勝ち取ったが、平昌五輪までは持たなかった。肝心の五輪でメドベージェワも同じチームの、しかも若干15歳で金メダリストとなった友達に手痛い負けを期し、大粒の涙を流すことになってしまったからだ。だがその見事なスワン(ザギトワは五輪SPで「白鳥の湖」を演じた)の大勝利もまた、長くはなかったのだ。五輪後の2年でフィギュア界のありとあらゆるタイトルをさらったアリーナ・ザギトワが今、苦しい失望に直面している。彼女もまた、グランプリ・ファイナルでの最下位も含め、負けを自分の中で乗り越えていかざるを得ない。

急速に若年化するチャンピオン

ロシアの女子たちは毎年ほぼ全ての大会で優勝を飾ってきている。だが、スポーツ紙の紙面に踊るのは、勝利の喜びというよりは、女子の首位があまりにも短期間に入れ替わることへの心配といら立ちのほうが目立つ。

ロシアには才能豊かな選手がたくさんいる。だが逆説的なことに、五輪2冠を果たせるような堂々たる最高峰はいない。これが選手らの心理にとってどれだけ苦しいことかは明白だ。

スプートニクはこれまでに、首位の交代のあまりに激しい女子シングルの心理的な問題をテーマに取り上げてきた。あまりに若い選手たち。ほぼ子どもに過ぎない彼女たちは頂上めざして軽々と登ってくる。ところがその彼女らも、2,3年もたたぬうちに昨日の12、13歳のジュニアたちに座を追われることになる。そんなジュニアの一例が、トゥトベリーゼ・チームにはずば抜けた才能のカミラ・ワリエワだ。グランプリ、ファイナルのジュニアの部でさっさと優勝をさらったワリエワはすでにウルトラC級の技を持っている。4回転ジャンプ、思わず息をのむほどの滑らかなスライド、芸術性の極めて高いスピンがそうだ。

記者会見でスプートニク記者はシニアの大会で入賞した3人に対し、試合の緊張をどう克服しているか、ストレスから脱却するのに一番力となる人は誰か、またそういう時のためにトゥトベリーゼ・チームのなかに心理療法士はいるかと尋ねた。ところが天に飛翔し、地面にたたきつけられる思いを味わったザギトワに比べ、この15歳、16歳の入賞者の心理にとってはストレスという言葉はほぼ意味不明だった。1位のコストルナヤは3人を代表し、問いに答えたが、その答えは持って回ったものだった。

「うちのチームの心理療法士の役割はコーチとお医者さんたちが果たしています。」

ロシア・スーパートリオのアリョーナ・コストルナヤ、アンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トルソワ
© Sputnik / Владимир Песня
ロシア・スーパートリオのアリョーナ・コストルナヤ、アンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トルソワ

いたってドライなこの説明は表現としては美しいかもしれない。あまりに若いコストルナヤ、シェルバコワ、トルソワの3人は幸せなことにストレスの克服という人生経験を持たない。フィギュア界の頂点に立ち、これまでトゥトベリーゼ・チームの少女らを鼓舞しつづけ、五輪金メダリストとしてグランプリのファイナルのリンクに出たザギトワがこれまで味わってきた責任の重さも、彼女らは知らない。だが少女たちもこれからは違う。審査員、コーチ、観客の向ける最高の期待に応える使命をおうことになる。

アレクサンドラ・トルソワはすでにある程度、これに似た時期にいるといえるかもしれない。フリーで5度の4回転を跳ぶと宣言したトルソワをプレスはこぞってフィギュアに革命をもたらす存在と書いている。トルソワ自身、記者らに対して、練習では問題なくできるのに、大会に出るとこうしてうまくいかないことがあると打ち明けているからだ。これは、責任の重いシニアの大会へ適応する際に起こる心理的問題の兆しではないだろうか。

微笑ましいのは、今のところトルソワにとって最良の心理療法士なのが彼女の大事にするチワワのチーナだということだ。トルソワは記者会見にもチーナを連れて現れ、犬にも自分と一緒に成功の喜びを味わわせようとしてか、腕から離そうとはしなかった。

ファイナルで銀メダルをとったアンナ・シェルバコワにとっては一番の心理療法士は今のところ親たちだ。シェルバコワはフリーを滑り終えた後、記者らにむかって、「私はトリノには家族と一緒にやってきました。両親だけじゃなく、姉もです。家族がいることは全然邪魔にはなりません。むしろそばにいてくれることで安心します。家族はいつだって私が心配しないように、必要な言葉を見つけてくれるもの」と語っていた。

年齢制限 若年優勝者の心はこれで守れるか?

この少女たちの選手生命がこれから先も長いことを祈りたい。スポーツの専門家らもこれは同じ気持ちだ。なぜなら彼らも、いかに健康を保持しながら選手生命を長く保つか、これに心を砕いているからだ。

スポーツの報道では年齢制限を16歳ないしは17歳に引き上げるか否かの論争が続いている。引上げられれば少女たちも体を強化することができるが、そうでなければ15歳の少女らは、16歳までに賞を総なめにしてきた昨日の神童をいとも簡単に倒してしまうからだ。16歳、まさにこの年齢で体の変化が始まる。ザギトワの体にも平昌五輪の後、変化が訪れた。チャンピオンというタイトルの重荷は難解なジャンプを跳ぶ際にさらに心理的な負荷をかける。その結果訪れた混乱と涙。もちろん涙は必ず乾く時が来る。だがこんな若い女の子たちが自分の収めた成功のためにこれだほど辛い涙を流す必要が果たしてあるのだろうか。

これへの答えを出せるのは国際スケート連盟(ISU)だけなのだが、それも早期では期待できない。年齢制限の引き上げを話し合い、票決する次の話し合いは2022年まで行われないからだ。

正しい答えは歴史が物語っている

それでも16歳だけがチャンピオンになれるわけではない。このことは、フィギュアの歴史を振り返れば、すでに答えは出されている。

オランダのハーグで開かれたオフィシャルな国際大会で女子のスケーターが世界初の4回転ジャンプを跳ぶという快挙が記録されてから、この12月14日で丸16年になる。この歴史を作ったのはロシア人選手ではない。日本の安藤美姫さんだ。驚くことに安藤さんは当時、今のトルソワと同じ、15歳という年齢でこれをやり遂げた。安藤さんはこの後、ほとんど4回転を跳んでいない。あの時にあった技の軽やかさも戻ることはなかった。だが、ジャンプが跳べないことが安藤さんの妨げにはならなかった。彼女は20歳、24歳という年齢で2度も世界チャンピオンの座を勝ち取ったからだ。

日本でもロシアでもたくさんの人に愛されるフィギュアスケートというスポーツで、安藤さんがこれだけ長い選手生活を送ってきたという事実こそ、若い選手らに贈る最良のメッセージではないだろうか。


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