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「日本は自分を抱きしめてくれているように感じる国」

外国人モデルはなぜ来日に憧れ、しかし結局は去っていくのか?

モデルエージェンシーや国際的な契約の助けを借り、若い女性モデルたちは、自分の住む街から数千キロ離れた場所でも仕事をしている。野望を持つモデルはたくさんいるが、成功を収め、外国で活躍し続けることができるモデルはそう多くはない。日本で評価されるのはどのようなモデルなのか、またなぜ多くのモデルたちがほかでもない日本に来たがるのか、「スプートニク」がロシア出身の人気モデル、きみちゃんを取材した。
名前にまつわる話
きみちゃん、小林喜美子、アナスタシヤ・ジトコワ・・・すべて1人の人物の名前である。日本にやってくる多くの外国人モデルとは異なり、きみちゃんは、日本について、またその伝統についてなにも知らずに、ただ日本のポップカルチャーとアニメが大好きで、どんな日本のしきたりにも慣れる決意でここに来た。
「きみ」というニックネームはコスプレに熱中していたときにつけたものだったが、その後、そのニックネームに、モデルエージェンシーのロシア人マネージャーが「子」を付け加えて、日本的な女性の名前「喜美子」にした。この短くて覚えやすい名前は、ロシアのマネージャーにも、ヨーロッパのマネージャーにも、日本のマネージャーにもとても気に入られ、次第に、アナスタシヤ・ジトコワという本名より、大々的に使われるようになった。日本の仲間たちはそのことを楽しんで、新たな名前、「喜美子」のハンコを作ってくれたほどだという。


「仕事を始めたのは18歳のときです。以来、ヨーロッパでもアジアでも仕事をしました。日本、韓国、中国、香港、台湾、タイ、イタリア、フランス、ドイツ、スペイン、スイスなどに行きました」。
きみちゃんはおよそ2年の間に、8〜9回、日本を訪れたが、その間に数えきれないほどの仕事のチャンスを手にし、さまざまな契約を結びながら、友人を見つけ、日本人の彼氏と付き合うという経験もし、そして日本人の「ママ」までできた。そのすべてを順を追って聞かせてもらった。
日本のモデル業界はもっとも心地よいところ
きみちゃん曰く、日本のモデル業界は、日本にいる外国人モデルが気に入るようすべてが準備されているのだという。

「一度でも日本で働いたモデルたちがまた日本に戻ってきたくなるように全力が注がれています。モデルたちは、喜びを得るために日本に来て、ついでにお金を稼ぐのです。日本はモデルにとても快適な条件を用意してくれます。ですからロシア語圏のモデルの間では、日本での仕事に誘うときには「おばあちゃんのダーチャに行くように」声をかけるのです。日本ではわたしたちはとても大事にしてくれますし、助けてくれ、気にかけてくれます。国民的特徴もあります。たとえば、日本人はけして遅刻しませんし、朝食、昼食、夕食を抜いて仕事をすることはありません。生産性が落ちるからです。しかし、それらのことにはすぐに慣れます」。
一方、アジアの市場から日本に行くのはかなり難しいという。競争が激しく、市場が小さいためである。また日本では、実際には25歳以上なのに、外見は25歳以下にしか見えないという特殊な特徴を持つモデルが好まれるという。しかし、実年齢が25歳以下だとなかなか契約してもらえないのだそうだ。この矛盾のせいで、外国のモデルはなかなかオーディションを通過できない。
しかも、ヨーロッパやアメリカで経験を積んだトップモデルも、日本に招かれた場合にはオーディションを受けることになるのだという。日本ではクライアントが直接その人物を見て、モデルを選びたがるからである。有名なモデルは往々にしてオーディションを受けることを好まないため、日本に行くには妥協を余儀なくされる。
きみちゃんは、日本で働いた5〜6年の間に、日本のモデル業界へのアプローチが変わりつつあることに気が付いたという。

