2013.10. 8 , 13:25

   モスクワで国際食品見本市「第16回PIR(ピール)食品産業展」(10月1日‐4日)が盛大に催された。PIRには毎年、世界各国から、外食産業、ホテル業、食品製造・加工部門の老舗・気鋭、供給側にスポンサー、さらに、味のトレンド、斯界の動向に注意怠りないグルメ諸氏が参加し、妍を競い、舌鼓をうち、商談を成立させる。

   今年のPIRもロシアおよびCIS諸国で最大の食品見本市として面目躍如たるものであった。25ヶ国から850企業が集った。これまで日本は民間ベースで参加を果たしてきたが、今年は初めて国の全面的バックアップのもと、「ジャパンパビリオン」として統一ブースを構えた。オーガナイザーを務めたのは農林水産省とジェトロ(日本貿易振興機構)。出展の狙いについて、ジェトロの吉村優美子さん(農林水産・食品部農林水産・食品企画課)は、次のように語ってくれた。

   「ジャパンパビリオンはジェトロと農林水産省のブースのふたつに分かれていて、合同で出ているんです。ジェトロのほうのブースは商談をしに日本から4社、出展されています。農林水産省のほうのブースは主にイベント関係ですね。日本食のPRのイベントと、すでにロシアに進出している日本の食品会社3社。そういう形で構成されています。目的は一緒で、日本食、日本の食品、日本の食材を、ロシアのかたにもっと食べていただく、ということで、パビリオンを出しています。ただ、アプローチの仕方が変わっていて、農水省のほうはデモンストレーション、試飲・試食をしていただいて、日本食を知っていただく、おいしさを分かっていただくというPRを主眼に置いていて、ジェトロのほうは、実際に食品を手に取っていただいて、商談をしていただく、買っていただく、そのようにアプローチの仕方が分かれているんです。

   日本食を海外に輸出する、というのは国の目標でもあるんですが、どの国に出してもいいというわけではなくて、戦略がないとうまくいかないですよね。なので、農林水産省が『重点国』のようなものを決めていまして、その中にロシアが入っているんです。その戦略は今年決まったものなんですが。それで、ちょうどPIRという展示会があるので、農水省とジェトロが一緒に出るという形に、今年からなっているんです。

   (なぜロシアが『重点国』なのか。)新興市場ということで、資源が出て、景気がいいというか、経済成長していますし、それに伴って、ちょっと高い輸入品を買える層というのも今後徐々に増えてくる、というところがありますので、今後何年間かに市場拡大の可能性が考えられる、今から動いておかなければいけない、という形です」

   農林水産省とジェトロが今年初めてタッグを組んでパビリオンを設置した、その背景について、農林水産省側の代表を務めた石田嘉郎さん(食料産業局食品小売りサービス課外食産業室海外戦略担当専門官)は、次のように語っている。

   「タイミングということで言いますと、いま、ロシアで、日本食レストランが増えています。これが一つめ。そして市場として、ロシアが大変魅力的であるという点が二つめ。そしていま、日本とロシアが非常に近くなってきている。日本海を挟んですぐ向き合っているのに、モスクワと東京は、距離が離れていました。ただ、今年の4月、10年ぶりに、日本の安倍総理がモスクワに来て、政府間の交流を活発化させていきましょうという話し合いをしました。農水省はそれを受けて、政府間の交流を民・民レベルまで落とし込んでいきたいというふうに考えています。そういう意味で、食卓に日本食のエッセンスがもし取り入れてもらえたら、それはとても嬉しいです」

   ジャパンパビリオンの農林水産省ブースでは、絶え間なくイベントが行われた。日本食に関するセミナー、日本人またはロシア人シェフによる和食のデモンストレーション、日本の農水産品のプレゼンテーション、日本酒の試飲会。果ては、モスクワに展開する日本食レストランのシェフたちによる日本料理コンテストも開催された。審査委員長を務めたのは料亭「美郷」料理長でモスクワ日本食レストラン・コック長ギルド会長のMUNECHIKA BANさんだ。いずれも大盛況。美食の祭典と呼ぶにふさわしい雰囲気が醸し出されていた。

   一連のイベントの中で焦点となった食材は、魚である。それもそのはず、第一に、新鮮な魚というのは伝統的な日本料理の基本であるし、第二に、違いのわかるロシア人がロシアの和食レストランやスシ・バーで一番不満な点が、まさに魚の鮮度の低さということなのである。

   商談ブースに出展した4社の中に、魚を専門に扱う「女川食品加工」(本社・宮城県女川市)があった。東日本大震災で壊滅的な被害を被った地元企業が合同で立ち上げたものだ。営業統括本部長の簡亮博さんは次のように語っている。

   「我々は、単に復興すればいいという発想ではなくて、日本の水産業界全体を見て『元気がないな』『もっともっと世界に打って出ていくべきじゃないか』ということを常に考えていまして、今回ロシアでイベントを行うということを聞いて真っ先に手を挙げまして、参加にいたりました。まだロシアには魚を食べる文化というのが広まっていないという状況なので、特に日本料理店の方々にたくさん来ていただきました。やはり、日本の新鮮な魚がまだまだロシアに入ってきていないので、それをなんとか入れてくれないか、という要望が非常に強かったです。イベントで講演をさせていただいたんですが、ロシアの人は主に肉料理を食べているので、まだ魚は非常に馴染みがない、だけれども、『日本人はロシア人より平均寿命が20歳長いですよ、それは魚を食べているからです』という話をしたら、非常に皆さん興味を持たれて、『私も魚を食べるようにします』というかたもいらっしゃいました。そういうふうに、魚を食べることの健康上のメリットというものも訴えていけば、面白い展開ができるんじゃないかなと考えています。我々としては、『新鮮でおいしい日本』を供給する窓口として、しっかりした土台を築きたいと思います。そういった意味で、ロシアで『魚の新しい食べ方』をすべての方々に広げるというスタンスを取り続けていきたいなと思います」

   ここ10年のロシアでは、雨後の筍よろしくスシ・バー、日本食レストランが増大している。日本食への需要は相当に高いのだ。どうやら今こそ、量が質へと生まれ変わるべき時が来ているらしい。

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