「チームのほとんどのメンバー(カメラマン、スタイリスト、メイク)が日本だけでなく、ロンドン、パリなどで活躍しているため、ヨーロッパでの撮影を見てきた経験を有しています。多くの日本のブランドは、今、いわゆる日本的なかわいさではなく、欧米でもかっこよく見せることを目指しています。その上で、日本的なイメージや雰囲気を残し、どの国にもない独特のスタイルを作り出しています。それはときに他のアジア諸国では真似しようとしても、うまくいかないものです」。
現在、きみちゃんが所属しているエージェンシーは、社会に対するメッセージを積極的に発信しており、平等、尊敬、インクルーシブなどといった価値観を広めており、それがプロジェクトにも反映されている。そこで、目立った外見をしたモデルだけでなく、特別な価値を具現しているモデルが招かれることが多い。そしてモデルたちの容姿にも、同僚との一種独特な関係の中にも、自由さや大胆さが感じられる(タトゥーを入れたモデルや有色人種のモデルを初めて起用したのもこのエージェンシーである)。オフィスでは誰も敬語を使わず、社長もモデルたちと対等な関係を持ち、友好的な態度を示す。社長は、きみちゃんのことを「ロシアの娘」と呼び、旅行に同行させることもあるという。きみちゃんは、エージェンシーの仲間たちの間の温かい関係が、小さなエージェンシーを発展させ、競争力を持てるようになっていると確信している。

モデルの追っかけ

「日本に来る外国人モデルの中で、自分がどんな国にやってきたのかということをちゃんと理解している人は少なく、なかなか友人を作れないということがあります。しかし、モデルが好きでモデルを追いかけている日本人もいます。モデルと付き合いたいという英語を話す日本人です。こうした人たちは、新しいモデルのサイトをチェックし、モデルがよく行くおしゃれなレストランに足を運びます。ヨーロッパやアメリカで留学したり、仕事をしていたなどの理由で、外国で慣れ親しんだヨーロッパ的なざっくばらんな人間関係のヴァイブを感じたいのかもしれません」。
一方で、きみちゃんは、だからと言って、こうした日本人が外国人女性と長期的に付き合えるというわけではないと指摘する。問題は言葉の壁だけでなく、文化の特異性にもある。
「その日本人が、ヨーロッパ的な生活をしたいと思ったとしても、ヨーロッパ人ではないのです」。
「色眼鏡で見られることはある」
きみちゃん曰く、日本にきたすべての人が最初に実感するのは、日本は自分を丸ごと抱きしめてくれる、全面的に受け止めてくれる国のような気がするということだという。
「英語を話せば、皆、丁寧な快適なサービスを受けることができますし、日本に外国人に対する敵対心などというものはありません。ですから英語を話すモデルたちは困難がそれほどないのです。最初はエージェンシーがすべて代わりにやってくれますし、しばらくすると、英語を話す日本人の彼氏がその役目を果たしてくれるようになります。彼らは言葉の泡の中にいます。日本での彼らの世界は楽しくて、表面的なものです」。

しかし数年間日本で働いた後、きみちゃんは、日本語を話す外国人にとっては、日本はおとぎ話のように素晴らしいものではなくなるということを理解した。

「何か揉めごとがあると、何も関係ないことに対しても、ときにはまったく何もしていない場合でも、外国人だからという理由で非難されたりすることがあります。わたしもそのようなことで嫌な思いをすることもあります。ただ最近は、ヨーロッパに留学したり、ヨーロッパで働いたりすることが多い若い世代のおかげで多くのことが変わりつつあります」。

きみちゃんは、日本が好きだという気持ちは、仕事で日本に行くようになるずっと前からあったものだと話す。そして、アニメに夢中になり、日本語を学びたいという気持ちになったのは、自分自身の選択であり、外国の文化に合わせたいからではなかったという。
きみちゃんは、予想できない困難があるとはいえ、近々、今度はPR業界で仕事をするため日本に移住する計画だという。きみちゃんは、モデルとしてのポテンシャルはもう形にすることができたとして、今後は大好きなエージェンシーを発展させ、日本の健康的な価値観を宣伝していきたいと話している。
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